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【コミカライズ第2巻6/27発売】ルベウスの魔女とアルスマグナ 〜乙女ゲームのアンチヒロインは世界の滅亡を回避したい〜  作者: 阪 美黎
第4章 ルベライト公女の求婚

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お茶会への誘い(4)

 輝かしき元王子の登場に、アウロラの目は光暈を起こす。

 ま、まままま、眩しい!グロリア様が美し過ぎて直視できないわ……!

 魔法学校に入学してからそれなりに時間が過ぎているはずなのに、アウロラは彼の美貌に未だ慣れることができない。

 アウロラの眼が眩んでいる間に、兄は妹の手を取り、軽く指先に挨拶をする。

「お茶会へのお招きありがとう、クラリス」

「ふふ、わたくしのお茶会へようこそお兄様。楽しんでらしてね」

 幼少期からグロリアの美貌に慣れ親しんでいるクラリスはどこまでも自然だ。

 その足でアウロラの元まで来ると、彼は軽く身を屈ませて、アウロラの手を取った。

「ごきげんよう、ルベウスの姫」

「ご、ごきげんよう、グロリア様。…あの、えっと、お邪魔しております」

 指先に挨拶を受けさらに動揺するアウロラは、やっと残りの席が誰のものか理解をした。

「このままではあなたに失礼だと思って、お兄様をお招きしましたの」

「姫君たちの語らいに、私が水を差すのではないかとも思いながらも……妹たっての願いとあらば逆らえず、同席することをお許しいただきたい、アウロラ嬢」

 薄っすら苦笑するグロリアは、執事の手を借りて席に着くとアウロラに告げた。

「い…いいえいいえ!むしろ…わたくしがご一緒してもよいのでしょうか」

 腰が引けているアウロラに対し、クラリスは身を乗り出す。

「このお茶会のお客様はアウロラなのですわ!ですからアウロラがいてくれなくては困るのです!そうですわよね?お兄様っ!」

「うん、私とクラリスでアウロラ嬢をしっかりおもてなししなくてはならないな」

 ピンクダイヤモンドとブルーダイヤモンドの曇りなき眼がアウロラに向く。

「……は、はい。どうぞよろしくお願いいたします」

 これ以上の遠慮は不敬と捉え、アウロラは居心地悪く頷いた。

 グロリアの登場で緊張するアウロラの表情を横目に、クラリスは心の中で詫びる。

 ごめんなさい、アウロラ。

 実は、今回のお茶会……他のご令嬢は最初からひとりも誘ってなんていなかったの。お兄様があなたとゆっくりお話できる機会を設けたかったの。だって魔法学校ではとても難しいのですもの……。

 グロリアのアウロラに対する好意は以前の舞踏会で鮮明となった。グロリアは女性から数多の好意を寄せられているが、彼は立場を重んじて妹のクラリス以外の異性と公の場でダンスを踊ることはなかったのだ。

 そのグロリアが立場も人目もはばからず、アウロラにまっすぐダンスを申し込んだあの時、クラリスは感動で胸が震えた。

 はじめて兄が、自分を押し殺さず自由意志を示した瞬間だったからだ。

 グロリアに近づきたいがためにクラリスを利用しようとする貴族、富豪令嬢たちの浅ましさと比較して、アウロラはどこまでも謙虚で誠実な人柄。兄が思いを寄せる相手としてはこれ以上はない理想の女性だと判断している。

 兄と友人を近づけることができるのは、自分を置いて他にはない。

 兄の気持ちを応援する使命を燃え上がらせたクラリスは早速行動を開始した。護衛騎士のノックスにも協力を仰ぎ、魔法学校内でふたりの遭遇率を高めようと試みる。ごくごく自然な出会いや交流を演出するために。

 が、しかし。クラリスはノヴァのガードを甘く見ていた。

 彼女があの手この手で兄とアウロラを近づけようとすればするほど、ノヴァは巧みにアウロラを誘導して遠ざける。ノックスに至っては、まるで背中に目でもついているかのように付け入る隙がないと、別の意味でも彼に脅威を感じたようだった。

 ノヴァの鉄壁の防御を前になすすべなく長期休暇を迎えるかと思われた矢先……彼女にとっての朗報が舞い込んだ。

 なんと、最大の障壁であるノヴァが国外へ外商に出るというではないか。つまりしばらくはアウロラの傍を不在にするということ。

 この好機(チャンス)を逃してはならない!……とクラリスは握りこぶしを作って意気込んだ企みが、今回のお茶会計画なのである。

 令嬢たちとのお茶会であることを疑わずオルテンシア城までやって来てくれたアウロラには後ろめたさを感じつつも、クラリスは自己の決断を肯定する。

 お兄様のことをアウロラにもっと知ってもらいたいのだもの!あなたを騙す形になってしまったけれど、わたし、後悔はしてないわ!(異国へお仕事に出かけてくれてありがとうノヴァ!)

 目論見が成功し、クラリスの鼻息は自然と荒くなる。

「……アウロラ嬢は、この休暇は如何お過ごしか」

 お茶会が始まり、グロリアがアウロラに話しかける。

「わたくしは、その……鍛錬に励んでおります」

 こんな時に披露する優雅な話題のない自分が情けない。

「鍛錬とは、ああ、魔法の。……なるほど、あなたは自己を高めることに余念がないのだな」

 勘違いが加わりつつも好意的に受け取られ、微笑まれる。

「あ、ありがとうございます…」

 実際は鬼教官ローレンスの剣術指導なのだが。

「グロリア様は如何お過ごしなのですか?」

 ここですかさずアウロラが尋ねると、彼は微苦笑する。

「私もあなたに近しいかな。ルーキス・アダマス家としての社交以外では、ほとんどこのオルテンシア城にこもって、休暇前の魔法試験で披露した『ライトニングアロー』の精度や飛距離を高めるための研究を」

 ルーキス・アダマス家が得意とするのは光魔法。魔法の杖を媒介に、魔法で弓を作り出し光りの矢を放つ。遠距離攻撃から、範囲攻撃まで多彩でゲームでも彼の弓矢攻撃は重宝したものである。

 ちなみにクラリスも対アウロラ討伐用宝剣『聖グラディウス』を除けばグロリアと同じ魔法を用いるが、どちらかといえば祈りによる回復魔法や浄化魔法の方が得意なようだった。

「二年生は攻撃魔法の披露ですものね。わたしたち一年生は造形魔法の披露でしたわ」

「ええ、クラリス様の光るふわふわのウサギさんがとても可愛らしくて…!」

 アウロラの瞳が輝く。

 魔法使用のために作られた特殊な講堂でひとりひとり自由に造形魔法を披露したのだが、クラリスは光魔法でぴょこぴょこと跳ねるウサギを何匹か作り出し、クラスメイトをほのぼのと穏やかな気持ちにさせた。アウロラも試験でさえなければ彼女が作り出した愛らしい七色のウサギを嬉々として追いかけていたと思う。

「ふふ、ありがとう。でも、お兄様…、アウロラの造形魔法はとてつもなく美しかったのですよ!わたくし、あんな素敵なものを見たのは初めてで!」

 興奮気味に語る妹に、グロリアは軽く目を見開く。

「ほう…?クラリスがそれほど言うからには、アウロラ嬢はさぞ美しいものを作り出したのだろうな」

「い、いえ…あの、それほどでも……」

「まあ、謙遜なさらないで!……ああ、そうだわアウロラ。お兄様にも見せてくださらない?あの素晴らしい造形を」

「えっ、こ、ここでですか?」

 唐突な提案にアウロラはたじろぐ。

「ええ!是非ともお願い、アウロラ」

 愛らしい表情で懇願するように見つめられ、困りつつも屈する。

 世界に愛されしヒロインの『お願い』に逆らえはしない。

「では……僭越ながら」

 そっと周囲や頭上に視線をやり範囲を決めると、指を振って合図する。

「フロストシャンデリア」

 言葉は意志となって魔法陣を作り出し、おびただしい冷気と共に豪奢なシャンデリアがテーブルの上に吊り下がる。さらに彼らを囲むように四方に燭台型のシャンデリアも生成され、たちまちひんやりとした空気に包まれる。

 現れたシャンデリアはどれもクリスタルのように輝きを放ち、魔力純度の高い氷結魔法であることを知らせていた。

「……これは……なんと華麗な…。確かに素晴らしいな…」

 一級の芸術品ではないか。

 グロリアはアウロラが作り出したシャンデリアを驚きを交えて凝視し、呟く。

 造形魔法は術者の精神が如実に反映される魔法だが、彼女のそれは造形に一分の狂いもない。一流の職人が作り出したクリスタル細工だと紹介されれば、納得してしまうほどの完成精度だ。

「そうなのです、お兄様。試験では講堂いっぱいにシャンデリアが吊りさがって……それはもうきらきら輝いて幻想的でしたわ!この通り、アウロラの造形は本当に素晴らしくて!」

「………」

 褒めちぎられてアウロラは恥ずかしくなる。

 試験は造形魔法なら種類や属性を問わないということで彼女は手っ取り早くフロストシャンデリアを披露した。

 それまで学校では魔法使用を最小限にとどめていたアウロラの真の実力を知る者はない。はじめて晒された彼女の魔力は無数のシャンデリアという形をとってクラスメイトを圧倒し、改めて彼女がルベウスの魔女であることを周囲に知らしめる結果となった(イリアは「ボクはずっとこういうのが見たかったんだよぉ、ルベちゃん!」と大歓喜した)。

「これを若年で、杖もなく難なく作り出してしまうとは……あなたはやはり、大魔女の素養をお持ちなのだな」

「いえ……わたくしなど、まだまだでございます…」

 グロリアに尊敬の眼差しを向けられ、アウロラは紅潮しながら軽く首を振る。

 ルベウスの魔女としては、半人前もいいところなのだ。ようやく歩き出すことを覚えた幼子と同じ。

 恥じ入るアウロラにグロリアの好感度が上がる。

 これだけの魔法を易々と披露しておきながらアウロラは謙虚なまま。

 造形魔法がこの精度であるのならば、攻撃魔法の威力や範囲は彼の想定をこえるだろう。普段、彼女が魔法を使用することに消極的なのは、己が魔力が他者に与える心理的影響を考慮してのことかもしれない。

 国家防衛の要であるルベウスの魔女として正しい行いかは別にして、皆を圧倒する力を持ちながら傲ることなく自然体でいるアウロラを彼は好ましく思う。

「……あなたはなんと思慮深く、慎ましいのか」

「え…?…あ、あの……あ、ありがとうございます」

 妙に感じ入った様子のグロリアを不思議に思いながら、とりあえず礼を述べた。

 そこからグロリアが王侯の嗜みである狩りへ出かけた話や、今読み進めている本の内容などをアウロラに語り、彼女も興味深そうに頷いては私感を述べ、ふたりの会話は和やかに進む。

 クラリスはティーカップ片手に、満面の笑みを浮かべる。

 ああ、お兄様がとても楽しそうになさっているわ。そうよ、わたしはこれが見たかったの!やっぱりアウロラを招いてよかった!

 一通りお茶会を終えたらば、次は彼女をカードゲームに誘うのだ。3人で仲良くカードゲームに興じて、より兄とアウロラの距離を縮める作戦である。我ながら目眩がするほどの完璧な計画だ。

 心躍らせながらクラリスがお茶に口をつけていると、庭園がにわかに騒がしくなる。

 ガサガサと茂みが揺れる音や、使用人たちの落ち着かない足音が響き、クラリスは怪訝に眉を寄せる。

「……何事か」

 同じように眉をひそめるグロリアの問いかけに執事が様子を伺いに行こうとした瞬間、茂みから何者かが飛び出してくる。

「…?!」

 動物か?

 グロリアが少女たちを守ろうと咄嗟に立ち上がると、そこにいたのは服や髪に植物の小枝や葉をつけた状態の子供だった。

 年の頃は10歳未満の少年。愛くるしい顔立。ふわふわのプラチナブロンド、大きな瞳はブルーダイヤモンド。

 髪や服装の乱れはそのままに、彼は笑みを浮かべる。

「見つけました。あにうえ、あねうえ、ユリアンが遊びにきたのですよっ」

 ユリアンと名乗った少年はなぜか誇らしげに小さな胸を張る。

 彼の持つ色彩はグロリアやクラリスに類する血筋であることを色濃く示していた。

すみません……まだこのエピソード続きます。新キャラクター?が出てきましたが。

短くてもいいから更新していくスタイルに変更したので、エピソードの枝番ばかり増えていきそうですね(汗)。次回で終わらせられるかわからないのですが(多くてもあと2話です)、そろそろノヴァさんを出してあげたいです(読者さんに忘れられちゃうよ…笑)。

正ヒロインであるはずのクラリス嬢を今までしっかり描いてこなかったので、実はこういう子だってことを本編内で表現できてよかったです。妙な頑張りを発揮する可愛い子です(笑)。

アウロラさんのあずかり知らぬところで行われていた攻防戦(笑)の一端が垣間みえていたらいいなと。クラリスの行動にステラさんやラウルスさんとかは気づいていたんだと思いますが、たぶん、微笑ましい気持ちで眺めていたんじゃないかなと思います(半分生暖かい眼差しだったかもですが。笑)。

試験のときは杖を出さなければならないので、アウロラさんはサイドアーム的な杖を用意して臨んだことにしています。布団叩きは試験向きじゃないということで。

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