表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ第2巻6/27発売】ルベウスの魔女とアルスマグナ 〜乙女ゲームのアンチヒロインは世界の滅亡を回避したい〜  作者: 阪 美黎
第4章 ルベライト公女の求婚

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/63

お茶会への誘い(3)

 クラリスと共にやってきたオルテンシア城の庭園は一面バラ景色で、今が盛りとばかりに咲き誇る。

 四季咲きのバラは隅々まで手入れが行き届き、お抱え庭師の心遣いや腕の良さを窺い知ることができた。

 奏楽堂も兼ねる大型の東屋(ガゼボ)から庭園を眺め見て、アウロラはため息を漏らす。

「素敵なお庭ね。このままずっと眺めていたくなるわ」

「ふふ、ありがとうアウロラ。このバラ園はわたしやお母様も大好きなの。王都のお屋敷のお庭ほど広くはないけど、可愛らしさがぎゅっと詰まってるでしょう?」

 クラリスは嬉しそうに続ける。

「お母様はわたしを産んでからしばらく体調がすぐれなかったの。静養のためにこのお城で暮らしていて、わたしも王都のお屋敷よりこちらでの暮らしの方が長いくらい。だからオルテンシア城に戻ってくるとほっとするの」

 ゲームのシナリオ上でも語られる彼女の生い立ち。

 閑静な郊外の屋敷でのびのびと育った彼女は、姫君教育が苦手なお転婆娘になった。ヒロインとしての親しみやすさはこの城での生活で培われたのだ。

「……いわゆる『実家の安心感』というものね。わかるわ。わたしもカントリーハウスの方が落ち着けるから」

 共感するように頷くと、クラリスは目を輝かせる。

「アウロラが育った森のお屋敷ね。なんでも代々のルベウスの魔女たちが張り巡らせた難攻不落の結界だとか!わたしもこの目で見てみたいわ、お勉強になるもの」

「ええ、是非遊びに来て。あなたをお招きするなら、お屋敷も華やかに飾り付けをしなくてはいけないわね。その時はステラもお誘いしなきゃ」

 クラリスやステラが結界に拒まれる可能性は低いだろうと判断し、アウロラは微笑む。

「わぁ!とっても楽しみ!ステラと一緒に訪問させていただくわ!約束よアウロラ」

 頬を染めて心底嬉しそうな笑顔を見せるクラリスの可愛らしさに震える。

 わたしが攻略対象キャラクターだったら好感度右肩上がりよ。この笑顔を見てときめかないなんてありえないもの。

 それにしても……感慨深いわ。ヒロインのクラリスをお家に招くお話ができるようになるなんて……。

 彼女と友情を築けたのはとても嬉しい。その分、アウロラの肩には別の厄災と使命が重くのしかかっているわけだが……。

「………」

「?…どうしたの?アウロラ」

 不意に黙り込んだアウロラを気にして、クラリスが顔を覗き込んでくる。

 すぐに笑顔を作り、誤魔化しを口にする。

「えっと、お招きするときのお菓子は何がいいかしらと考えてたの」

「ふふ、アウロラったら気が早いわ。まずは、わたしのお茶会を楽しんで。ね?」

「そうね」

 せっかくのお招き。今はお茶会やクラリスとの交流を楽しまなくちゃね。

 アウロラは素直に頷き、クラリスのメイドたちが支度したお茶会のテーブルへと移動する。

 パステルカラーの愛らしい食器が配され、ティースタンドには軽食やケーキ、菓子類が美しく盛られていた。

 用意されている席が3つあり、アウロラは軽く首を捻る。

 ひとつはクラリス、もうひとつはアウロラ。では残るひとつは誰のためのものなのか。

「さぁ、アウロラ。あなたは主賓席へどうぞ」

「ありがとうございます、クラリス様」

 使用人達の前なので、アウロラはへり下る言動に戻す。

 クラリスは上座にアウロラを導くと、アダマス家に仕える老練な家令が彼女のために席を引き、座らせる。次にクラリスが腰掛けると見計らったようにアウロラが持参した菓子がコンポートに乗せられ運ばれて来た。

 アウロラがこの日のために用意した菓子はクッキー。もちろん、ありきたりなものではない。手間暇のかかったロシアンクッキー(ロシアケーキ)を模した焼き菓子だ。

 こちらの世界にはロシアンクッキーのような焼き菓子が存在していなかったため、アウロラはノヴァに『お願い』をして作り出してもらった(イラストを描いてあれこれ詳細を示し、説明をした)。ノヴァをして、三度も試作を繰り返し誕生したそれ。

 いくつもの絞り機を用いた複雑さ、ジャムやクリーム、チョコレートにナッツ、メレンゲ、ドライフルーツなどを用いた華やかな外見のクッキーにクラリスの瞳は子供のように輝き、釘付けになった。

「……こ、これは……クッキーなの?!…凄いわ、まるでそう…宝石、ジュエリーのよう。素敵ね!食べてしまうのが勿体無いくらいに」

 クラリスの絶賛を受けて、アウロラは少し得意になって告げる。

「このクッキーは、『ブローチクッキー』という名前の焼き菓子ですわ」

 ロシアンクッキーでは名称として通じないので、姿形からそのようにアウロラが命名した。

「ブローチクッキー……!ええ、確かに。これは襟飾り(ブローチ)ですわね。こんなに素敵で可愛らしいクッキーはじめて。あなたが作ったの?」

 瞬きを繰り返すクラリスに、アウロラは微苦笑した。

「いいえ。ですが、実はこれから『ホテル・サフィレット』でお土産のひとつとしてカフェに置く新商品で……今日はそのお披露目に持参いたしました」

 彼自身元々凝り性という側面もあったが、ノヴァはアウロラの要望に全力で応えるため作り上げたに過ぎず、販売目的ではなかった。見た目と味の完成度の高さに舌を巻いたアウロラの鶴の一声によって、ホテルでの販売展開企画が通ってしまった。ノヴァとしては複雑極まりない。

 ちなみに商品化に際し、化粧箱はジュエリーケース風のデザインをアウロラが提案し、採用されている。

「まあ、ホテルの!……このお菓子はきっとすごく人気が出ると思いますわ。サフィルスは本当に器用でお仕事上手ですわね」

 感心顔のクラリスにアウロラは微笑んだ。

「勿体無いお言葉です」

 本当は。姉としてノヴァが作り出したことを目一杯、全世界に向けて声高に自慢したいが、当人から強く口止めされているのでぐっと我慢なのだ。彼はそのあたりの自己主張を好まない。根っこが職人気質だからなのかもしれないが。

 新作指輪の件も含め、宣伝も兼ねてブローチクッキーも令嬢たちにそれとなく噂を流してもらえたらと欲張ってしまったが……うまくはいかないものだ。

 でも、クラリスがクッキーを喜んでくれたのなら、成功よね。ノヴァが戻ってきたら教えてあげなきゃ。

 アウロラなりに満足感を得ていると、庭園の奥からお茶会の席に近づく人影に気づく。

 濃いめのプラチナブロンドの髪とブルーダイヤモンドの瞳を持つ青年。

 白を基調にした宮廷服は比較的軽装ながらも、絢爛な刺繍が施され元王族の威厳を湛えている。彼は優雅な足取りでふたりのお茶会の席までやってくると、神がかりした美貌に微笑を浮かべ、すっきりとした唇を開く。

「ごきげんよう、麗しの姫君たち」

 太陽の光とはまた別の輝きを纏った、圧倒的光属性の貴公子。

 クラリスの美しき兄、グロリア・ルーキス・アダマス。その人の登場である。

予定を変更してお茶会エピソード、もう1回続きます(思っていたより長くなりそうだったので区切ることにしました)。

ロシアンクッキー(ロシアケーキ)ならぬブローチクッキー。たぶんわたしたちが想像するロシアンクッキーがノヴァさんの感性と技術でとんでもない進化を遂げたお菓子になったのだと思います。

このブローチクッキーですが、別で短編をご用意するつもりでいます。ので、先に本編で顔出しさせておきました。当の短編はいつ出せるかわかりませんが…(その時をお待ちいただければ…!)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ