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復活のP

 賢人超会議――


 世界中から名だたる知者賢者が集まり、学説などを発表する年に一度の学会の総称だ。


 王都の東、海岸沿いに位置する学術研究都市マリクハに、世界中から叡智を求めて人々が押し寄せるという。


 大神樹管理局の設備開発部も教皇庁を代表して参加するのだと、メッセージが添えられていた。


 知らんがな。


「私たちには関係の無い話ですし。さて、取り付けですね。マニュアルが図解入りなのは助かります」


 ぴーちゃんとともに教会に戻った翌日の朝、大神樹の芽を通して彼女の右腕が取り付けマニュアルと一緒に送り届けられた。


 ついでに一筆添えられた情報については、見なかったことにしよう。いかにもラクシャに狙ってくださいといわんばかりの会議だが、防備も警備もきちんとしたものだろうし。


 一応、ラクシャの能力についてはこちらから教皇庁に報告済みだ。この先の対処は本部だいせいどうの管轄である。


 聖堂は朝の静寂に包まれ、赤いカーペットの真ん中に少女――ぴーちゃんが立つ。


 シスターの神官服を脱ぎ、一糸まとわぬ姿だ。新雪の平原のように肌はきめ細かく美しい。ただ、ダミーの右腕だけはだらりと力無く下がったままだった。


「右腕の接続を……て、手伝っていただけますわよね?」


 俺に頼ることを恥ずかしがる元メイド少女。その前に恥ずべき事があるだろうに。


「どうして脱いでいるのですか?」


「服を着たままでは、右腕の再接続作業を実行しづらいですもの。それくらいは察してくださいませ」


 怒ったように口を尖らせる。といっても本気ではなく、猫がじゃれつくような感じだ。


「せめて下着だけは着けていただきたいものです。全裸はいけませんよ全裸は」


「ご主人様にそれを言う資格はありませんわ」


「私はきちんと対処しましたから」


 ツンと上向きな胸を揺らすシスターゴーレムに、俺は後光魔法をかけた。


 対処完了。心の中で指差し確認ヨシ。


「早くなさってくださいませご主人様。でないと、ステラ様が乱入なさって昨日の二の舞いでしてよ」


「私に命令するようになるなんて、ずいぶんご立派になられたものです」


 そっと胸に左手を添えて、ぴーちゃんは「当然ですわ。わたくしは優秀にして有能な、立派な“最後の教会”所属のシスターメイドゴーレムですもの」と、誇らしげに笑った。




「少しズレていますわね。あっ……もう少し下ですわ。穴がありますでしょう。そこ……ゆっくり……んっ……ちょっとキツイですわね」


「潤滑が足りていませんね。入り口に先端を挿入しただけで、こんなに締め付けられると……」


「お、おおお大きすぎますわ。こんなの規格外でしてよ! あっ……ご、強引にねじ込むと……壊れちゃうから……らめっ……らめぇ!」


「声が大きいですよ。まったく、大神樹の芽の前でシスターがはしたない。少しこすって慣らしていけば、ほら身体との相性はぴったりじゃありませんか」


「そんな言い方およしになって……はうっ! 来ちゃう! 一つになっちゃう! 右腕アクチュエーターに動力が伝達してしまいますわあああああ!」




 以上をもってゴーレム少女の右腕は無事再接続されたのだが、しばらく、ぴーちゃんの俺を見る目が「ケダモノ以下」になったのが不思議でならない。


 こちらはマニュアル通りにしただけである。解せぬ。




 ぴーちゃんが復調し、彼女は俺と一緒に聖堂の清掃を行った。


 朝食も二人、テーブルを囲んで一緒に食べる。作るのは彼女の仕事で、食器を洗って片付けるのは俺の分担となった。


 それから聖典の解釈について、聖堂で勉強会を行っていると……




『おはよーセイクリッド! 早く起こして~!』


『アコ殿、もうお昼も近いでありますよ! その言い方だと、寝ぼすけさんみたいでありますよ?』




 ようやくポンコツから片足だけ洗った勇者と神官見習いが、大神樹の芽で復活待ちをしていた。もう片方の足はダメッ子沼にズブズブ浸かりっぱなしのようだ。


 聖典を閉じて俺とぴーちゃんはうなずき合う。


「「蘇生魔法」」


 俺がアコを、ぴーちゃんがカノンを担当する。


 光が集まり、二人分のシルエットを形作って爆ぜる。


 蘇生の成功を確認すると、ぴーちゃんは半歩下がって、俺に司祭の仕事を譲った。


「ふえー。どうにか戻ってこられたね」


 目を開くなり、開口一番アコが眉尻を下げた。


 戻るのを目的にするんじゃない。


 ダメッ子勇者の隣で溜息を吐くカノンに俺は訊く。


「半蘇生魔法を使えるようになったわりに、ずいぶんとお早いお戻りですね」


 カノンがぶんぶんと首を左右に振る。


「無茶言わないで欲しいであります! 消費する魔法力も自分には大きすぎる上に、戦闘中だと蘇生は難しいでありますよ!」


 特訓で自信をつけて、より高い目標に挑んだ結果というわけか。


「早くお尻の殻がとれて、見習いではなくきちんとした神官になれるといいですねカノンさん」


「が、がんばるであります!」


 神官見習いはビシッと敬礼する。エノク神学校高等部二年だが、先日の特訓で飛び級卒業できるくらいには鍛錬したので、一人前になれるかどうか、あとは本人のる気……もとい、やる気次第だ。


「えー、では……おお死んでしまうとは以下略。アコさん、本日こそ多額とまではいいませんが、きちんと寄付をお願いいたします。お金が稼げるくらいには強くなったのですし、鵜飼いの鵜のように私に……もとい、この教会に献金してくださいね」


「ひ、ひどいやセイクリッド! あー、けどじゃあコレね」


 文句を言いながらアコはチケットを二枚手にして、ヒラヒラとさせた。


「なんですそれは?」


 黒い瞳をキラキラさせてアコは一枚を俺に手渡した。


「なにか食べ物がおちてないか街を探索してたらね、いっぱい福引き補助券が手に入ったんだ。で、福引き引いたら当たったんだよねー! 二枚も!」


 アコが手にしたチケットには「賢人超会議VIP招待券」と記載されていた。


 一枚で五人まで入場参加できるのだとか。さらに街一番の高級宿の食事付き宿泊券も兼ねているとなれば、開催期間中は宿も取れなくなりキャンプや野宿が当たり前になるマリクハでは、文字通りプラチナチケットだ。


 ただでさえ不幸体質なアコが一生のうちで残された幸運ラックを使い切ってしまった件。


 カノンが眼鏡のレンズをキランと光らせた。


「最新の光弾魔法理論の発表があるのであります! 他にも黒魔法の研究もあるでありますよ! きっとステラ殿も喜ぶでありましょうな!」


 人類の叡智で魔王の強化を促す神官見習いが色々と残念すぎる。


 俺、ステラ、ニーナ、ベリアル、ぴーちゃん……留守を案山子のマーク2に任せると、ちょうど人数もぴったりだった。


 しばらくご近所付き合いサービスを欠かしていたことだし……。


 俺はアコの手からチケットを一枚引き抜いた。


「では、今回はこちらのチケットを寄付代わりとして収めていただきます」


 アコがうんとうなずく。


「よかったぁ。実はゴールデンタイタンを倒したあとだったから、お財布パンパンだったんだよね!」


 一体倒せば王都の高級スイーツを毎日大人買いしても、一年は楽しめるというあの激レア金満ブルジョア魔物を倒したというのか。


 カノンもニッコリ笑った。


「運がよかったでありますなアコ殿! セイクリッド殿に鍛えてもらってからというもの、幸運がドッと押し寄せてきっぱなしであります」


「今夜は王都の一流ホテルで痩身エステコース付きの宿泊プランだね!」


「ネイルサロンもばっちり予約でありますな! 女子力磨きまくりでありますよ!」


 王都のスイーツ換算した俺が言うのもなんだが、装備に投資しないのか。


 どうやら二人して(この世から)遠くへ逝きたいようだ。


 そうだ、死地へ転送しよう。一番危険な場所を……と、思ったが、そうなるとこの教会の目の前にある魔王城前がぴったりだった。


 今回ばかりは門番ベリアルを応援せざるを得ない。やっちゃえ上級魔族(アークデーモン


 ずっと沈黙を続けていたシスターゴーレムが俺の耳元で囁いた。


「よからぬことはなさらない方がよろしいですわよ」


「おや、ずいぶん察しがよくなりましたね」


「ご主人様が悪い事を考えていると、口元が緩みますもの」


 人に言われるまで気づきもしなかったな。以後、気をつけよう。


 アコからチケットも受け取ってしまったことだし、今回は素直に二人を帰還させる……前に忠告だけはしておかなければ。


「お二人とも特訓でレベルが上がったのですから、それに見合う装備を調えるのを先になさってくださいね。無駄遣いも厳禁ですよ」


 アコがププッ! と、吹き出した。


「現金だけにね。いやーセイクリッドでもジョークを言うんだぁ」


 言ったつもりがないダジャレをなすりつけられた。カノンが哀しげな目で俺を見る。


「セイクリッド殿、ダジャレなんてオジサマに片足をツッコミつつあるでありますよ」


 哀れむな。冤罪えんざいここに極まれり。


「まったく……王都で構いませんね。転移魔法」


 魔法力の光がアコとカノンを包み込む。


「じゃ! 当日は現地で合流だね! ぴーちゃんもちゃんと来るんだよ!」


「それまで死なないようにがんばるでありますよ! では、ぴーちゃん殿もおたっしゃで!」


 楽しげに俺とシスター少女に手を振って、二人の姿は小さく爆ぜる光とともに聖堂から消えた。


 さてと……ステラの黒魔法強化に、ニーナの社会勉強にもなる修学旅行だが……鬼の保護者ベリアルをどう説得したものか。これが賢者の集まりでなければ、もう少し気が楽なのだが。


 ぴーちゃんが俺に告げる。


「心配ご無用ですわ。ラクシャが乱入しようというなら、今度こそ、わたくしが仕留めてさしあげましてよ。仲間を信頼なさってくださいませ」


 ゴーレム少女は自信たっぷりで、むしろこの機会に鬼魔族撃破も一緒にしてしまおうという気迫すら感じられた。

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