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フードの下には……

 一連のクラウディアの言葉を聞き終えて、マーゴの護衛をする美女軍団たちが、お互いに言葉を交わし始めた。


 先ほどマーゴに平手を受けた女戦士が、マーゴ側からニーナの側へと歩き出す。


 王子は狐につままれたような表情だ。


「ちょ、待てって! そっちは敵側だろ?」


「ノルンタニア王に仕えた戦士の娘として、お仕えすべきはあなたではないと悟りました」


 長身の女戦士に続いて、マーゴ護衛団は一人を残してニーナ側に回り、全員が地に膝を着いて幼女に跪く。


「はえぇ……クラウディアおねーちゃすっごい」


 驚くニーナだが、自身の出自よりもクラウディアの言葉の力がすごいと思っているらしい。


 結局、マーゴ側に残ったのはフードを目深に被って、顔も見えない少女が独りだけである。


 マーゴの右手からほとばしる輝きが、段々と力を無くし始めた。


 ノルンタニア出身者たちや、それに同情してマーゴの強硬論を容認していた人々が、このまま祈りを捧げることに迷い始めているのだ。


 無言で護衛の美女軍団は、ニーナを扇状に囲んでマーゴの前に立ちはだかった。


「この裏切りものどもがあああ!」


 怒りの矛先をニーナではなく元護衛たちに向けて、マーゴは幼女を放置すると、これまで従え続けていた美女たちを文字通り一蹴した。


 ニーナが止めようとする間もなく、あっという間の出来事だ。


 支持率が低下しつつあっても、なおマーゴの戦闘力はニーナを超えていた。


 たった独り、自陣営に残ったフードマントの少女を残して、ほかの全員を倒しきるとマーゴは肩で呼吸する。


「はぁ……はぁ……ったく、黙ってこっちについてりゃ良かったんだ。こうなったのも、裏切ったおまえらが悪いんだからな。自業自得で自己責任ってやつだし」


 今までの余裕が消え失せ、まるで痩せ狼のような凶暴な眼光でニーナを見据えると、マーゴは拡声魔導器に吼えた。


「いいかちびっ子。魔族は怖いんだ。襲ってくるんだ。人間を殺しに……弱い王じゃ誰も何も守れないんだぞ! こいつらみたいになるんだ!」


 足下に倒れた元護衛に言葉を吐き捨てる。


「みんなマーゴくんのおともだちじゃなかったの? いけんのそーいでケンカになっちゃうこともあるけど、こんなのひどいよ」


「ひどいのはこいつらだ! せっかく拾ってやったのに! 魔族の脅威からマーゴさまが救ってやるって言ってるんだ。従わないヤツは裏切り者だ!」


 幼女の頬に一筋の涙が落ちた。


「マーゴくん……本当は怖いんだ」


「な、なんでちびっ子が泣くんだよ?」


「あ、あれ……なんでかな……わかんない……けど……ニーナはね……」


 幼女のお尻に光が集い始める。マーゴに比べれば弱々しかった祈りの光が、徐々にだが確実に勢いを盛り返そうとしていた。


 幼女は胸の前に手を組んでマーゴの瞳をじっと見つめると、想いを言葉にした。




「ニーナは魔族、怖くないから」




 受け取り方はそれぞれだが、その言葉を魔族にも負けない勇気と捉える者もいれば、魔族とも手を取り合っていけるという友愛と捉えることもできた。


 取り乱したマーゴすら包み込むような幼女の器に、祈りが満ちる。


 マーゴは舌打ち混じりだ。


「なんか勘違いしてるけど、これって“武”の試練だから。そこまで言うならさ……いくらちびっ子でもぶっとばす。勝った方が王様だからな」


 それでもなお、王印紋の力はマーゴが上回っている状況だ。


 俺は自身にかけた呪いへの防御魔法の、最後の一つを解放しようとしていた。


 それが終わったところで、自分自身に呪いをかける。この身も心も魂までも、呪いという強い感情に捧げることで、元来持つ力の数倍か、数十倍かの力を生み出すのだ。


 代償はすべて。だが、すべてを掛けてでも守らなければならない。


 問題は、あと数十秒――最後のリミッター解除に時間がかかることだ。それまで身動き一つとれないのも、制約によって呪い耐性を得た代償だった。


 もはや、今ここにニーナを守れる者はなく、マーゴもニーナとの“遊び”をやめてしまった。


「つーわけで、変に抵抗するとかわいい顔がどうなってもしらないぜ」


「ニーナは負けない……負けないのです」


 マーゴがニーナに一歩踏み込んだ瞬間――


 その背中に魔法力を棒状にした、漆黒の剣(?)らしきものが打ち付けられた。


 独り、マーゴ側に残ったフードの少女が顔を上げる。


 (*´∀`*)


 フードの下から出てきたのは、見覚えのある仮面だった。その手にした黒い棒状の魔法力の塊は、俺の使う光の撲殺剣にもよく似ている。


 色は違うが、どうやら剣を模していても打撃属性らしい。さしずめ漆黒の撲刀といったところか。


 一歩踏み出すと同時に背後から打ち据えられて、マーゴが怒り狂った形相で振り返った。


「誰だかしらないけど、このタイミングで裏切るとかマジ……意味わかってんの?」


 仮面の少女はたじろぎながら返す。


「に、にに、ニーナに手を出すのはやめなさい」


 聞き覚えのある声がぷるっぷるに震えていた。どうやら、この戦いが始まった時からマーゴ軍に潜伏し、ずっと近くでマーゴを監視しながら、ニーナを守ろうとしていたようだ。


 怒りにまかせてマーゴが腕を跳ね上げるようにした。振り上げられた上腕に仮面の少女は軽々と吹き飛ばされて倒れる。


 フードから特徴的な赤毛がこぼれたが、角はない。尻尾も見せない。魔王どころか、魔族である痕跡を消すために、この少女は本来持つ力をほとんど失っていた。

深夜12時の更新につづきます~

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