30秒ごとにXゴールド
マーゴにそれ以上の不審な動きが見られなかった。何か罠でも仕掛けるようなら、大臣に難癖……もとい、念のためとお願い(物理)して一旦墳墓の確認をしてもらおうと思ったのだが、さすがのバカ王子も、ここで妨害を仕掛けてくるような事は無かったようだ。
最後の“力”の試練によっぽど自信があるらしい。
深い闇の中から地上に戻ったマーゴは、手の甲に浮かんだ王印紋を掲げて見せた。
「ま、これくらい楽勝ってやつ? さあ親愛なる王国民よ! このマーゴさまの闇をも恐れず振り払う、光のごとき勇気をたたえるがいい!」
胸を張って王子は高笑いする。
ちょっとした肝試しでそこまでふんぞり返るとは……と、思いはすれど、自信満々にアピールするあたりには、王者らしい偉容が垣間見られた。
未来の王となるべく育てられたのだろうか。結果、思慮深さとは縁遠い人格形成に至ったわけである。王都を離れ隠遁していたクラウディアが持っていないものを、マーゴはいくつも持っているようだ。
王子は続けた。
「この先、王国のリーダーに求められるのは類い希なる勇気に他ならないってわけよ。知者賢者はさ、専門家がずらっと揃ってるんだし。誰の意見を採用するか見極めて、ズバッと決断できるのがマーゴさまって感じだろ? そこはビシッとやってやるから、みんなおれについてきなよ」
“知”の試練が百点満点中の五点では、専門家の意見の是非をどうやって判断するのだろうか。おそらく、そういった事もマーゴは考えていないのだ。
「この決断力で改革を実行しちゃって、魔族なんか皆殺しにして王国をさらに発展させるからさ! マーゴさまを信じろ! ノルンタニアの借りを倍返しどころか百億万倍にして、魔王に叩き着けてやるんだぜ!」
煽りおる。今頃“最後の教会”に戻ったステラと、一緒に観ているであろうベリアルやリムリムがキレている姿が閉じたまぶたの裏に鮮明に浮かび上がった。
やめてくれベリアル教会内で魔獣モードに巨大化するのは。
暴れるなリムリム! 吸聖スライム散らかすんじゃあない。
あれ、なぜかロリメイドゴーレムのぴーちゃんまで、教会の長椅子を持ち上げて振り回し始めている。そんな気がした。
バカ王子の好戦性は魔王の座を狙う上級魔族と大差ないかもしれない。むしろ、魔王候補となら気が合うのではなかろうか。
王の位……か。
これはあくまで仮にだが、もしニーナが女王になった場合、王国の菓子作りが奨励されるだろう。だが、なにぶん甘い物が大好きなニーナである。行きすぎかねない過激なおやつ政策に歯止めを掛けるためにも、俺がニーナ女王のそばで執政の手助けをしなければ。
――ハッ。つい、奇妙な妄想に囚われてしまった。
しかし実際の所、ニーナが女王になることはどうなのだろう。教皇庁はクラウディアを据えたいという腹づもりだが、
大神樹の芽にできることが、本体の大神樹にできないはずもなく、大樹より魔法力の光が空へと投影され、マーゴの姿とともに、彼の支持率が上昇した。
支持率はマーゴ43%。クラウディア29%。ニーナ28%と、マーゴにいくらか流れたか、新たに祈りを捧げた者たちが増えて、クラウディアとニーナの支持が相対的に下がったようだった。
ともあれ、自分を世界の中心とでも言いたげな演説は、この“勇”の試練には含まれてはいない。これ以上は進行の妨げになると、恐る恐る大臣がマーゴに「次の候補の挑戦が始まりますので、どうか……」と頭を下げた。
腕組みをして不機嫌そうに「ふんっ! マーゴさまが王様になったあとも、おまえは同じポストにいられるかなぁ。ま、わかってるよね?」と、王子は大臣をさらりと恫喝した。
呼吸するように周囲を見下す。大神樹がなぜ、こんな男を候補に挙げたのだろう。
大神樹を疑うことは神をも疑うに等しいのだが、こんな男でもいない限りは、クラウディアが立ち上がることも無かっただろう。
これはもしかすれば、王国民に課せられた試練なのかもしれない。
そして――
陽光に透き通るような金髪を煌めかせ、エメラルドのような神秘的な瞳で、幼女は墳墓の入り口に立った。
候補者と、進行役の大臣以外は蚊帳の外に追いやられているのだが、闇を見つめてぶるっと背筋を震えさせた幼女の下に、クラウディアがやってくる。
「暗くて怖いかもしれないけれど、がんばってくださいねニーナちゃん」
「うん! ニーナね、ちょっと暗いの怖いんだぁ。夜とかぁ、おトイレいくのも苦手なのです。けど、クラウディアおねーちゃがはげましてくれたから、がんばる勇気がわきました」
両腕を万歳させてから、ニーナは手をグーにしてそっと戻し、脇を締めて気合いの入った表情だ。
これにクラウディアも安堵を浮かべた。おいおい、ニーナを励ましてどうするんだ我が主よ。
幼女が墳墓の入り口を降りていく。
本来なら心配で胸が張り裂けそうだが――
「ルルーナさん。良いですね?」
「……ここからは有料チャンネル」
「おいくらですか? 持ち合わせで足りなければ預金を引き出す許可をいただきたいものです」
「……払うつもりなんだ。若干引く……」
と、言いつつも占い師は水晶玉に集中する。
「……あっ……集中力が……」
ニーナの姿がぼんやり浮かんでは消える。俺は財布を開いてルルーナに小銭を一枚ずつ手渡し続けた。
なんてあこぎな商売をしてくれるのだろう。けど、悔しい払っちゃう。幼女を見守ることに長けた大神官だもの。
コミカライズみてくれてみんなありがとね~!
本編もこつこつがんばりまっするまっする!




