メキョ
ほどなくして、無事勇者たちは全滅した。時間がかかるようなら、こちらから探死に……探しに行くことも考えていたのだが、その必要はなかったようだ。
教会に関係者が揃うとニーナが聖堂の講壇に上がった。
まるで会見である。司会進行は大神官。助手に魔王。記者席には勇者御一行様と魔王城関係者という並びだ。
幼女がゆっくりと口を開いた。
「えっと、今日はニーナのために集まっていただいて、ありがとうございます」
金髪を揺らしてちょこんとお辞儀をすると、最前列の席でアコが「ひゅーひゅー! ニーナちゃんすてきー! なんだかわかんないけどー!」と、まだ何の説明もされていないのに盛り上がる。
同じ長椅子に並ぶカノンが「いやはや、ニーナちゃんのためにというわけじゃなかったのでありますが」と、溜息混じりだ。
やれやれ顔のキャスケット眼鏡神官見習いの隣で、黒髪ゴスな元暗殺者が笑顔になった。
「ま、いいじゃないですか。今日は蘇生のお金は不要だってセイクリッドさんも言ってますし」
「こんな日に限って、宝石系の魔物をめちゃくちゃ倒してたから、助かるでありますな」
運の良い連中……もとい、勇者御一行様だ。
俺とステラは講壇の下に並んで控え、赤いカーペットを挟んだ向かって右側の最前列には、ぴーちゃんとベリアルの武闘派ニーナ大好きコンビと、リムリムがちょこんと座っていた。
ゴーレム&上級魔族組は、諸々の事情を知っているためアコのような盛り上がり方はしない。
というか、ベリアルは今にも泣き崩れそうである。
今回の王ディションにあたっては、ベリアルの参加は見合わせだ。ステラも同様である。
王都の中心地――大神樹の元で王を選ぶ試練が執り行われるのだが、もしそこで魔族とバレようものなら大事である。
魔王襲来で王都は大混乱。王ディションの延期や中止ともなれば、それこそニーナが危ないのだ。
アコが立ち上がってベリアルを見つめた。
「あれ? どうしたの? ベリアル泣いてるの?」
「こ、こっちを見るな。なんでもない」
フンッとベリアルはそっぽを向いた。壇上でニーナが「あう、けんかはダメなのです」と、しょんぼり眉尻を下げる。
勇者が手をフリフリと扇のように左右にさせて笑った。
「してないしてない。大丈夫だよニーナちゃん」
「よかったぁ。みんななかよくなのです。ステラおねーちゃのおしえなのです」
名前が出た途端に魔王様の頬が赤くなる。
安堵するニーナに聖堂内の空気が少しだけなごんだ。俺はニーナに声を掛ける。
「では、ニーナさんから皆様にお話があります。お願いします」
「はい! がんばります!」
ニーナはハキハキとした返事をしてから、俺が普段するようなコホンという咳払いを挟んで、その言葉を口にした。
「ニーナはこんど、王様になるかもしれないから、王都にいくことになりました」
立ったままアコが拍手をした。
「わー! すごいなニーナちゃん。王様になるんだ?」
ニーナは「えへへぇ」とはにかんでみせる。まんざらでもないという感じだ。
アコがパンッと胸元で手を叩いた。
「じゃあじゃあ、ニーナちゃん王様になったらなにをするんだい?」
ニーナはぽやあぁっとした表情になると、目尻をとろんと落とした。
「あのね、ニーナは王様になったらぁ、おっきなパンケーキが食べたいなぁ」
「うわあいいなぁ。ニーナちゃん可愛いなぁ」
「それほどでもぉ」
歪みのない政策ありがとうございます。
これにカノンがガバッと立ち上がり、ニーナではなく俺に視線を向け吼えた。
「王様って……いったいどういうことでありますか!?」
「詳しく説明いたしましょう」
ここからは俺の役割だ。アコたちにはステラが魔王であることも、ここが魔王城前であることも伝えていない。
「今は亡きニーナさんの母君が、先日逝去なされたハレム王の娘……王族だったようなのです」
カノンはレンズの向こうで目をぱちくりさせている。
「え? でも、それなら順番的にはステラ殿が……」
「色々事情がありまして、王候補は神託によって選ばれるのです。王族の中から三人が今回の王選び……王ディションに選出されました」
あとの説明はこれまで通りだ。王ディションを早く終わらせなければ、ニーナの命が危ないということ。次いでマーゴ王の誕生を阻止するというのが、今回の目的となる。
腕組みをして「ふむふむ」と聞き続けていたアコがポツリと漏らした。
「そっかぁ……なんか、困ったね」
勇者の視線はうつむき気味で肩身を狭めているステラに向けられていた。
俺は説明を終えると締めくくる。
「ということで、しばらくニーナさんは独りで王都に行くことになります。私は上の命令でもう一人の候補である第十三王女クラウディア殿下につくこととなりました」
アコが目を丸くした。
「え? セイクリッドがニーナちゃんを守るんじゃないの?」
「ニーナさんには教皇聖下の護衛がつく手はずです。ご安心ください」
勇者の少女が黒髪を振り乱す。
「違うってそういうことじゃないよセイクリッド! ニーナちゃん寂しいでしょ? だよね? そうだよね?」
なぜかアコの反応に違和感を覚える。その正体にすぐに気づいた。
アコはなぜか、ステラに触れていないのだ。まるでステラが王都に行かないのは当然と、暗に決めつけているような……いや、気にしすぎか。
壇上から声が響いた。
「ニーナはおねーちゃになりましたから、だいじょうぶです」
エヘンと幼女は胸を張る。と、キルシュが手を膝の上に載せたままポツリと呟いた。
「あっ、そのさっき言ってたマーゴって人、消しちゃえばいいんじゃないですか」
実に元暗殺者らしいご意見だが、俺は胸の前で両腕を×の字に組んでブロックサインを送った。キルシュはそれに親指を立てて返す。
「四肢を猛牛と縄で繋いで四つにこう……メキョッと殺るんですね」
それもう暗殺じゃない処刑だよ。元々キルシュの家は国家の敵を闇に葬る仕事ではなかっただろうか。




