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シチュエーションの問題

 パク、パク。

 俺は温め直した弁当を頬張る。


 ジャー、ジャー。

 シャワーの音。


 パク、パク。

 キュッ、キュッ。

 やっと水止めたな。


 ガラガラ。

 ドアを開けて……


『はぁー……った』

 わずかに聞こえる呟き声。恐らく「スッキリした」だ。自分でも地獄耳だと思う。


 カチャ。ゴォォー。

 ドライヤーで髪を乾かして。


 数分後、ドライヤーの音がやみ――

 衣擦れの音が……しない。

 つまり、分かっていたことだが、そういうことだろう。

 ジャージの上のチャックを上げる音が、すぐに聞こえたのも同様の理由だと思う。


 カチャ。ピッ。

 洗濯機の蓋を閉め、ボタンを押した音が聞こえた。

 そういえば、風呂に入る前に、どうして洗濯機を回さなかったのだろうか?


 きちんと身体の隅々まで洗っていたらしく、夜瑠は三十分は風呂に入っていた。乾燥まですることを考えれば、さっさと洗濯は済ませておきたかったはずなのに……

 そうか。風呂上りに身体を拭いたタオルも一緒に洗濯したかったんだな。

 先程のハンカチの件からも、恐らく間違いない。

 ……そこまで、慎重にならなくてもいいのではないか。

 いくらなんでも、洗濯機に入れられた女子中学生の使用済みタオルをどうこうするような変態、そうそういないだろう。夜瑠とは初対面なので、信用されてないのは仕方ないことだとは思うが。


「……ったく、洗濯機回してなかったせいで、耳の良い俺には、嫌でもシャワーの音とか聞こえたじゃねえか」

 俺は文句を言いつつ、弁当に入っていた唐揚げを口に運ぶ。


「ん……冷た!」

 見ればそこには、約四百円で買ったコンビニ弁当が、三十分で半分以上も残っていた。

 そういえば、健全な男子高校生の妄想を掻き立てる雑音のせいで、何度も手が止まっていたような気がする。


「……いや、でも、俺は違うからな!」

 これは幼女だとか、ロリコンだとかは一切関わってこない。


 今日会ったばかりの年の近い可愛い女の子が、自分の家でシャワーを浴びている、というかなりありえないシチュエーションがもたらした結果だ。

 断じて、夜瑠だからではない。


 なぜか無性に腹が立ってきた。弁当の残りを早く平らげてしまおう。

 温め直すのは……もういいだろう。それをすれば、不思議と負けた気がしそうだ。


 本当に今日はどうかしている。

 こんなに色々な感情を抱くのは珍しい。

 だが、イラつきながらも、たまには悪くないかとも思っている。そして、そんなふざけた自分を無視するのではなく、どう対応していこうか考えている時点で……

 わずか数時間足らずにもかかわらず、すでに自分に変化が生じていると俺はひしひしと実感していた。

 このまま夜瑠のそばにいると、俺は――

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