26、ダンジョン探索(氷)①
格好つけて「好きなの買っていいぞ」と言ったばかりに、ほとんど無くなった金を全てつぎ込んで、食料を買い、氷のダンジョン攻略が始まった。
失敗は許されない。もう金が無いのだから。
〈一階層〉
例に漏れず、スライムが飛び跳ねている。
攻撃を食らうと、確率で『凍傷』という状態異常が付けられるのは、王城の図書館でリサーチ済みだ。
「三人とも、攻撃には当たらないように」
「ええ」
「もちろん」
「うん」
まずは、セリアとユリアに倒させていく。
俺とフィーは、戦力温存だ。まあ、俺が戦力になるかは、棚に上げておいて欲しい。
一応、二人のガントレットには『反動軽減』が付与されているらしいので、硬い敵を殴った時の自傷ダメージは減るはずだ。
そして、フィーの杖は『MP効率上昇』が付与されていて、値段が値段だから微々たる量かもしれないが、『結界(反射)』の消費MP量が少しでも減ってくれれば、ポーション代が減る。
〈五階層〉
昼食休憩を終え、さらに進み続ける。
時折、他の冒険者パーティーに会うが、どのパーティーも一人は剣を持っている。うちのパーティーの刃物と言えば、料理用の包丁と、俺の護身用の果物ナイフだけだ。
別に、剣禁止縛りをしたいわけではないのだが……。
ズーン、と床が揺れる。
象のそばにいる飼育員は、こんな気持ちなのだろうか?
「フィー、結界の発動準備して」
「うん」
「セリアとユリアは、フィーの後ろに」
敵が単発攻撃なら、フィーの『結界(反射)』で倒し、連続攻撃なら、一発目を反射させて怯んだところに、二人が攻撃する。
ドシン、ドシンという音が大きくなってきた。曲がり角の先から、四角い影が覗く。
さて、ご対面だ。
白く四角い頭、長方形でできた体――ゴーレムだ。氷のダンジョンなら、アイスゴーレムだろう。
「フィー、結界頼むぞ」
「二人は、フィーの反射で倒しきれなかった時に、追撃だ」
「分かった」
ゴーレムは基本物理攻撃だが、高レベルになると、魔法も使い出す。そうなると、あの硬い装甲も相まって、一気に強敵と化す。
向こうも、俺たちの存在には気付いていたようだ。
曲がり角を曲がるなり、突っ込んできた。走りながら、右腕を引いた。
「フィー、右腕だ!」
ガーンッ
金属同士がぶつかるような、重い音が鳴る。
フィーの結界が割れていないのを確認してから、アイスゴーレムに目をやる。バラバラになった右腕が落ちているが、左腕はなお健在だ。
アイスゴーレムが左腕を振り上げる。
「セリア、ユリア」と言う前に、二人はもう飛び出していた。
セリアの『魔力拳』が振り上がった左腕に当たる。右腕が無くなり、バランスが悪くなっていたところに、攻撃が入った。
右足が浮き上がり、回避不能になったところに、ユリアの『魔力拳』、うちのパーティーの最大火力が刺さる。
ドカーン、という音とともに、アイスゴーレムが地面に沈んだ。
「やったね、お姉ちゃん」
「ええ、そうね」
「じゃあ、三人とも、先に進むぞ!」
何もしていない俺は、とりあえず三人を褒めて、彼女らのやる気をキープしながら、先へ進んでいく。
アイスゴーレムの後は、ホワイトラビットやら、アイスバードやらが出てきた。
七階層からは、人型の魔物、ゴブリンやオークも登場した。人型というだけはあって、連携して攻撃をしてくるが、セリアとユリアの俊敏力で各個撃破していった。
〈十階層〉
六階層と七階層の間のセーフティーポイントで、夜を明かした。昼食を食べた後くらいには、十階層に到達した。
「十階層だから、ポーション渡しておくよ」
「ありがと」
「やったぁ!」
フィーに【MP回復ポーション】【疲労回復ポーション】、セリアとユリアに【PAT増加ポーション】【AGI増加ポーション】【疲労回復ポーション】を支給した。
この後、土、風、雷のダンジョンも攻略していくことを考えると、なるべく材料が手に入りやすいものから使った方がいい。
グルルル……
低い唸り声が、ダンジョンの壁に反響する。
鳴き声からして、おそらく獣だ。
「フィー、一応結界張って」
「うん、分かった」
すぐに、青緑色の結界に包まれた。
最近は、発動スピードも上がってきて、ますます頼りになる。
結界の端にいるセリアとユリアに、声をかける。
「二人とも、敵のスピードも速いかもしれないから、気を付けろよ」
「ええ、分かってる」
その時、魔物が二体突っ込んでくる。
「氷狼よ!」
セリアが声を上げる。
氷のような少し水色がかった、白色の毛並みのオオカミが二体突っ込んできた。
氷狼、その名の通り、氷属性のオオカミ。最大の特徴は、その知能の高さだ。今までに積み上げた経験を活かして戦うため、高ランクパーティーでも負傷者が出るほどだ。
「ここは、あたしたちが」
セリアとユリアが左右に分かれ、壁沿いを走ってくる氷狼に襲いかかる。
両方とも、始めの攻撃を回避され、氷狼と向かい合ったまま、膠着状態になっている。
タタッ、タタッ、タタッ、と地を駆ける音が聞こえる。
「フィー、結界はいい。二人に『強化魔法』を」
「まだ来るよ?」
「それは何とかする。どっちみち、あの二人がいないと、倒せない」
氷狼は高速で動きながら、攻撃をしてくる。攻撃を反射しても、当たる確率は少ない。
結界を張るのにMPを消費する以上、ジリ貧になりかねない。
「でも……」
「信じてくれ。俺だって、フィーをおいて死ぬつもりはないから」
「うん、分かった」
視界の色がもとに戻る。
俺の役目は、セリアとユリアがあの氷狼たちを倒すまで、残りを近付けさせず、時間を稼ぐこと。
魔法を二つ同時に使えないフィーに、氷狼が到達するのは避けなければならない。
「セリア、ユリア、二分で片をつけてくれよ」
「あんたが死ぬ前に、終わらすわ!」
「こんな犬、ユリアは一分で倒せるよ!」
頼もしいことだ。
敵は二匹。
セリアとユリアより前に出る。後ろから、カン、カン、と聞こえる金属音が勇気をくれる。
間合いを測って、【Cランク麻痺液】の入った瓶を一つ投げた。
パリーン、という音に氷狼二匹は少し減速したが、そのままのスピードで突っ込んでくる。
だんだん近付いてくる氷狼に恐怖を感じる。だが、それよりも俺がここを守り切れないことの方が怖い。ちょうど瓶が割れた所の手前でジャンプした――今だ!
機動力の高い氷狼が、唯一回避できないタイミング、それはジャンプした時だ。
右手から、二本同時に瓶を投げた。
瓶は回転しながら、液体を撒き散らしていく。セリアとユリアより前に出たのは、このためでもある。
グルッ!
二匹にしっかりかかった。
【Cランク麻痺液】の効果で一時的に動きを止められてはいるが、さすがに二分も待たずに、効果が切れるだろう。【Cランク毒液】もかけたが、これだけじゃ、HPは削りきれない。
「お兄ちゃん、上!」
フィーの叫び声で、事態を察した。
(まだ、いたか)
反射的に左手で【Cランク麻痺液】の瓶を取り出して、ふたを開け、真上に勢いよく振り上げた。それと同時に、右手でナイフを抜いた。
真上を向くと、氷狼が間近に迫っている。
狙うなら、頭。それ以外は意味がない。
上から降ってくる麻痺液が目に入り、視界を滲ませるが、そんな些末なことを気にしている場合ではない。
右手でナイフを構え、左手でナイフの後ろを支える。
――これらが、数秒のうちに行われた。
さすがに、飛んでくるオオカミを支えきれるわけがなく、思いっ切り地面に体を叩きつけられた。
痛みで閉じそうになる目を開ける。
右手のナイフは、しっかり敵の頭に刺さっている。
【Cランク麻痺液】のおかげで、俺の上に乗っている氷狼は動かなそうだ。
ガタガタと無理やり動かそうとしている右脚に気付くと、ナイフから手を離し、両足でやつの腹を蹴飛ばした。
キャイン、と鳴いて、氷狼が真横に倒れる。
「ふぅ」
まだ一匹として倒してはいないが、凌ぎ切ったピンチに思わず安堵してしまう。
仰向けに倒れ込んだ俺の顔を、ユリアが覗き込む。
「死んじゃった?」
「バカ言え。まだ、死ねないよ」
「そうだね。ユリアを置いて、死ねないよねぇ」
気が緩んだところに、相変わらず能天気なユリアだ。思わず笑ってしまった。
フィーとセリアは、残った氷狼の始末だろう。
三匹とも、【Cランク麻痺液】の効果で一定時間は動けないはずだから、二人いれば問題なく倒せるはずだ。
そういえば、結局二人とも一分足らずで来た。まったく大したものだ。
「いつまで寝てるの? 置いていくわよ」
セリアの声が聞こえる。
よっこいしょ、と腹筋に力を入れて、体を起こした。さっきまでが嘘のように、周りに魔物の影一つない。
【HP回復ポーション】を飲んでから、立ち上がった。
「ユリア」
「ん、どうしたの?」
「さっき、パンツ見えてたぞ。気を付けろよ」
「え!」
日頃の仕返しで言ったつもりだったが、どうやら効きすぎてしまったようだ。顔を真っ赤にして追いかけてくるユリアから逃げ回る。フィーとセリアの周りで、赤鬼との鬼ごっこが始まった。
「あんたたち、いい加減しなさいよ」というセリアの呆れ文句は、俺とユリアの歓声にかき消されていった。
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