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19.第二の人生(1)


 フレデリックが私に対して感じていたのは、罪の意識だった。

 私はフレデリックのために良かれと思って行動したことが、こんなにも彼を苦しめているだなんて。

 もちろん、その時々で考える余裕もなく選択したことではあるものの、だからこそ私の本心で動いたことだった。彼は自分の命と代えてでも守りたい、大切な人だったから。

 だけど、その言葉を彼に伝えるのは気が引けた。そこまで大切ならば、またフレデリックに危険が迫った時に、私が命を投げ出してもおかしくないと彼は考えそうだから。


 ――どうしたらいい? どうしたら彼にわかってもらえる……?


 カーミラの問題が解消し、これですべてが上手く行くと思ったのに、また降り出しに戻った気分だ。


 フレデリックと会って数日。

 そうやってぼんやりと毎日を過ごす私の元に、ハンナが大きな箱を持って現れた。


「ハンナ……? どうしたの、その箱……」

「はい、お嬢様に渡したいものが――きゃあ!?」

「ハンナ!?」


 ハンナが何もない所でつんのめって、箱の中身が飛び散る。

 そこに入っていたのは、見覚えのある品の数々だった。


 ――ドレスに装飾品、これは枯れてしまった花? それから……。


 大量にある封筒を手に取る。差し出し人の名前を見た瞬間、これが何であるのかすぐに理解することができた。


「これは、フレデリック様からの贈り物です……お嬢様は捨てろと仰ったようですが、侍女たちが取っておいたようでして。はじめは公爵夫人の指示だったそうですが……」

「お母様が……?」


 まだ両親が私の異変をどうにかしようと奮闘していた頃、お母様が侍女に指示をしたことらしい。いつか私が元に戻り、フレデリックを受け入れる時が来たら渡してほしいと。

 だけどお母様はなくなり、その意思が引き継がれることもなかった。そして、フレデリックの贈り物をとっておくという作業だけが、義務のように侍女たちに引き継がれたらしい。


「どうして今になって……」

「お嬢様のお見舞いの際に、フレデリック様が見舞いの品を持って来てくださって……その時にこの引き継ぎ書のことを思い出しました」


 そして私が魔女に憑依されていたことを知ったハンナが、今ならば渡しても問題ないと判断したと話す。


「それは、もしかしてお父様の指示で?」

「あ……すみません、私の独断です。フレデリック様とお会いしてから、アイリス様の様子がおかしかったので」


 へへ、と悪戯っ子のように笑う彼女は、やっぱり危なっかしい。

 だけど、ハンナがいてくれてよかった。たぶん彼女がいてくれなければ、この贈り物はきっと私の手に渡ることはなかったから。

 読み切れないほどのたくさんの手紙。ドレスや靴に関しては、たぶんもうサイズが合わなくて身につけることは叶わない。

 その中からひとつ、真新しい箱を見つける。


「これは……」


 十八歳の誕生日、私が死ぬ直前に貰った指輪。

 どういうわけか、これもちゃんと保管されていたらしい。

 フレデリックが私のために用意してくれた指輪。彼もずっと、私を助けようとしてくれていた。魔女に憑依されていると知ってもなお……ううん、だからこそずっと傍にいてくれようとした。

 あらためて彼の想いを考えたら、胸が苦しくて、目の奥が熱くなった。


「お嬢様、大丈夫ですか……?」


 ハンナがそっと私にハンカチを差し出す。


「ええ……ありがとう、ハンナ。おかげで決心がついたわ」


 私は涙を拭うと、立ち上がる。


「お出かけでしたらすぐに馬車を――」

「出かけないわ。先に話をつけに行かなくちゃ」

「どなたにですか……?」


 ハンナがきょとんと首を傾げる。

 私は指を丁寧にしまい込むと、すぐに部屋を後にした。



 数日後、準備を整えた私はもう何度も「不在です」と追い返されたフレデリックの屋敷を訪れていた。

 今日も今日とて、侍従のグレンが迎え入れてくれる。


「フレデリック様は――」

「いないなら待つわ。会えるまでここにいさせてちょうだい」


 珍しく強気に出た私に、グレンが目を丸くする。

 失礼は承知だけれど、もう「わかりました」と引き下がる気にはなれなかった。


「今日はフレデリックに会えるまで帰らない。そう伝えてくれる?」


 どどん、と宣言する。まるでカーミラが振舞っていたように堂々と。

 すると困り果てたグレンの後ろから、会いたい人が顔を出した。


「……どうしたの、アイリス」

「貴方に大事な話があって来たの。少し時間を貰ってもいい?」


 真剣に尋ねると、フレデリックもただならぬ空気を感じたのか小さく頷く。

 そして彼の私室へと案内してくれた。



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