少女と少年
それはある日突然やってきた。
壊れた扉の横で眠る少女の前に現れた一人の少年。
『おい! 起きろ!』
叫ぶように起こされて、少女は、ちいさくあくびをしながら、少年を見た。
急に起こされて少女は、不機嫌ではあったが、少年はそれを気にした様子はない。
『おまえ、ここで何してるんだ』
どうやら扉の外から入ってきたのであろう少年は、少女の足枷を見ながらつぶやいた。
少女は、どうしてそんなことを聞くのだろう、と不思議に思いながらも、『寝てるの』と答えた。
少年は、そういうことじゃない、と再び眠ろうとした少女の肩をゆすった。
『つかまってるんだろ? おまえ』
少年は、どうにか足枷を外そうとしている。
少女は、眠そうに目をこすりながら、足枷に手をのばし、ゆっくりとなでた。
『はずさなくていいよ、私はまだ外にはいけないから』
どういう意味だよ、と怪訝そうな顔をする少年に、少女は、首をふって笑った。
答えたくないという意思表示のつもりであっただが、少年は、少女の手をむりやり引いて、外にだそうとする。
『とにかく、ここから出よう。こんなところに一人で残しときたくない』
少年の言葉に、一瞬は心の揺れた少女であったが、扉のことを思い、この少年についていくべきではないと考えなおし、抵抗した。
『私は、行きたくないの!』
泣きだしそうな顔の少女に、少年は、とっさに手を離した。
少女は、すがるように、壊れた扉のそばに近寄った。
足が少しヒリヒリとして、無性に泣きたくなった。
『……ごめん。また、来るから』
君が外に出たくなるまで、何回でも来るから。
少年は、そう言って出ていった。
壊れた扉と二人きりになって、少女は、握られた手を確認するように見た。
少女の知らなかった誰かのぬくもり。
それが、こんなにも温かいなんて知らなかった。
『私、君のそばにいたいだけなのに』
そう言った少女が扉に耳を当てても、扉からは何も返ってこなかった。




