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ある奴隷の日常  作者: 氷霧
10/10

10. 蒼姫

過去の投稿を時折改稿していますが、細かい表現や間違い・言葉遣いの修正で、話自体は変わっていません。

エレオノーラ公女は、からかわれたり冷たくあしらわれたりしてころころと表情を変えつつも最終的には満足したらしく、紅茶を5杯飲むほどの時間滞在して帰って行った。帰りがけ、フィエナの方に視線を送りながら


「近い内にまた伺いますわ」


と言ったのは、女性としての対抗心か、より深い意味があるのか。フィエナが蒼姫であるとわかってから一言も発しなかった騎士のフリードとともに不気味さを感じるものではあった。


「私の素性を知られてよろしかったのですか?」

「隠してもどうせそのうちわかる。競売でも見られているのだからな」

「ご主人様がそうおっしゃるのであればよろしいのですが」


騎士はあからさまに主人を嫌っていたし、フィエナの件を悪意を持って利用しようとする意志があからさまだった。利用されたとしてフィエナ自信の立場が今より悪くなることは無いと思うが、体に流れる血を祖国の不利になるような形で利用されるのは避けたかった。祖国の迎えであればともかく、安易にこの国の大公、貴族の庇護に入るのもためらわれた。


「お姫様大事なお付きの騎士は何か考えているようだが、なんとかなるだろう。ならなかったら国を出れば済むことだ」

「国を出る?わたくしのためにですか?」

「もしそうなったら直接的にはそういうことになるな」

「正気ですか?」


奴隷としては失礼極まりない発言だが、主人の発言も正気を疑われても仕方のないものであるのも確かである。奴隷は所有物。そのために貴族の地位を捨てて国を出るなど前代未聞だ。


「結構大胆だな。奴隷は口遣いだけでも命を失うことがあるはずだが」

「も、申し訳ありません」

「まあ、蒼姫をそれと知られてから殺すのはまずそうではあるがな。それはそれとして、別におまえがいなくてもずっと同じ場所にいられるわけじゃない。俺自身が不老なのだから、その内怪しまれる」

「ですが・・・」

「そもそも、お前は所有物なんだから、黙ってついてくればいいだろう。別に赤貧にあえぐような暮らしをするつもりはないし、おまえも所有者は貴族では無い方が都合が良いのではないのか?」

「それはそうなのですが」

「正直だな」

「あ」


フィエナの生家、パラエキア公爵家はパラクレス聖王家の開祖、初代聖王の娘の血筋であり、過去王家との婚姻も多い。フィエナの祖母も当時の王の異母妹であり、フィエナ自身が王位の継承権を持っていた。家名の前の「ウル」の称号は、正式に継承権を認められている証である。その継承順位は高いものではなかったし、第二王子との婚約していたことから継承権を持つこと自体知る者もウルを名乗ることも多くなかったが、王都陥落の折に多くの王族・高位貴族が失われたことで情勢が変わっていた。現在確認されている継承権を持つ者は、王都から敗残兵とともにルンバート侯爵領に退却した第三王子と第二王女、オーセリア王国に留学中であった王弟の息子のみという惨状である。フィエナの婚約者であった第二王子を含め行方不明の者もいるので即フィエナの継承順位が四位と言うわけではないが、ルンバート侯爵領が落ちるのは恐らく時間の問題である。もしフィエナを旗印に聖王国領を回復することができれば、その援助を行った国は極めて大きな影響力を持つことができるだろう。

もちろんパラクレス聖王国を落としたガルド=ネル帝国は強大な軍事国家であり領土の回復と言ってもそう簡単なことではないが、それが適わなくても歴史ある王家の血の利用価値は高い。今のところ主人にはフィエナを政治的に利用する意思はないように見えるが、政治の中枢から離れてくれるならそれに越したことは無い。


「俺としても爵位なんぞ無い方が気楽で良いんだが、くれると言うものをもらわないのもいろいろまずいらしくてな。美しい少女を奪われないために貴族の地位を捨てたら、吟遊詩人がうたにでもしてくれるかね」

「ものは言いようですね・・・」

「お前が美しいのは事実だろう。蒼姫の名は伊達では無いな。先に向かうに従って青く色付いてゆく金の髪と言うのは初めて見たが、美しいものだ。恐らくは魔力容量が高いのだろう」

「そうなのですか?」

「ああ。途中で色の変わる髪を持っているものは魔力容量が高いことが多い。多くの場合瞳と同じ色に染まるな。お前の瞳の色も淡い蒼色だろう。理由はわかっていないが、一説では周囲の魔力を取り入れるときに本人の魔力の色に染まってゆくと言われている。魔力容量が多くないものは取り入れる魔力も少ないので、それとわかるほど染まらない、ということらしい。あくまで仮説だがな」

「初めて聞きました」

「仮説はともかく、髪の色と魔力容量の話はわりと知っている者も多いぞ。お前がそのことを知らされていなかったというのは、女性の魔術師を嫌う聖王国らしいと言えばらしいが。なんにせよ、お前は王族の血を引き、美しく、魔力容量も恐らく高いという、貴族が妻にと望む多くの要素を兼ね備えている」

「はあ」

「それがたかが男爵の奴隷になっているとなれば色々言ってくる者も多いだろうな」

「なんだか楽しそうですね」


どう考えても面倒な事態だろうし、事実うんざりした口調なのだが、口元が少し曲がっていた。


「面倒事は嫌いだが、貴族や王族をからかうと多少は面白いのでね」

「私はからかうための材料ですか?」

「結果的にそうなってはいるな。お前を買ったのはあくまで容姿に優れた奴隷が欲しかったからだが」

「そうですか・・・」


今の事態を呼び寄せた自分の容姿に、感謝すべきか怨むべきか悩ましく思うフィエナであった。

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