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将門炎舞記 下巻  作者: 浮島太郎
第16章 祈りの戦場

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覚醒、星影のほころび

将門は、ふとした瞬間に正気を取り戻した。

胸の奥に沈められていた“自分の意識”が、徐々に戻りつつある。


公津が原の霊戦は、星神・天津甕星あまつみかぼしの霊力を著しく消耗させた。

武甕槌大神たけみかづち経津主大神ふつぬしの神威によって顕現した二振りの光の剣に撃たれ、星神の神通力には明らかに陰りが生じている。

将門の意識を塗りつぶしていた星神の声も、今や、雲間の向こうで微かに震える程度にしか感じることができない。


その気づきは、闇の底に差し込む微かな光のようであった。

同時に、薄れゆく星神の神威の隙間から、ふと、雪原で星神と対峙した日の記憶が蘇る。


――あの日、星神は将門に告げた。


「民はお前を選んだ。故に、選ばれた者として王の責務を果たせ。」と。


――だが、将門は抗った。


「私はただ、民を、坂東を守るために戦うのみだ。

我は朝廷の臣。主上に弓引くつもりはない。」


星神は、将門の心を見透かすように、将門の意識へ「太古の光景」を流し込んだ。

――星神が、将門に“王たること”を求める理由、その始源を。


それは、太古の国譲りの時代、

まつろわぬ二柱の神――武神・建御名方が、星神・天津甕星に向かって言った。


「汝が居るから安心だ。民を導き、民を治める星の神よ、後のことは託したぞ。」


建御名方は、そう言い残して諏訪の地に鎮座した。


星神は、ただ将門に戦争と破壊を煽ったわけではない。

星神が将門に求めたのは「戦の後」を見据える“王たる器”であった。

――“民を導き、民を治める星の神”は、静かに告げた。


「戦の後を見よ。荒れた田畑に民だけを残して良いわけがなかろう。

  誰が民を治め、導くのか。それを担うのが“王の器”よ。」


そう語った星神は、どこか微笑んだように感じられた。

――その言葉だけは、確かに、将門の胸に深く刻まれていた。



将門は、武威を示し、力で受領を追放し、民の苛酷な負担を取り除いた。


――そこには確かに“義”があった。


しかし、皮肉なことに、国府という“正当な暴力装置”が失われたことで、武装した徒党が各地で跋扈し、略奪・強奪・殺人・強姦・人攫いが横行した。

坂東の秩序は乱れ、治安は瞬く間に崩れ落ち、弱い民たちは再び闇に呑まれようとしていた。


――星神の支配を受ける前は、戦後統治の重要性まで考えが至らなかった。


だが、現実は星神が言ったとおりであった。

武力で坂東全土を征服しただけでは、何も救えない。

むしろ、星神の言葉どおり「王なき世界」が混乱を生んでいる。


星神の導きは、正しかったのかもしれぬ。

いや――星神の導きなくして、王として坂東を統べることはできぬ。

星神は、将門に足りぬ「王としての資質」を、補おうとしたのかも知れぬ……。


運命の悪戯か、星神の支配が弱まり、将門が自分を取り戻した今になって、この坂東の荒廃は胸に突き刺さった。


そのとき、将門ははっきりと悟った。


――このままでは、坂東の民は“混沌の闇”に呑まれる。


将門は、坂東の民の王として、“秩序回復の道”へと静かに軸を移し始めた。


……しかし、今となっては、何もかもが手遅れであった。


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