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将門炎舞記 下巻  作者: 浮島太郎


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第2章 怨と義の京召喚 【3.太政官府の審】

【3.太政官府の審】


――京・太政官府。

武蔵権介・源仕より届いた解状げじょう(上申書)が読み上げられると、公卿たちの間に小さなざわめきが走った。

「坂東の地下じげ(下級貴族)の諍いに過ぎぬのではないか……」

「いや、平氏も源氏も皇統の血脈。放置はできぬ。」

やがて審議はまとまり、太政官の奏聞そうもん(主上に決裁を仰ぐ)が決まった。

「――平将門、平真樹、源護。三名、ただちに上洛し、真偽をただすべし。」

その文言を記した官符は、急ぎ東国へと発せられた。


――下総・豊田館

国豊が巻物を広げ、将門に告げた。

「……将門殿。朝廷より、上洛の召しが下りました。」

将門は眉を寄せる。

「召喚……何ゆえに。」

国豊は文面を読み上げた。

「“武蔵権介・源仕の訴えにより、将門・真樹・護の三名、上洛して真偽を糺すべし”」

将門は深く息を吐いた。

「……源護め。常陸国府が動かぬと見て、武蔵の身内を使ったか。」

国豊は静かに頷いた。

「権介殿は、将門殿を快く思っておりませぬ。護殿の訴えを奇貨として、何事か企んだのでしょう。」

将門はしばし沈黙し、やがて静かに言った。

「……ならば、正面から受けて立とう。」

その言葉と同時に、陣風が庭を駆け抜けた。

まるで嵐の前触れのように。


召喚の官符が読み上げられた後、館には重い沈黙が落ちた。

将門は目を閉じ、静かに告げた。

「……上洛の支度をせよ。」

家人たちがざわめく。

国豊が一歩進み出た。

「将門殿。これはただの召喚ではございませぬ。

朝廷は“将門を咎める”意志を固めているやもしれませぬ。」

将門は頷いた。

「承知している。だが、逃げるわけにはいかぬ。

我が身にやましきところがない以上、堂々と京へ赴き、真を述べるのみ。」

その声音には、坂東武者の誇りと“義”の静かな強さが宿っていた。

準備が始まり、馬具が磨かれ、供の者が選ばれていく。

将門は冬空を仰いだ。

(……坂東を離れるのは、これが最後になるやもしれぬ。)

胸に、言いようのない不安がよぎった。


――浮島・国豊の館

国豊は灯火の前に座し、机上の文書を見つめていた。

源護の訴状、源仕の告状、そして朝廷の官符。

(……将門殿は義の人。だが、朝廷は必ずしも義で動くわけではない。)

国豊は、将門が調停のため真壁へ赴いた日のことを思い返した。

争いを止めようとした将門。

それを待ち伏せし、襲いかかった源護。

討たれた三子。

平国香の焼死。

(あの日、将門殿は“正しきこと”をした。

だが、それが太政官の目にどう映るのか……。)

国豊は拳を握りしめた。

「……将門殿を、ひとり京へ送るわけにはいかぬ。」

立ち上がり、家人を呼ぶ。

「支度をせよ。我もまた、将門殿に従い上洛する。」

家人が驚きの声を上げた。

「大掾様まで……!」

国豊は静かに頷いた。

「将門殿の義を、坂東の行く末を、この目で見届けねばならぬ。」

その決意は揺るぎなかった。


――京・太政官府

公卿たちが並び、その中央に将門、真樹、源護の三名が立つ。

将門は堂々と、真樹は静かに目を伏せ、

源護は怨に満ちた目で将門を睨みつけていた。

後方には国豊が控えている。


太政大臣が口を開いた。

「――常陸国の源護よりの訴え、ならびに武蔵権介・源仕の告状により、本日三名を召し進めた。」

源仕が一歩進み出る。

「将門は国府の官を殺し、館を焼き、狼藉を働きました。

この暴虐を放置すれば、田畑は荒れ、民草は飢え死にいたします。」

将門は静かに前へ出た。

「……仕殿。その言は、事実と異なる。」

ざわめく公卿たち。

将門は続けた。

「源護殿は、加波山の堰の修繕を妨げ、水を止めて大国玉の民を飢えに苦しめた。

争いを激化させ、死人まで出した。

これを憂いた岳父・平真樹殿の求めで、我は調停に赴いた。」

将門の声は揺るがない。

「ところが護殿は、一門を率いて我を待ち伏せし、討たんとした。

討たれた三子は、その待ち伏せの一味。

我は自衛のためにこれを払ったに過ぎぬ。」

源護が叫ぶ。

「嘘だ! 将門が我が家を滅ぼしたのだ!」

将門は護を見据え、静かに言った。

「……護殿。あなたが民を苦しめ、争いを煽ったこと――これは紛れもない事実だ。」

護は言葉を失い、顔を真っ赤に染めた。


太政大臣が手を上げた。

「――本日の審問、これまで。」

公卿たちは顔を見合わせ、判断を保留した。

将門は深く息を吐き、

国豊はその背を支えるように寄り添った。

(……この審問が、坂東の未来を決める。)

京の空は、不穏な色を帯びていた。


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