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エレクトリック・ファイターズ  作者: くろくまくん


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ドSな任侠先輩と僕の営業活動

僕の仕事の転機とも言える、販売専任の仕事から、営業への転身。


そして限りなくアウェイな職場で、なにひとつわからないままただがむしゃらに仕事をする。


ある日、任侠先輩からひとつの提案が持ちかけられた。

 「俺の担当の店舗で、土日販売をしてくれ。その実績次第で、どうするか決める」


 僕がメーカーヘルパーをしていたことを知っていた任侠先輩は、その能力を使う場を考えていたようだ。


「は、はい…」


「どうせ地頭じあたま悪いんやから、そのくらいしか役立たんやろ。そのくらい役立ててみろ。そしたら俺の好きなように使ってやる」


 任侠にんきょう先輩ドSですか…。僕もどちらかというとМではないんですけど…。


 まぁでも、この時の僕には、全てがアウェイな状況。もう一人の役立たずジイさんも偉そうに言うだけで、何も得るものはなかったので、まだ仕事ができそうな任侠先輩に頼るしかなかった。


 というわけで自分の担当店舗を持ちながら、先輩の店舗に販売応援に行くという、ただでさえ仕事量やばいのに倒れないか?大丈夫か僕?ということになる。


 これが結果を先に言うと、バッチリはまった。


 まずはじめに、僕は販売の仕事でまぁまぁ長いことやってきていた。そして、普段営業をしている正社員の人達はどちらかというと、接客や販売は苦手な人種な場合が多い。


 任侠先輩の凄いところは、僕が販売応援に立つ店舗や、僕が担当している店舗、どちらにも根回しが完璧なところ。その家電量販店でメーカーのフェアみたいなのがあって、ちょうどこちらのメーカーの商品を販売しなければいけないタイミングで僕をほりこむ。


 まぁ販売専門でずっとしてきたので、もちろんそれなりには販売はできる。その店舗は土日2日だけの応援ではあるが、一気に数字が上がる。


 店舗にも感謝されるし、先輩の数字も上がる。ただこの時点では僕の数字に関しては一切何もない。


 ここからが、僕がその先輩を尊敬し、後々仲良くなっていくキッカケだった。


 まず教えられたのが、普段やっている商品の装飾だったり、日々の雑務。これは仕事ではなく作業だ、と。仕事というのは数字を作るため、取引先との人間関係を構築し、円滑に物事が進むように自ら考えて、行動していく半歩先、一歩先の行動こそが仕事だ、と。


 この任侠先輩が周りから疎まれていて、アウトローな理由が少しだけわかった気がした。そもそも、周りの社員達としていることが違い過ぎたからだ。


 どこの職場でも、職場でなく学校でも、異端児というのは毛嫌いされる。はじかれる。会社の上からおりてくる指示を、こんなのは無駄だと切り捨てる。


 だが、僕には拒否権がなかったこともあるんだが、任侠先輩のやっている営業活動は誰よりも、人の心に寄り添っており、人情に溢れていた。知らず知らずで、僕は先輩に惹かれていたのだ。


 そのうち、2人で受け持つ担当店舗を、わざと2人同時巡回というカタチで作り上げていった。基本は一人で数店舗を担当なのだが、2人で担当するメリットは作業がめちゃくちゃ早くなる。あと店舗から何かあった場合、どちらかが対応できるので、取引先にも迷惑がかかりにくい。


 あとこれが大事なんだが、仕事をしていて楽しい。


 この先輩は数字に関してはめちゃくちゃ厳しかった。1年、半期、四半期、1ヶ月、週別、日別、商品別、カテゴリ別、店別の予算や見立て。前年、前々年の実績を見ながらや、世の中の流れを感じ取りながら、店への働きかけ、店舗の従業員別への声かけ、店舗責任者との交渉、僕が元々やっていたメーカーヘルパーとのやり取りなど、とてもきめ細かく、1円単位が間違っていても厳しく追求された。


 ただ、メリハリがある先輩だったので、サボる時は大いにサボった。


 家電量販店のアウトレット商品を扱うアウトレット店舗という店があったのだが、ある日


「アウトレット行くぞ!」


「あ、はい。巡回ですね」


「ちゃうわアホ!アウトレット言うたら服買いにいくとこやろ」


 アパレルのアウトレットのことだったようだ。それ以外にも、大手スーパーでラウンジというものがあるのをご存知だろうか。


 そのスーパーのゴールドカードを持っている会員限定なのだが、コーヒーや飲み物が飲み放題で、お菓子も食べれる。そんなラウンジがある。


 そのラウンジ巡りというのも仕事のひとつなのだ。


「今日は俺の好きなキャラメルや。いいことあるぞ」


「あ、はい…」


 めちゃくちゃ仕事には厳しいけど、緩急が凄い。たまに冗談か本気かわからなくなる。


 あと、先輩は僕が元々やっていたメーカーヘルパーの立場の人に、とても敬意を払う。


「現場で頑張ってくれている、商品を直接販売するのは一番大変なんや。それをしてくれてるヘルパーさんに感謝しなくて、誰に感謝すんねん」


 そんなことを言っているメーカー営業さんは今まで初めてだった。表面上はおべんちゃらというか、お世辞を言っていても、裏では冷たかったり、実績が悪いと文句を言ってきたり、そういうのがメーカーの営業さんだと僕は思っていた。


 だが、先輩は違った。誰よりもその人たちに寄り添っていた。


「お前は地頭じあたまは悪いかもしらん。でも、言ったことをちゃんとやる。あと素直なとこがええことや。お前はきっと人に信用されやすい」


 たぶんこんな感じの言葉だったと思う。まぁまぁ悪口も入ってるけども、先輩なりの褒め言葉らしい。ここで、以前に新入社員の頃に言われた言葉をふと思い出した。


「兄ちゃんは安心感でモノを買ってもらえる人やね。兄ちゃんなら嘘はつかんやろ、これからもそれを大事にしていきなさい」


 これもうろ覚えだから、以前書いた内容とも違ってる気がするが、先輩の言葉と少し繋がった気がした。


 なぜ、こんなにも良くしてくれるのか任侠先輩に聞いたことがあった。するとその返事は


「俺のために決まってるやろ。俺のために使ったる、って言うたやろ。俺の言うことだけ聞いとったらいいんや」


 だいぶ俺様ですね。でも、それは先輩の強がりというか、照れ隠しもあった気がした。


 僕はこの営業の仕事に思い切って変わってみて、よかったと思った。


 だが、そんな時も長くは続かなかった。営業の仕事になってから3年半くらい経った夏の、お盆休みに入る前のある日のことだった。


 

任侠先輩は、僕にとってかけがえのない先輩となり、

そして友となった。


だが、そんな営業の仕事にも、


終わりが近づいていたのだ。

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― 新着の感想 ―
前回、とても心配しておりましたが、きちんとした先輩だったのですね。……そう思っておりましたら、また波乱の予感が。
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