少女なオレと鎧の魔物①
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「んううっ……くそっ、届かん」
鏡で自分の姿を確認したオレは、腹が空腹を訴えかけていたのでキッチンに来ていた。ふと思い出せば今日は何も口にしていないのだ。当然お腹は空くだろう。
しかし、ここで予想外の事態が発生した。冷蔵庫の上部に椅子を使っても手が届かないのである。今の身長的に冷蔵庫の下部に立っても壊れはしないだろう。しかし常識と不安が優って、冷蔵庫に立つということをしたくないのだ。
あとはこの少女の姿になってからというもの、風呂場から出るのに足が短く段差に転ぶ事1回。割れたガラスの掃除中にズボンを踏みつけて転ぶ事4回。それがなんとわずか1時間の間の出来事である。
ガラスの上に倒れた時は死ぬかと思うほどに激痛であったとだけ言っておく。
まあそんなことがあり、冷蔵庫の上に立ちでもしたら危険であると判断したのでしないのである。
転ぶことが分かりきった為に今ではズボンを履かなくなり、というよりサイズの合うズボンが無かったためにシャツ1枚で過ごしている。見た目を無事な鏡で確認すると、ダボダボなシャツを着て片方の肩を出した幼女が映っていた。端的に言えば彼シャツ幼女。犯罪臭と背徳感が凄まじいがあくまで自分である。興奮などするわけが無かった。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁ! 届かん!やめだやめ!」
もどかしさに怒りの咆哮を上げながらバン! と冷蔵庫の扉を閉める。閉める直前に開けっ放しのアラートがなり、冷蔵庫が強く閉めるなと悲鳴のように聞こえた。むしゃくしゃしたまま「うるせぇ!」と叫べばアラートがぴたりと止んだ。まさに奇跡である。
「クソッ! あぁ出かけよ…外食にしよ」
高身長であったために高いところに物を置く癖が仇となった。現在のままだと届かないものが大半であり、この家は住み辛くなっている。
鎧を着ていた時ならば目線も変わらず180程度だったのだが、この体になってからというもの140あるかどうかというラインである。値にして40、そりゃ取れるものも取れなくなって当然であった。
脱ぎ散らかしたズボンのポケットから黒色の財布を抜き取り、手に持ちながら玄関へと向かう。
思えば服装がシャツ一丁ノーパンと言うのは変態ではなかろうか。いや、メンズのブカブカパンツは履いている、パンツ(ズボン)を履いていないのだ。
だが着る物がないのも事実である。楓の服が何着かは置いてあるのだが、兄としてそれを着るのもどうかと思うから結局はこのスタイルだ。羞恥心と罪悪感で、罪悪感が勝利した瞬間である。
玄関に着くとまたもや低身長の弊害があった。下駄箱にぶら下げた鍵に手が届かないのだ。
ぶかぶかの靴を履き、ふんふん言いながらジャンプするその姿はやはり庇護欲が唆られる。
オレは至って真面目なのだが、姿と涙目が相まって一生懸命頑張っている可愛い子にしか見れない。
再度言おう、自分である。
先程から客観的に語ることができているのは、まだこの体が自分のものであるという実感が薄いためだ。と言うよりも認めたくないというのが本音だ。
なろう系にもTSというジャンルがあるが、それは他人がなっているのを見てその心境の変化や、環境の変化を楽しむものであり、自分がなりたいものではないのだ。少なくともオレはそうである。誰が願って少女などになりたいのだろうか、せめてもう少し…いや20センチ程は欲しかったと言っておこう。
「はぁ…はあ、ようやく取れた」
何故に家から出るだけでこんなに疲れなくてはいけないのだろうか。半ばこれからの苦労するであろう現実に打ちひしがれながら外に出て鍵をかける。
ドアノブを2回ほど回しながら引くのも忘れない。閉まっているのを確認し終わったらようやく準備完了だ。
「ヤぁ、言い忘れた事があったからまた来たヨ」
「うひゃあっ!」
先ほどまで苛立ちを忘れようと思い、テンションを上げながら後ろを振り向いたら鼻がくっつきそうになる近さでエルフがいた。
驚かずにはいられない、振り返ったらガチ恋距離よりもドアップでいるなんて新手のホラーだろうか。
「ヨっこいしょっと」
驚きで腰が砕けてしまい地面にへたり込んでいると、背中とお尻に手を回されて肩付近に持ち上げられた。所謂だっこと呼ばれる持ち方だ。
こういう場面ではお姫様抱っこなのでは無いのか? そう考えてしまうあたり、オレはまだ余裕があるのかもしれない。べつにお姫様抱っこを求めている訳ではない。大抵のラノベは、こういう場面ではお姫様抱っこの割合が高いから考えただけであり、お姫様抱っこされたい願望があるわけではない。
「おい! 降ろせ!」
「まあまあ、僕と君の仲じゃないか」
「今日初めて会ったんだよ! いいからっ!降 ろ せ!」
オレの文句を無視しながらエルフは鍵を開けて家の中に入っていく。
この解錠が魔法ならばどんなによかったことか。…エルフがやったのはもっと現代的な方法であった。
「なんで合鍵持ってんだよ!?」
オレの左手の中にはしっかりと鍵が握られている。
そして合鍵は作っていないのだ。少なくともオレ自身は作っていない。
エルフはこちらに向かってニコニコとしているだけで答える気はないようだが、立派な犯罪ではなかろうか。
降ろしてくれなそうなのでジトッとした視線を作ってみるも、ニコニコしているだけである。
先ほどと変わらずに慣れた足取りでいるあたり頻繁にきているのではなかろうか。
なんでこう思ったかと言うと、大抵の家ならば玄関から真っ直ぐに行けば居間に着くだろう。これは我が家も同じだ。
だがエルフの場合は、オレをリビングの椅子に座らせると文句すら言わせる間も無くキッチンへと向かい、冷蔵庫から食材を出し、棚からフライパンを出したかと思うと調味料の置き場所まで知っているのだ。
もちろんドン引きである。
「はい、どうぞ」
「えぇ………」
オレ、困惑である。
目の前に置かれたのは、ふわふわの半熟卵が乗ったオムライスだ。
ご丁寧にケチャップで『ななみちゃんへ♡』と書かれている。オレは成海だ。
「で、なんでお前また来たの?」
「卵を解いたときに炭酸水を入れるとふわふわに仕上がるヨ」
んなこと聞いてねえんだよ。美味そうだけどさ。
初対面の警戒は先程の謎行動ですでに諦めた。こいつにはなんと言おうが笑ってスルーされそうだからだ。
「言い忘れたことを言いにきただけだヨ。まず『解除』は上手く行ったみたいだね。 それで次は逆」
「逆?」
「君の場合は………そうだね『変人』としヨうか、この言葉が君を変えてくれるヨ」
そういったエルフはオレの目の前で指をパチンと鳴らした。そのいきなりすぎる行動に、大きく肩を震わせたオレを見てエルフは「ははは」と腹を抱えながら笑っていた。
苛立ちを感じながらもコイツの言った言葉について考える。『解除』と同じ意味だろうことはわかるが『変人』か…おそらくだが鎧の姿になる、といったところだろう。人のことを煽っているようにしか聞こえない。
「それと僕と協力関係を結ばないか、と言う誘いだヨ」
「協力関係…?」
『変人』について考えていると、エルフからそんな提案をされた。文字通りの意味ならば、相互助力の関係になろうというものだ。だがここで、オレだけが助けてもらえるなんて考えをしてはいけない。あくまでエルフが持ちかけているのは相互助力であり、こちらもエルフのピンチ時に馳せ参じなければいけないのだ。
助けてもらえるのはありがたいが、こちらから態々巻き込まれるようなことはしたくない。
「うん、けどもうなんて答えるかは決めているヨうだからなかった事にするヨ」
心を読んだかのようにこちらの考えを読んでくるエルフ。
やはり何者なのかが気になるが、答えてはくれなさそうなので聞かない。
目の前の男についてぼんやりと考えてみても、分からないものの方が多い。
出会いもなぜ出会ったかすらはっきりしていないし、何故に我が家の合鍵を持っているのか、オレのことを知っているのか、そして『解除』と『変人』と言う言葉。まるで『変人』を今生み出したかの行動、及びに発言。
彼については知らないのに、こちらの情報は全て筒抜けだ。
彼は別に脅迫などはしてきていないが、いつ弱点を吊るされるかが分からない。
信じるべきか疑うべきか、この判断がおそらくこれからの事を大きく分ける、そんな予感がする。
「……保留。保留というのはダメか?」
ならば内容を聞いてからでもいいだろう。
裏の仕事などはやる気が無い、どんな内容か答えて貰えないのならば話はなしだ。
「うん、いいとも。 目の前の餌に食いつく愚物よりは何倍もいい返事だ。ヤっぱり君を誘ってヨかったヨ。
では少しだけ話そうか。そうだね……僕たちの秘密、なんかはどうかな?」
そういうと、エルフは笑みを変えた。
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