少女なオレと鎧の魔物②
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3000pvに到達しました。まさかここまで興味を持っていただけるとは思ってもみなかったので、ご期待に添えるように頑張っていこうと思います。これからもよろしくお願いします。
総合評価が200ptを超えました。ありがとうございます。
東区までタクシーに揺られ、1時間も歩けば千葉県だった場所に着く。
『崩壊のひ』にて大打撃を受けた日本は北海道・東京・大阪・熊本の四都道府県を残して全てを放棄した。
理由は簡単、守ることができる人数が少なかったためである。
軍人とて無敵ではないし無限ではない。
当たり前だが負傷者が出たら補充というゲームなら簡単にできることも、現実ではできないのである。
そのために続々と出る負傷者・死者に守ることのできる場所が次々となくなり、四都道府県へ避難する指示が出された。そしてその五ヶ月後に四都道府県以外の放棄が発表されたという流れだ。
それと同時に北海道以外の県は避難してきた人を受け入れられるように拡大され、東京は中央区・東区・西区・北区・南区の五区となった。
大阪・熊本も拡大されたらしいが行ったことがないのであまり詳しくは分からない。
これが現在の日本の様子だ。
そして何故にオレが千葉まで来たかというと二つの目的がある。
一つ目は帰郷と墓参りだ。
今は東京の中央区寄りに住んでいるが、前までは千葉県の大崎に父と暮らしていた。
母は体が弱かったらしく、オレを産んだ数日後に持病でこの世を去ったそうだ。
楓は『崩壊のひ』で親を失ったらしく、身寄りがいなかったから父が養子として引き取ったのだ。
二つ目は『変人』の確認だ。
エルフは『解除』の逆だと言っていた。予想なのだが鎧の姿になるということではないだろうか。
その確認のために今日は千葉に来たのである。
倒壊した家々の隙間を歩き、我が家から少し離れた共同墓地に着いた。
オレ以外に来ている人はいないのか、雑草がかなり伸びている。
「母さん、こんな姿になったけど成海だよ。ずっと来れなくてごめん。 楓っていう妹も紹介したかったんだけど、やっぱり危ないからさ。そっちに父さんもいるかな?はっきり言って暴力を振るってきた父さんは嫌いだったよ。けど、たった一人でオレをここまで育ててくれたのだから自慢の父さんだったよ。……もう行くよ、また来年来るから」
最後に買ってきた花を添える。
母さんがどんな花が好きか分からなかったので花屋の店員さんにお願いした。
まだ話したいことが山ほどあったのだが、少し離れた位置に移動し先程からガサガサと嫌な音を鳴らす林を睨みつける。
林からの音はどんどんと近づいてきて、姿を現す。
黒光りしたその身は岩に覆われて茶色に染まり、発達した牙はガチガチと音を奏でる。
蟻の魔物。
目の前の魔物を表すならこの表現が適切だろう。
林の木を薙ぎ倒しながら逃がさないとばかりにこちらを見つめる青色の左右の複眼、小さかったはずの頭部にある単眼も今では人の頭と同じ大きさだ。全長は小型トラックにも及ぶだろうレベルである。
周囲を見渡して左右どちらが墓地から抜けるのに早いかを考える。
幸運にも蟻は正面から姿を表した、左右どちらも逃げることができるのである。
「まったく…確かに『変人』の確認をしたかったんだけどな、もう少し空気読めよ」
人間の言葉が分かる知能を持っているのかは定かでないが、こちらの言葉に合わせて一歩また一歩と歩みを進め始める。
こちらを見つめる複眼はさながら懐中電灯のような明るさであり、まじまじと見つめることができない。
牙を鳴らし、ゆっくりとした歩みでこちらに近づいていた蟻が動きを止めた。
「ん? ……なるほど、戻ってるな」
身長よりも高かった墓石は今では見下ろす形となり、声付きも幼少期特有の高さからくぐもった低さに変わった。
蟻は複眼の特性上ぼんやりとしか見えないはずなのだが、魔物になったことにより進化した可能性もある。
警戒するように牙をガチガチと響かせ、触覚を上げたり下げたりとしている。
対して、こちらは力が沸き上がってくるような感じがする。
そして何よりも動きが遅い。雲は止まったかのように静止し、草は靡かない。
魔物の動きは先ほどよりも遅くなっている。昼間のゴリラは実は早かったのではなかろうか。
そんな考えが浮かぶも、こちらの蟻の方が動きが早いので恐らくゴリラはパワー型であったのだろう。
「すぅ………はぁぁ…よし、始めようか」
腰を落とし、クラウチングスタートに近い体勢になる。だが手は地面に置かずに、右手は背中に背負っていた剣に、左手は手のひらで持っている盾を握りしめる。
この盾と剣は元から持っていたようで、鏡に映った時に装備していたことに気がついた。ゴリラの時は緊張からか、はたまた動揺からか気がつかずに拳で戦っていたのだ。
オレのポーズに遅れて反応した蟻は、牙を大きく広げこちらを待ち構えている。
両足に力を入れ、オレは全力で左側に走り出した。
蟻もこちらに来ると踏んでいたのか、少し遅れて追いかけてきた。
木の根に足を取られないように気をつけながら何も無い場所へと向かう。
今でこそ家は軒並み潰れているが、それでも思い入れはあるだろう。だからこの場を戦地にはしたくない。
後ろからは木を薙ぎ倒しながら進んでいるのか、バキバキという音が徐々に近づいてきている。
スピードではオレの方が速いと感じていたのだが、足場への注意、進路からか追いつかれ始めている。
子供の頃の地図を頼りに、空き地へと向かう。
何度も行った場所だがそこはすでに10年前、さらには家も潰れているという事により不安になってしまう。
だがそんな杞憂に過ぎたらしく、無事に空き地に着くことができた。
砂利だらけの地面からは雑草が生えることが少なく、あまり伸びていない。
遠くに見えるブルーシートがかけられた砂山も昔と何一つ変わっていない。
変わったのはオレと世界と生き物だけだ。
時間にして20秒あたりが過ぎると蟻が姿を表した。
傷一つと付いてないその外殻は木の葉が幾許か乗っている。
今度は逃す気がないのか先ほどよりもこちらに近づいてきている。
オレも逃げる気はない、覚悟など千葉に来た時点で決めている。
剣へと手を回し、その身を鞘から抜き出す。
構えた剣は鎧と同じく鈍色に染まっており、全てを断ち切るかのように鋭い。
「はぁあ………やっぱり帰りたい」
だが千葉に来たときに決めた覚悟など虚しく、オレの腕は小刻みに震えていた。
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