オレが魔法少女になった日④
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『貴方“たち”の目的はなんですか』
バンっ、となりそうな勢いでドアを閉める。
呆然と立ち尽くすも、これが現実だとばかりに世界はオレを突き放す。
道中のガラスに映ったオレの姿。
近づくと逃げ惑う近所の住民達。
目が覚めてからの異様な身体能力。
動くたびになる鉄の音。
そして脳内で反響する彼女の問いかけ。
全ての点が線によってが繋がった。
どうやらオレは、魔物になったようだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
鈍色のフルプレートアーマー。
それがオレがオレを見た時に思った感想だ。
頭部の先端から足先まで全てが鎧に包まれている。
だが着用しているという感じはなく、まるで生まれた時から着ていたかのように違和感が全くといってない。
まるで映画の世界から出てきたようなこの鎧はこれといった特徴がない。
魔王のようにおどろおどろしい訳でもなく、勇者のように白銀の聖光を放つ訳でもない。
ただただ鈍色なこの姿は西洋甲冑を彷彿させる。
そんな中青く輝き続ける双眼を除いての話だが。
青く輝く目は魔物の証。これは今の子供ならば誰でも知っているような話だ。
現在魔物についてわかっている内容は多いようで少ない。
一つ目は目が青く輝いているというもの。アメリカ人などの碧眼とは違い本当に濃い青色をし、光り輝いている。
二つ目は魔石という物質が体内に存在し、魔物の活動エネルギーを生み出している。そして魔石は魔物の弱点であり破壊されると存在が消失する。
三つ目はヒーローか魔法少女しか討伐できないというもの。銃弾を弾く鱗にミサイルを数発くらっても生きている体力。
分かっているのはこの3個しかない。だがこれだけの情報でもある程度ならば対策できるというものだ。
魔法少女やヒーローしか倒せないならば住民を避難させ、時間を稼げばいい。弱点が分かっているならばそこを叩けるように援護すればいい。
そうやって協力し合い今を辛うじて生きている。それが今の生き方だ。
しかしこれは人間の生き方だ。
この姿…魔物になったオレはどうやって生きていけばいいのだろうか。
魔物が発生するようになり、物流が儘ならなくなり通販や配達などは軒並み消えていった。
スマイルマークがトレードマークの大手企業も人員が確保できずに倒産した。今どき配達をしているのは日本郵政だけだ。しかし、日本郵政も都内限定であり、北海道や大阪に荷物や年賀状すら送れない。
「…ふざけんなよ」
そんな声を出しても現実は変わらない。
詰みだ。
外に出れば魔法少女やヒーローに襲われる。
配達やデリバリーサービスもやっていない。
水道やガスなどは貯金から引き落としにしてあるから心配ない。だが食料がない。
魔物はどうか知らないが、オレは人間だった。人間は3週間程度何も食べないと死んでしまう。
折角生き残ったのに、逃げ切れたのに、神はオレに死ねと言っている。
この体のせいだ。死んでいたオレを救ったのはこの体である。しかし、魔物へと変貌したこの体にオレは殺される。魔物でなくヒーローになれたらどれだけ良かったか、そう強く願ってしまうのは仕方のないことだろう。
「クソが…クソがクソがッ!」
鏡に何度も拳を打ち付ける。
一発ごとにヒビが大きくなっていくも、相も変わらず視界は鈍色であった。
「はぁ、はぁ………」
あんなに走っても疲れなかったこの体が、たったの四発の拳で音を上げた。
声を上げて慟哭したいが既にそんな気力もない。
パキパキという音を鳴らしながら居間に向かう。いつもは飲まない酒を今日だけは飲みたい、現実から目を逸らしたいのだ。
冷蔵庫を開けても中には僅かな食材と果汁ジュースしか入っていなかった。料理酒でもいいと手を伸ばすも、料理酒には多少の塩が入っていることを思い出し扉を閉めた。
打ちひしがれ、ソファーに横たわると知らずうちにだいぶ疲れていたようで、瞼が落ちていく。
あとは目を覚ました後に考えよう、そう決めた直後に意識を手放した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
窓の隙間から入ってくる太陽光で意識が浮上する。
喉の渇きと空腹を体が訴えている。そういえば今日は朝飲んでから何も飲んでいなかったな、そう寝ぼけ眼を擦りながらキッチンへと向かう。
冷蔵庫からリンゴジュースをコップに注いで口に含み、意識の覚醒と比例して段々と思い出していく。
「ヤっと起きたかい」
「んぅっ! ゲホッ!ゲホッ!……誰だ!?」
誰もいないはずの我が家で正面から突如として聞こえた声に咽せてしまう。
話しかけられるまで気がつかなかったその人物は、黒色の髪を肩まで伸ばし、男とも女かも分からないその端正な顔立ち。見たら忘れないであろうその人物はいつからかそこに座って居た。
「僕かい? 僕は…そうだねぇ、エルフとでも名乗っておこうか」
明らかな偽名。胡散臭さが溢れてやまないがそれよりもどうやって入ったのかが気になる。
玄関のドアは鍵を閉めている、横目で窓を見ようもこちらも鍵が閉まっている。
「まぁ、まぁそんな警戒しないでヨ。今日はただ話に来ただけだからさ。
「そんなことを信用しろと? …何が目的だ」
「うーん、信じてもらうしかないのだけどね。 あっ、ほら僕は君を恐れない、これが何よりの証拠じゃないかな?」
そんなことを笑いながら口にするエルフ。
やはり信用はできない、しかしこちらが打てる手もない。
「うーん、本当に警戒されちゃってるね。まるで若い女の子のようだ」
「ふざけてるのか?」
「ふざけてはないヨ。ただ本当に君と話に来ただけだヨ。 …けど、今日は無理そうだから退散するとするヨ。 また来るね」
「…二度と来るな」
エルフはそう言って椅子から立つと、なれた足取りで玄関へと向かってゆく。
どこかに潜伏されてもこちらが迷惑だと考え、玄関まで監視していると。「見送りでもしてくれるのかい?」と、おちゃらけてくる。
「あー、見送りのお礼に言っておくヨ。 『解除』そう言葉にしていると良いヨ。きっといい事があるからね」
「…そうかよ、さっさと出ていけ」
「ははは、またねー」
エルフが外を歩いていく姿を覗き穴から確認して、鍵とチェーンをかける。
また考える事が増えた。
これからの事、そしてエルフの存在。そして最後に残していった『解除』いう言葉。
あの言葉がどうしても離れなかった。
「解除………何も起きねえじゃねえかよ」
ソファーに凭れ掛かりながら言葉に出してみるも、何も変わらなかった。
やはりエルフは信用できない、緩んでいた警戒心を再び閉ざす。
腹が減った、そう考えると一気に空腹感を感じた。
食料は少ないのでどう調理しようかと考えながら立つ。
——ガチャ、ガン
立った瞬間に足元でなる金属音。
瞬間的に洗面所へと駆け出す。
足元が痛い、それを感じて喜びで震える。
洗面所に到着し、割れた鏡を見やると映る肌色。見づらいこの鏡に焦ったく思い、風呂場の鏡へと視線を向ける。
「………は?」
鏡には、肌は日焼けをしていないような白色に染まり、白雪を思わせる白髪、青く輝き続ける瞳を持つなんとも庇護欲が唆られる少女が映っていた。
「は?」
ははは、という何処かで聞いたような笑い声が聞こえたような気がする。
止まっていた思考が再び動き出す。
どうやらオレは魔物で、そして少女になったようだ。
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