ケモノと正義は血溜まりに沈む①
※この小説は不定期更新です。
ブックマーク・評価・いいね・感想ありがとうございます。
耳を擘く爆音が脳を揺らす。段ボールの誘惑も、眠気も、怠ささえも吹き飛ばされた。ただ顔を顰め頭が痛くなるほどに耳を押さえ、下部がぼやけた視界で上を仰げば赤と青が入り混じった空が見え、大量に見覚えのあるドローンが小刻みに震えているのがわかった。おそらくは警報を鳴らしているのだろう。
「み、耳が……」
人生で二度目となる警報は相変わらずな音だ。魔物が出現した時にこんなバカみたいな爆音鳴らしたら指示も聞こえないし、耳を抑えるために動きも鈍くなる。まったくお国の上層部はアホしかいないのだろうか。
未だに空気が詰まったような違和感とキーンという音が鳴り止まない耳から手を離せば、うっすらと悲鳴が聞こえてくるのがわかった。耳鳴りのせいで距離が測れないが、近くでも遠くでもないそれぐらいの距離だ。
あの警報はかなり危険な魔物が出現したことを知らせるものだ。力になりたい、魔法少女と宣言した以上参戦するべきだ。しかし体調不良で万全な力で挑むことができないのだから逃げるべきだと分かっている。理性は逃げろと警告するも欲求は周囲に認めさせろと騒ぎ立てる。次第に足は動き、視界は高くなっていた。
「こういったバカの考えが正義の味方様の足を引っ張るんだろうなぁ」
いくら鎧になって少しはマシにになったとはいえ、吐き出される空気は熱を持っている。ばっちり体調不良だ。そんな馬鹿げた行動に自分でも思わず苦笑いを浮かべてしまう。
壁に手を這わせ光の強い方へと歩いていく悲鳴と血の匂いがどんどん強くなっていく。以前の戦闘なんて比にならないほどの強い匂いに顔を顰める。あの時は室内であったからこそ鉄の匂いは充満していた。だが今は野外であるのにも関わらずさらに強い匂いになっている。一体何人が死んだのか、しかも10分と経たずに。
大通りに出るとまさしくそこは地獄であった。建物の壁には血肉がへばりつき、道路は何かが爆発したのか黒い跡が残りその周囲にはどこかしらの部位を無くした人が倒れていた。道路に開いた穴や落下してきた瓦礫は血によって染色されていた、そこに意識を向けるとさらに鉄の匂いが強くなった気がした。
そんな、あまりにも現実離れした光景に吐き気も言葉も失っていると、左手にある瓦礫の奥から何かが駆けてくる音がした。
慌てて背負っている剣を構え、いつ魔物が来てもいいようにしていると。駆けてきたのは人であるということに気がついた。脇腹を怪我をしたのか、真っ黒に染まった両手で抑えながら駆けてくるその人物は少し先で他の人の手に躓きその場で動かなくなってしまった。
慌てて駆け寄るとその人の傷の深さに気がつく。意識を失ったからか、だらんと垂れ下がった腕で抑えていた場所は腸であろうものが見える程に抉れ、中の肉はピクピクと動き血をダラダラと流している。
こんな状態では助からないことぐらいわかっている。その人の上着をちぎり、お腹を一周するように巻きつけきつく縛る。気絶していたのにも関わらず余りの痛さからか絶叫しながら起きた人の口を必死で抑える。今魔物が来てしまうとこの人を運ぶことが救うことができなくなってしまうからだ。
少し経つとまた感覚が薄れてきたのか、体力を失ってしまったのか静かになったその人の顔を除けば、目を覚ましていた。肺を大きく動かし、荒く呼吸をしている男性は血を出しすぎたからか、はたまた鎧から見える青い光を見たからか顔面蒼白させ涙を流していた。
「頼む、助けて、助けてくれ! ああはなりたくないんだ、なんでもする! なんでもするから!」
そう叫びながら俺の腕を震えながら力強く掴む男性をもう一度口に手を当てて黙らせる。抑えている腕の先からうめき声が響いているが、一旦無視をして周囲の警戒に集中する。
未だに道路の先からは悲鳴と爆発音が聞こえてくるが、幸いと言っていいべきか周囲には魔物がいないようであった。
「助けます。助けますから黙ってください!」
少々言葉が荒くなった気もするが、この人が喋るたびにプシュッと血が噴き出てくるから仕方ないであろう。剣を背中に背負い直し、男性を横抱きにして持ち上げようとする。
「アア、アガッ」
しかし、持ち上げようとした瞬間に突如として男性の傷口から全身に行き渡るような赤く輝く線が光ると。強い衝撃によって後ろに吹き飛ばされると共に血の雨が降ってきた。
手に持とうとした重みは突如として失われ、反射的に閉じた瞼を開ければ世界は赤く染まった。頬をどろっとした液体が流れていくのをやけに強く感じる。尻餅をついた際に後ろに回した腕を見れば、鈍色の光は失われ腕全体が赤黒い液体に浸されている。
先ほどまでいたであろう場所を見れば、小さなクレーターに赤色の水が溜まり物体がぷかぷかと浮いていた。周囲は放射状に赤黒い線が走っており、天から降る赤い雨によって線は消されていく。
はっはっ、っと過呼吸のように荒く呼吸をしながら抜けた腰を引き摺り後ろに下がる。
少し下がったところで、ガクンと左腕が下がった。後ろを見ていなかったから穴にはまったかと考えながら左を向くと、そこには黒色の池に浮かぶ白色の球体がオレを見ていた。
「うわぁぁぁあああ!!」
慌てて立ち上がり、近くに横転しているトラックの上によじ登る。左手についた液体を右手で落とそうと何度も払うもその色が落ちることがない。
震える左手を右手で力強く抑え、先ほど叫んでしまったために高くなった視界で周囲を見渡す。
高くなった視界によって瓦礫の奥まで見えるようになったおかげか、どの方向からも魔物が来ていないことがわかった。
そして、夥しい数の穴が道路にあいていることに気がついた。
閲覧ありがとうございます。




