暗雲低迷⑤
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「気持ちわるいぃ……」
頭に力を入れられているかのような鈍い痛み。平常時では考えられない体温は、このむせ返るような暑さのせいだけではないだろう。
手のひらについた小石を払い落として額に手を当てれば、じんわりとした熱さが手のひらに広がっていく。
まあ、つまるところ熱だ。風邪ひいた。
「あ゛あ゛あぁ……熱なんていつぶりだろ」
額を触っただけでうん、何度の熱だね、なんて特殊能力は履修していないのだからできるはずもなく。自身が何度の熱を患っているのかもわからない。もしかしたら先ほどから見えていた陽炎は、熱の影響で視界がぼやけていただけかもしれない。
ひとまずはずっと座っていても苦しい、というよりも辛いだけなので横にあった段ボールを長くなるように引いて横になる。座っているよりかはマシだと思い行動に移したが正解であった。
先ほどよりかは幾分かマシになったとは言い、鈍る思考で考えるのは無理がある。だから考えるべき事柄は少なくしていく。自宅や金はこの段ボールと30万があればなんとかはなる。段ボールというのは重ねれば意外と快適なのだ。
だからこそ考えることは、一に病院に行くか行くまいか、二に衣食住の食と衣、三に次の避難先の候補だろう。
少しでもこの照り付ける日差しから隠れるために、三角屋根を組み立ててから考えるとしようではないか。
まず病院だ。この近くには先ほどまでいた中央大学病院しかないのだ。当然その病院から逃げてきたわけなので、再び警察に追いかけ回される可能性は高いだろう。ただこれは普通の熱つまりは風邪だったら行かなくても問題ない。熱中症であった場合は行かなくてはいけないと言う感じだ。まあ、熱中症だとしてもしっかりと塩分と水分を補給して日陰に入れば重症にはならないと分かっている。後でスポドリでも買って来れば問題なかろう。よって病院は行かない。
次に食と衣をどうするかだ。食費だけならば30万もあれば余裕で7ヶ月はいけるだろう。確かこの付近、と言うよりか中央区内には魔物の被害を受けていなければ公衆浴場が数個はあったはずだ。相場は大人500円子供100円だったか。散々苦しめられたこの体に救われる日が来るなんてなんとも面白いことだ。だがこんな苦しめられているのはこの体になったせいである。やはりこの体は嫌いだ。
おっと思考がずれた、だがまあ体を清めることができるのはいいことだ。日本人として、いやお風呂好きとして体を清めないのは耐え難い。ということで住と食は問題ない。
だが衣服はどうしようか。魔物がいつどこで湧くか分からない以上、ショッピングモールは常に軍と警察が居る。情報は間違いなく通達されているであろう。しかし、買いに行かないという選択肢がないのも事実だ。まぁ、これはある程度時間が経った後でいいだろう。
では避難先をどうするか。条件は一に見つからない場所、二に安全な場所、三に清潔な場所だろう。熱を出していなかったらある程度の目安をつけるために探索にも行けたが、まぁこれは仕方がないだろう。安直なのは橋の下と、今いる場所のような路地、それと格安で泊まれる宿かネカフェのような場所だろう。最終手段としては南区に雲隠れすることだ。
「あだまが重いぃ」
少しばかりの考え事をしただけで熱が上がったのか、気のせいかもしれないが先ほどよりもしんどく感じる。これが知恵熱だとしたら普段からどれほど脳みそを使っていなかったのか。……いや、知恵熱って本当は存在しないんだったか?
まあ、そんなことは置いておくとしよう。とりあえずは少し我慢してでも服を脱ぐとしよう。さっきまで寝ていたから、その時にかいだであろう汗が服に染み込んで気持ちが悪いのだ。外で半裸になるというのは抵抗感があるが、まあ路地だし、人もこなさそうだし別にいいよね。ってことで脱ぎはじめる。
そういえば、うっかり病衣のままで逃げてしまったのだがこれは窃盗になるのだろうか。……なるだろうな、もしかしたら逃走罪もなるのか? 待って、暴行もじゃん。…………あぁ、さらに辛くなってきた。
「はあぁぁ」
この深く出たため息は熱を持った身体を冷やしたからか、またはお先真っ暗なことに希望を見出せないからか。オレ自身でも分からない疑問は尽きない。これはこの一週間だけでも増える一方であり解消する兆しすら見えない。
ただ……ただ、これだけは言える。
「……しんど」
ほんとうに、色んな意味で。
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