オレが魔法少女になった日②
※この小説は不定期更新です。
消えていた意識が爆発音のようなものによって起こされる。
身体中が熱をもったように重い。なんでこんな所で寝ているのだろうか……。
「あぁ……思い出したよクソが! なんでオレなんだよ!」
地に伏せた状態のままで怨嗟の声を漏らす。あの場には大勢の人がいた。その中からオレが選ばれるなんてどんな確率だろうか。
そんな怨嗟の声を漏らしたところで現状は変わらない。生きている幸運を無駄にしないためにも、体を動かそうとするが何かが上に乗っているのか思うように動かせない。
「……落ち着け、ここは一旦落ち着くべきだ」
脳に酸素を送るべく、深呼吸をした後に現状を確認する。
周囲は瓦礫に埋まっていて魔物に襲われない以上、ある意味安全な空間になっている。僅かに入り込んだ光からそれは確認ができた。だが、光が漏れているため隙間があるということだ。いつこの隙間が原因で崩落してもおかしくない状況でもある。
そして第二にオレが何時間寝ていたか把握していないが、おそらく魔物と魔法少女もしくはヒーローが戦っているのだろう。これはオレを叩き起こした爆発音が2、3回ほど聞こえたから予想できたものだ。
したがって衝撃でいつこの瓦礫が崩れてきてもおかしくない状況。そう判断することができた。
正直に言ってまずい状況だ。いつ崩れてもおかしくない状況の中、近くで戦闘が起きている。
「とりあえず……脱出が第一目標だ。だがどうするか……」
早いうちにこの瓦礫の中から外に出なければ、いずれ崩れてくるだろう。だがその手段がないのだ。オレの上にある瓦礫をどかそうにも、変に動かしたら崩落する危険があるからだ。
オレがやることのできる手立てはなく、救出も絶望的。万事休すかと思った。
そんな時に轟音とともに頭上に振動、そして隙間から見えるようになった光。
「…なんたるご都合主義」
なろう系の主人公と同レベルのご都合主義、宝くじをもう1回買ったらまた高額当選するんじゃないかと思ってしまうのは人間の性だろうか。
何があったかわからないが助かったことに違いない。
爆発音が聞こえなくなったので、もしかしたら魔物が倒されて瓦礫の撤去が始まったのかも知れない。
「ひとまず外に出よう、今は崩れてないがこれ以上進むともしかしたら崩れるかも知れん」
きっと瓦礫の山から生きた人間が出たら作業員はびっくりするだろう。
そんな悪どい考えが思い浮かんでしまうあたり、どうやらオレは性格が悪いらしい。
だがやらないとは言っていない。やるなら思いっきりやってやろうではないか。
瓦礫を軽く手のひらで持ち上げ、軽いことを確認する。
外からの段々と近づいてくる音に合わせて思いっきり頭を上げるっ!
数分もしくは数時間ぶりの太陽光、目の前が白く眩むが段々と慣れてきた。
そして驚き唖然とした作業員の顔………ではなくゴリラであった。
「どぅわっせぇぇぇぇいっ!!」
驚きのあまり全力で右ブローを炸裂させてしまった。
あまりにもゴリラであったから殴ってしまったが、もしかしたら限りなくゴリラに近いだけで人間だったかも知れない。だが、いきなり驚かせてきた相手が悪いのだ。せめて8:2まで持っていこう、当然相手方が8だ。と考えつつ殴ったゴリラ?を見る。
「……ゴリラ…………なのか?」
そこにいたゴリラは、体毛が漆黒に染まり、四肢のうち前足の筋肉が異常とも言えるほどに膨張していた。そして魔物の特徴である青く輝く瞳は殺意を滾らせ、眼圧だけでこちらを殺さんばかりに睨みつけている。
「………やっべぇ」
魔物という存在は、掲示板やメディアなどは恐ろしい怪物、魔法少女のような特別な力でなければ立ち向かえない怪物と報道している。出会ったならば一巻の終わり、限りなく運が良くなければ生きて帰ることは不可能。だが、この魔物はなんだろうか。一般人であるオレのブローで吹き飛んだばかりか、ダメージを負ったかのようにこちらを警戒しているこいつは。
魔物であることは間違いがない。なによりも青く輝くその瞳が証拠だ。
本来ならば背を向け全力で逃げ出すのが正解なのだろう。しかし、動物に背を向けて逃げると、追いかけられると言うのをどこかで耳にしたことがある。だからこそ、敢えて瓦礫から体を引き抜き魔物に近づいてみる。
「ああ、そうかよ…オレが怖いのか?」
オレが近づくと怯んだようにゴリラの魔物は後退して、こちらを睨みつける。
煽りながらニヤッと笑いかけると明らかに怯んだ。
やはりそうだ、魔物は実は弱い。
銃弾が効かないとされていたが、それは鱗がある魔物であって鱗がない魔物は弱い。もしくは、魔物自身が打撃にめっぽう弱い。確かにこんな化け物を殴る酔狂な奴など、ヒーローや魔法少女しかいないだろう。それ故に魔物に対抗できるのは魔法少女かヒーローだけとなったのではなかろうか。
それか、メディアが取り上げているのは本当の化け物たちなだけであって、ここらに出てくる魔物は弱いかのどちらかだろう。視聴数を考えると、確かに強い魔物の方が見栄えはいいだろう。そういう大人の事情があるかもしれないな、そう考えることができた。
ゆっくりと歩きながら近づいていくと、ゴリラはこちらを殴ろうと大振りに腕を持ち上げた。
妙に遅い。テレビの中継ではカメラが追いつけていなかったのだが、このゴリラは動きも遅ければわかりやすい。
なんなら今の高校生たちの喧嘩の方が強く見えるだろう。
拳を相手の内側に潜ることで回避し、そのまま立ち上がる力を利用してアッパーを打ち込むとまたもや吹き飛んでいった。
「いや、待って………ゑ? あのゴリラ軽すぎない?」
魔物は打撃に弱く見た目に反して軽い、この情報を公開したら人類は魔物に対する有効な手段を手に入れるのではなかろうか。
魔物が吹き飛んだ場所に近寄ると、そこにはドロドロとした黒い液体と黒色の水晶のようなものが落ちていた。
近づくまでは気が付かなかったが、凄まじい悪臭だ。血のような鉄の匂いに、硫黄のような腐卵臭をごちゃ混ぜにした匂いだ。
水晶だけは綺麗だったので綺麗にして楓のアクセサリーにしようと考えていると、背後から魔物と似たような明らかな敵意を感じ、汚れるのを我慢してドロドロの上を転がり避ける。
頭を上げると、透明の剣を片手に持った傷だらけの魔法少女がこちらを睨んでいた。
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