第四十九便 加齢臭なんて言わないでっ!
七つ道具(七つでは足りない)
仮眠用毛布 左記にも触れましたが、仮眠用と梱包用は一応分けています。
OBD2の電源が入った。暗闇にぼんやりとした光が差し込む。
「おはよう」
お兄ちゃんの声が聴こえる。そして、お兄ちゃんの顔も見える。
「おはよう、お兄ちゃん。もう朝?」
「フッフでも寝ぼけるってあるのかな? 外はまだ暗いよ」
確かに。
〝寝て〟から車内の時計で5時間二十五分、この国の時間だと三時間弱。
「昨日の感じだと、後5時間くらいで夜が明ける。波もおさまったし、そろそろ出発しよう。そうすれば、朝のうちに前線に薬を届けられるだろう」
お兄ちゃんはそう言うとスマホをホルダーから外して首にかけた。
「〝異世界ぴょん吉〟状態だ……」
「何?」
「あ、な、何でもないよ」
オレは慌ててごまかす。
「それよりグリシーヌたちを起こさないと」
「そうだね。でも、その前に」
お兄ちゃんはオレから降りると、ルーフキャリアに固定されていた携行缶を下ろした。
「寝る前に、俺たちばかり食事しちゃったからね」
お兄ちゃん、優しい!
お兄ちゃんが給油口を開けて、ガソリンを補給する。
「さいっ、こうっ!」とか、言わないよ?
つーかあの女神、とことんどーでもいい情報ばっかりインストールしやがって。どうせならこの島の地図データでも入れとけっての。
でも、おいしい。
「半分以上入った。〝馬時〟って単位はあてにならないけど、多分、このまま前線まで行けると思う」
もしかしたら、お腹いっぱいになるのはこれが最後かも。
そんな不安をかき消すように、オレは精一杯元気に言った。
「うん、ごちそう様、お兄ちゃん」
そうだ。
もしかしたら、前線までが、オレが〝赤帽車〟としての最後のドライブになるかも知れない。でも、精一杯頑張るよ。
前線までの道はまだわからないけど、城までは……。
あれ?
ええと、オレは昨日、タンクローリーとぶつかりそうになって。
その後、ダートで跳ねて。
火矢がオレの中を通過して。
あれ?
あれれ?
うろたえるオレに気付かず、お兄ちゃんは携行缶をルーフキャリアに戻して固定した。それから小屋の扉をそっと開ける。室内ではグリシーヌとヴィオレットが毛布にくるまって仲良く寝ていた。
毛布?
「お兄ちゃん、あの、毛布?」
オレが小声で訊くと、お兄ちゃんはかまどの様子を見ながら、やっぱり小声で答えた。
「あ、うん。思ったより冷えたからね、俺の仮眠用の毛布を二人にかけた」
しまった!
オレの不安があらぬ方向で的中しちゃった。
小娘が夜這いしなくても、まさかのお兄ちゃんの夜這い!
「お、お兄ちゃん? な、何で、二人が寝る前に渡さなかったの?」
「いや、俺の汗吸っておっさん臭いかもしれないから嫌だろうって思ってね。でも、背に腹は代えられない、ってとこで」
よ、余計な気遣いを!
それとも、オレを出し抜くための策略!?
まさか、自分の加齢臭でマーキング?
この国の洗脳状態を批判しておいて、自分はいたいけな少女たちを寝てる間に洗脳しようっての?
グリシーヌ、ヴィオレット。
許す。
この淫行条例違反のおっさんを叩き出せ!
……なのに、なのに!
二人とも安心しきった顔で寝やがって!
『あ…』
グリシーヌが起きた?
……でも、目は閉じたままだ。
『荷車の騎士様、すごい……』
どんな夢見てんだよーーーーっ!
『んん……』
隣の妹がぐずる。
『に、荷車の騎士、変なところを触るなですの』
ヴィオレット、お前もか。
注1 ガソリンごくごく(良い子は真似しないで下さい)




