↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/125

第四十便 スパイだなんて言わないでっ!

七つ道具(七つでは足りない)

水平器 洗濯機の設置時などに(洗濯機に備わっている場合もありますが)。


『あー、おいしかった』


 グリシーヌが紙コップを置いた。

 隣で空気となってビスケットとスープをむさぼっていたグリシーヌも、満足したのか子供っぽい顔でほっこりしている。

『何だか、体の中が暖まったら、眠くなってきてしまいました』

「少し休んだ方がいいですよ。嵐は夜半には去りそうですし、崖さえ通れるようになれば、夜明け前でも出発します」

『ええ、前線が心配ですもの』

『そうですの! 薬草を早く届ければ、わが軍の兵士が復活して、西の国に総攻撃をかけられるんですの!』

 またそれ? この戦闘狂娘が!

『そうね。そうすれば冬に向かって戦略が立てられるしね』

 グリシーヌが微笑む。

「ええと、フッフに積み込んだ薬草は、前線の兵士の皆さんに使ったら残らないんですか?」

『わが軍の兵士はそんな軟弱じゃないですの! 半分の半分もあれば足りるですの!』

「それじゃ、残った薬草を西の国の兵士に回すことも可能なんですね?」


『はい?』

 グリシーヌが硬直した。


『なっ?』

 ヴィオレットが口をぽかんと開け、それから弓を手に立ち上がった。


『荷車の騎士! やはりお前は西の国の間者か!』

 そう言って弦を引き、矢をお兄ちゃんに突き付ける。

『ヴィオレット! 何しやがるんだ!(しまった! お兄ちゃんの質問をそのまんま通訳するんじゃなかった)』

『ヴィオレット、やめて!』

 グリシーヌがヴィオレットを止めながら、お兄ちゃんを恨めしそうに見る。

『い、いくら荷車の騎士様でも、そのお言葉はひどすぎます。撤回なさってください』

『グリシーヌこそ、お兄ちゃんに助けてもらっておいてひどいよっ!』

 オレが怒鳴り返す。

『そしてヴィオレット! 弓を下げろ! そして殺気立った目でお兄ちゃんを見るなっ!』

『何を言いますの! 敵に利するような者を生かしておく理由などないですのっ!』

『敵ったって同じ人間じゃん?』

『同じではないですの! 敵国ですのっ!』

『そうよ、フッフ! 西の国の軍には、我が国の兵士が何人も殺されてるのよ!』

『でも、グリシーヌたちの国の軍だって相手の兵士を殺してるんだろ!』

『あたりまえですの! それが戦争ですの!』

『で、で、でも』

「フッフ!」


 返答に詰まった俺をお兄ちゃんが遮った。

『グリシーヌ、姫様、ヴィオレット、姫様、すみません』


 お兄ちゃんは片言で謝った。

 それから頭を深々と下げたのは、オレの視線がものすごく下がったことで察しがついた。

 

 お兄ちゃんが顔を上げてから数秒、ようやくヴィオレットが弓を下ろした。グリシーヌがぐったりと座り込む。


『次にそんなこと言ったら、問答無用で射殺すですの!』

 矢を箙(えびら)に戻しながらも、ヴィオレットはお兄ちゃんを睨んだままだった。

『ヴィオレット、やめなさい。荷車の騎士様は島外から来られた方だから、この島の事情をご存じないのよ』

『ならば黙っていればいいですの! 余計な口出し無用ですの!』

『小娘こそ』

「フッフ!」

 ムカつくオレを又お兄ちゃんが遮る。それからかまどの鍋を火から避けた。

 

 それからしばらくは、気まずい静寂。


 ヴィオレットはまた不貞腐れて寝転がり、グリシーヌは炎をじっと見つめる。

 お兄ちゃんが時々薪をくべて、炎の加減を調整していた。


『そ、それにしても』

 そのプレッシャーに耐えられなくなったのか、とうとうグリシーヌがいかにも取り繕う感じでわざとらしく手を合わせた。

『に、荷車の騎士様は、いつでも料理の魔法の素材を用意していらっしゃるんですね?』


 かなり無理があるけど、涙ぐましい努力は認めるよ、グリシーヌ。


「ええ、数年前から」

 お兄ちゃんが(多分)微笑みながら答えた。

「ある年の冬、納品の帰路、大雪に閉じ込められましてね。あの時は三日三晩身動きが取れませんでした」


『えっ?』


 グリシーヌの顔が引きつった。

『に、荷車の騎士様も、〝冬の魔王〟の攻撃を受けたことがあるんですか?』

 隣のヴィオレットも眉を顰める。

『ど、どこで攻撃されたんですの? どんな軍勢だったんですの? どうやって撃退したんですのっ!?』

「ええと、その、〝冬の魔王〟って、いったいどんなものなんでしょう?」

 お兄ちゃんが少し間を置いてから訊き返した。

「それに、さっきから疑問だったのですが、かつてこの街を襲ったという〝夏の魔女〟とは?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。