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第62話 魔法学園㉜

葵と梓紗は同時に動きを止める。


さっきまで聞こえていた街の賑わいが嘘みたいに遠く感じられ、二人の間には重たい静けさだけが流れた


「……聞こえたよね」


梓紗が小さな声で尋ねる


「ああ」


葵は短く返すと、ゆっくりと扉へ手を掛けた


古びた蝶番が小さく軋み、店内へ細く光が差し込む。


思っていたより広い


カウンター席とテーブルが並び、壁際には色褪せた写真や時計が掛けられている。長い間使われていないのか床には薄く埃が積もっていたが、不思議なことに入口から奥へ向かって一本だけ埃の切れている跡があった。


「……誰か入ったのかな?」


梓紗もその跡に気付き、葵の隣で息を潜める


返事はしない


その代わり、葵は視界の端へ目を向ける


【対象まで 0m】


表示は変わらない。


間違いなく、この建物の中を示している


ゆっくりと足を踏み入れる。


一歩、また一歩と奥へ進むたび、床板が小さく軋み、その音だけが静かな店内へ響いていく


すると再び


カタン――


今度はさっきよりも近い。


二人は反射的に音のした方を見る。


カウンターの奥


半分だけ開いた扉がわずかに揺れていた


風ではない


さっきまで閉まっていたはずの扉が、誰かに押されたようにゆっくりと動いている


葵は梓紗へ小さく目配せする


梓紗も黙って頷き、足音を殺しながら後ろへ続く


あと数歩。


扉まで手が届く、その距離まで近付いた瞬間――


補助干渉リンクの表示が、不意に一行だけ書き換わった


【検索対象……反応消失】


「……は?」


さっきまで【0m】だった表示が、一瞬で消える


まるで、そこにいた"何か"が今この瞬間、どこかへ消えたかのように


もちろん。今回は改行をかなり減らして、横へ流れる文章を意識して書いてみるね。


葵は思わず足を止めた。さっきまで視界の端へ浮かんでいた表示はまるで最初から存在しなかったかのように静かに消えている


補助干渉リンクが反応を失ったことよりもその消え方が妙に引っ掛かった。追い付いたから消えたのか

それとも何か別の理由があるのか、答えを考える間もなく店の奥から漂う張り詰めた空気が二人の足をその場へ縫い付ける


「どうしたの?」


梓紗が小さな声で尋ねる


「……反応が消えた」


「見つかったってこと?」


「いや、それならいいんだけどな」


葵は短く返しながら半開きの扉へ視線を向ける。店内は静まり返っているのに不思議と誰もいないとは思えない、誰かが息を潜め、こちらの様子を窺っているような感覚だけが肌にまとわり付いて離れなかった


ゆっくりと一歩踏み出す


床板が小さく軋み、その音が静かな店内へ響いた


その瞬間だった。


「――おい誰だ」


低く落ち着いた男の声が、扉の向こうから静かに響く


怒鳴るような声ではない


警戒しながらも、こちらを確かめようとしているような声音だった。


葵と梓紗は思わず顔を見合わせる


少なくとも、いや絶対中田の声ではない


聞き覚えも無い


それでも、この店に誰かがいることだけははっきりした。


葵は一度だけ小さく息を吸い、扉の向こうへ聞こえるよう少しだけ声を張る


「急に入ってすみません。人を探していて……少し話を聞きたかったんです」


返事はすぐには返ってこない。


店の奥は再び静けさに包まれ互いに相手の出方を探るような数秒が流れる、その短い沈黙が妙に長く感じられ、梓紗も自然と葵の少し後ろへ身を寄せた。


やがて、ゆっくりと足音が一つ


また一つ


奥の暗がりから、誰かがこちらへ歩いてくる音だけが静かに近付いてきた


やがて足音は扉のすぐ向こうで止まった。


数秒にも満たない沈黙が流れ、古びた扉がゆっくりと内側から開く


薄暗い部屋の奥から姿を現したのは四十代ほどの男だった。無精ひげを生やし色褪せた上着を羽織っている、その鋭い目は葵と梓紗を順番に見つめたあと、小さく息を吐いた


「……おまえさん達は学生か」


敵意のある声ではない。ただ、見慣れない相手を警戒しているだけだと分かる


「はい。急に入ってしまってすみません、人を探していて」


葵がそう答えると、男はすぐには返事をせず二人の様子を確かめるようにじっと見つめた。「人探しか」と呟き、その視線がふと葵の手元へ落ちる


葵は迷わずポケットへ手を入れ、ダンジョンで拾ったキーホルダーを取り出した。


「この持ち主を探しています。何か知りませんか」


手のひらへ乗せられた小さなキーホルダーを見た瞬間、男の表情がほんのわずかに変わる。目が少しだけ細まり、何かを思い出したように視線が止まった。その変化は一瞬だったが葵には十分すぎるほど伝わっていた


「……知ってるんですか?」


問い掛けると、その男はキーホルダーを見つめたまま静かに考え込み、やがて諦めたように肩の力を抜いた


「その持ち主ならここへ来たことがあるな」


その一言だけで胸が大きく脈打つ


「それは…本当ですか」


思わず一歩前へ出る葵を見て、男は小さく頷いた


「ああ、忘れるはずがない。あいつもお前さん達と同じくらいの歳だったからな。ここへ来たのは……そうだな、三日くらい前だったか」


三日


その短い言葉が頭の中で何度も繰り返される


思っていたよりずっと最近だ


中田はまだこの街にいた


しかも、つい数日前まで。


「今はどこにいるか分かりますか」


葵は息を整えながら尋ねる


男は少し困ったように眉を下げ、ゆっくり首を横へ振った。


「それは分からない。ただ、一つだけ気になっていることがある」


その言葉に店の空気が少しだけ張り詰める


男は入口の方を一度だけ確認すると、声の大きさを少し落とした。


「立ち話で済ませる話でもない。取り敢えず中に入れ」


静かな店の奥へ目を向けながらそう言う男の表情はさっきまでとは少しだけ違って見えた。何かを知っているかもしれない、しかもそれは簡単に人前で話せる内容ではない――そんな空気だけが店の中へ静かに漂っていた。

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