第46話 魔法学園⑮
『解析失敗』
表示がノイズ混じりに揺れ、そのまま視界から消える
「……っ」
葵はわずかに眉を寄せた。今までと違う、梓紗の時みたいに強い圧力があるわけじゃない。
けれど、補助干渉リンクが勝手に弾かれた感覚だけが頭へ残っていた
リオはそんな葵を見ながら、小さく首を傾げる
「……どうかしたの?」
「あっいや……別に」
短く返し、葵は視線を逸らす。けれどその瞬間だった
リオの肩付近でほんの一瞬だけ何かが揺れた気がした。淡い光、小さな粒みたいな何か。
瞬きをした次の瞬間には、もう消えている
「……?」
葵が小さく目を細める。だが周囲の誰も気づいていない、ガイも他のクラスメイトも普通に話している。リオだけが不思議そうな顔のままこちらを見ていた
その時、教室の前方でチャイムが鳴る。一気にざわついていた空気が動き始める
「やべ、先生来る」
「おい席戻れってー」
周囲の空気が日常へ戻っていく中でも、葵の頭にはさっきの表示だけがまだ引っかかっていた。今まで、こんな反応は出たことがない
先生が入ってくると、教室の空気は一気にいつもの朝へ戻っていった
「はい席つけー、ホームルーム始めるぞー」
だるそうな声と同時に周囲から椅子を引く音が重なる。葵も静かに前を向く、けれど頭の奥ではまだ少しだけノイズが残っている
『解析失敗』
あの表示が消えない、補助干渉リンクが弾かれた。何でだ?今までそんなことはなかった、梓紗の天獄みたいな危険とも違う。もっと静かで、掴めない感じだった
ふと視線を横へ向ける。リオはもう普通に教科書を机へ置いていた、さっきまでの違和感なんて何も無かったみたいに静かな顔をしている
その瞬間だった
リオの耳元付近で、また淡い光が小さく揺れた。小さいけれど今度は見間違いじゃなかった。淡い粒みたいな光が、リオの周囲をゆっくり漂っている
「――っ」
葵の視線が止まる。だが次の瞬間、そいつはまるで葵の視線へ気づいたみたいに、すっと消えた
『干渉反応を確認』
頭の奥で小さく声が響く。その直後リオが静かにこちらを見る、一瞬だけ目が合った
なぜか分からない、けれど葵はその瞬間だけ妙な感覚を覚える。
まるで自分だけじゃなく“向こう側”からも見返されているみたいな、不思議な感覚だった
……いや、今は気にしなくていいか
葵は小さく息を吐き、無理やり意識を前へ戻す
考え始めたらキリがない。それに今は学校だ、補助干渉リンクもまだ完全に理解できているわけじゃない
『干渉反応を待機状態へ移行』
頭の奥で小さく表示が流れる。ノイズも少しずつ静かになっていった
前では先生が黒板へ文字を書き続けている
「――だからここ、テスト出るからなー」
周囲から「うわ最悪……」みたいな声が上がる。そんなやり取りを聞きながら、葵もゆっくり教科書を開いた
(あれ、テストに出るとこ全く聞いてなかった)
なんだかんだ久しぶりの学校。
なのに不思議と前みたいな退屈さは感じなかった
――
チャイムが鳴り、最初の授業が始まる
「はい、教科書四十二ページ開けー」
数学教師の気だるそうな声が教室へ響く。周囲でもぱらぱらとページをめくる音が重なっていった
葵も教科書を開きながら前を見る
黒板へ書かれていく数式。二次関数。いつもなら特に何も思わないはずだった
けれど――
「……?」
頭の中へ、妙な感覚が走る
黒板へ書かれた式が、一瞬で頭の中へ流れ込んできた
解き方。途中式。答え。
全部がほとんど同時に浮かぶ、なんだこれ
『多重処理を確認』
頭の奥で小さく表示が流れる
……速い。
いや、違う。速いというより、“並列で考えている”感覚だった
先生がまだ説明している途中なのに、頭の中ではもう最後まで解き終わっている
「……」
葵はわずかに眉を寄せる
前まではこんなこと無かったはずだ
『集中制御:安定』
『処理負荷:低』
また表示が流れる
まるで頭の中に別の処理装置でも増えたみたいだった
その時。
「じゃあこの問題、誰か解いてみろ」
先生が黒板を軽く叩く
周囲が一気に静かになる
「えー……」
「だる……」
そんな声が聞こえる中、葵は黒板を見たまま小さく息を吐いた
……簡単すぎる
そう思った瞬間だった
「じゃあ久々に来た水瀬」
「お前やれ」
教室の視線が一気に集まる
「うわ、初めから当てられてる」
「タイミング悪……」
そんな声が周囲から聞こえる中、葵は小さく息を吐きながら立ち上がった
黒板へ近づく
問題を見る。けれど――
もう答えは頭の中へ出ていた
途中式も、計算も、全部ほとんど同時に浮かんでいる
『多重処理:実行中』
また頭の奥で表示が流れる
……なんなんだこれ。
妙に頭が回る。考える前に答えへ辿り着いている感覚だった
葵はチョークを持つと、そのまま黒板へ式を書き始める
カツ、カツ、と音だけが教室へ響く
途中式。計算。答え。
ほとんど止まることなく書き終わる
「……はい」
チョークを置き、席へ戻ろうとした瞬間だった
教室が少し静かになっていることに気づく
「……え?」
「すげー……」
誰かが小さく呟く
先生も少しだけ目を丸くして黒板を見ていた
「……正解」
そう言いながらも、どこか不思議そうな顔をしている
葵は軽く頷き、そのまま席へ戻ろうとする
周囲から視線が向くのが分かった
「はやくね?」
そんな声が小さく聞こえる
……やっぱ前出るの苦手だな
久しぶりっていうのもある。元々こうやってクラス全員の視線が集まるのは得意じゃなかった。喋れないわけじゃないけれど人前へ出ると妙に喉が重くなる感覚がある
さっき立ち上がった瞬間も、一瞬だけ身体が固まりかけていた
けれど今は、不思議と頭だけが妙に冷静だった
『集中制御:維持』
また頭の奥で小さく表示が流れる
……これのせいか?だがまぁ助かるな。
そんなことを考えながら、葵は静かに自分の席へ座った




