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第24話 変わる希望

葵はゆっくりと視線を外す。


このまま考え続けても、今は答えは出ない。


「……」


一度だけ息を整えてから、リリスの方を見る。


「……あの」


リリスが軽く視線を向ける。


「なに?」


いつも通りの調子。


葵は少しだけ間を置いてから口を開く。


「魔法の……学園みたいなのって、ありますか」


その言葉に、リリスがわずかに眉を動かす。


「あるわよ」


あっさりした返答だった。


「基礎から教える場所もあるし、戦闘寄りのところもある。まあピンキリね」


少しだけ考えるように視線を外す。


「なんで?」


葵は少しだけ迷う。


けれど、すぐに目を逸らさずに答える。


「……ちゃんと知りたいので」


短い言葉だったが、それで十分だった。


リリスは小さく息を吐く。


「そう」


否定はしない。


その代わりに、少しだけだけじっと見る。


「いいんじゃない。今の状態で独学よりはマシよ」


それは許可に近かった。


葵は小さく頷く。


そのまま、もう一つだけ続ける。


「……あと」


少しだけ言いづらそうに間を置く。


「リリスは……適性、あったんですか」


その問いに、空気がほんの少しだけ変わる。


リリスは一瞬だけ黙る。


それから、軽く肩をすくめる。


「ないわね」


あまりにもあっさりした答えだった。


葵の目がわずかに動く。


「……え」


「正確には、“まともな数値は出なかった”って感じかしら」


特に気にした様子もなく続ける。


「さっきのあんたとは違う意味で、ね」


葵は言葉を失う。


あの強さで、適性がない。


理解が追いつかない。


リリスは軽く肩をすくめる。


「だから別のやり方を覚えただけよ」


指先をわずかに動かす。


空気が、ほんの少しだけ歪む。


「魔力の流れとか自然の循環とか、そういうのをそのまま使うやり方」


淡々とした説明。


けれど、それだけじゃない。


「……あと」


一瞬だけ間が入る。


「言葉も使う」


葵の視線がわずかに上がる。


「言葉……ですか」


「ええ」


リリスは少しだけ笑う。


「言霊ってやつ」


その言い方は軽いのに、どこか確信がある。


「言葉に意味を乗せて、現象を固定する。まあ簡単に言えば“命令する”感じね」


葵の中で、何かが繋がる。


止めたとき。


自分も、確かに言っていた。


「……止まれ」


小さく呟く。


リリスがそれを聞いて、少しだけ目を細める。


「もう使ってるじゃない」


否定じゃない。


確認に近い声だった。


葵はわずかに息を詰める。


「……あれも、言霊なんですか」


「厳密には違うけど、近いわね」


リリスは軽く答える。


「本来は適性とか魔力の流れを通して現象を起こす。でも言霊はそれを“飛ばす”」


指先で軽く空をなぞる。


「だから難しいし、普通は安定しない」


一瞬だけ視線が鋭くなる。


「でも、決まれば強い」


その言葉には重みがあった。


葵は黙る。


さっきの感覚。


“結果の手前”に触れて、言葉で固定する。


もしそれができるなら。


「……」


リリスはその表情を見て、小さく笑う。


「いいわね」


少しだけ楽しそうな声。


「適性なしでやってきた私と、全部に触れてる葵」


ゆっくりと一歩近づく。


「やり方は違うけど、行き着くところは似てるかもしれないわよ」


葵は何も言わない。


けれど、その言葉は確かに残る。


言葉で動かす。


触れて、変えて、固定する。


今までバラバラだったものが、少しだけ形になる。


「……」


わずかに視線を落とす。


まだ分からないことの方が多い。


けれど。


“できるかもしれない”という感覚だけは、消えていなかった。


そのとき。


リリスが軽く手を叩く。


「はい、終わり」


空気が一瞬で切り替わる。


葵が顔を上げる。


リリスはもう興味を失ったみたいに背を向けていた。


「結果はだいたい分かったでしょ」


振り返らずに言う。


「帰るわよ」


あまりにもあっさりした締めだった。


葵は一瞬だけ反応が遅れる。


「……え、もうですか」


「十分よ」


リリスはそのまま歩き出す。


「これ以上ここにいても、新しい情報は出ないわ」


確信を持った言い方だった。


葵は少しだけその場に残る。


装置を見る。


火:低

水:低

風:微量

土:低

干渉系:測定不可


変わらない表示。


それでも。


“変えられるかもしれない”


その感覚だけが、確かに残っている。


「……」


小さく息を吐く。


そして、そのままリリスの後を追う。


部屋を出ると、さっきまでの重い空気が少しだけ薄くなる。


廊下に足音が響く。


リリスは変わらない歩調で前を進む。


「で」


不意に口を開く。


「学園、どうするの?」


振り返らずに聞いてくる。


葵は少しだけ間を置く。


頭の中に、いくつものことが浮かぶ。



数値


言霊


全部が繋がりかけている


「……行きます」


小さく、でもはっきりと答える。


リリスはそのまま少しだけ笑う。


「そう」


短い一言


それから、ほんの一瞬だけ間が空く。


「……ちょっと悲しいわね」


ぽつりと、軽く零すような声だった。


葵の足がわずかに止まる。


「……」


少しだけ迷ってから、口を開く。


「そういえば……俺が来る前って、リリスは何してたんですか」


リリスの足が、ほんのわずかにだけ遅くなる


振り返りはしない。


「別に」


あっさりとした返事。


「適当に生きてただけよ」


軽い言い方だった。


けれど、それ以上広げる気はないのが分かる。


少しだけ間が空く。


「一人で?」


葵が続ける。


リリスは小さく息を吐く。


「まあね」


それだけだった。


余計な説明はない。


ただ、その一言だけが静かに残る。


葵はそれ以上聞かない。


聞ける空気でもなかった。


少しだけ沈黙が続く。


そのあと、リリスがいつもの調子に戻る。


「まあ、ただの学校みたいなものよ。時間も決まってるし、寮ってわけでもないし」


軽く肩をすくめる。


「もし行くなら、普通に通う感じになるわね」


何事もなかったみたいに話を戻す。


葵は小さく頷く。


「……分かりました」


リリスはそれ以上何も言わない。


ただそのまま歩き続ける。


外に出ると、朝の空気が少しだけ変わっている気がした。


何かが、確実に動き出している。


家に戻る頃には空気はすっかり落ち着いていて、さっきまでの測定の重さも外の風に紛れて少しだけ薄れていた。リリスはそのまま靴を脱いで中に入り、振り返ることもなく「じゃあ少しだけやるわよ」とだけ言う


葵は一瞬遅れて反応する

「……何をですか」


「決まってるでしょ、さっきの続き。葵まだ全然制御できてないじゃない」


否定できず、小さく頷いてそのまま外へ出る。家の裏、昨日と同じ場所に立つと、リリスは足元の石を一つ拾い上げて軽く放った


「止めてみなさい」


短い一言


葵はすぐに意識を向ける

「……止まれ」


石は一瞬だけ空中で引っかかるように止まり、次の瞬間そのまま落ちた。乾いた音が地面に響く


「遅い。“止める”じゃない、“止まる状態にする”」


同じ言葉に聞こえるのに意味が違う。葵は息を整えながらさっきの感覚を思い出す、触れる前、結果になる前、その手前にある何かに意識を向ける


もう一度、石が投げられる


「落ちるな」


言葉を変える。その瞬間、石は空中でぴたりと止まる。完全ではない、わずかに揺れている。それでも落ちない


葵の呼吸が止まる、そのまま維持しようとするが意識が揺れた瞬間、石は静かに落ちた


「今の、悪くないわね」


リリスが小さく呟く。その声にはほんの少しだけ評価が混じっている


葵は何も言わない。ただ今の感覚を逃さないように繋ぎ止める。“言葉で固定する”という感覚が、ほんの一瞬だけ形になった


「もう一回」


それだけ言うと、リリスは何も言わずにまた石を投げる。止まる、落ちる、揺れる、その繰り返しの中で少しずつだけ“繋がる時間”が伸びていく


「……そこまで」


リリスが手を上げると同時に葵も意識を切る


「今の状態ならまあ最低限はできるわね、学園でも即落ちることはないでしょ」


軽い言い方だったが、それは確かに一つの基準だった


葵は小さく息を吐く、思っていた以上に疲れている。それでも嫌な疲れじゃない


「……ありがとうございます」


自然に出た言葉に、リリスは一瞬だけ目を細めてからすぐに視線を外す


「別に」


短く返してそのまま歩き出す


「学園の手続きは済ませておくわ、だからあんたは明日から行ってきなさい」


あまりにもあっさりした言い方に、葵は少しだけ足を止める

「……明日から?」


「どうせ悩んでも同じでしょ」


その一言に少しだけ力が抜ける


「……分かりました」


小さく頷くと、リリスはそれ以上何も言わず家の中へ入っていく


葵は少しだけ空を見上げる。昨日とは違う、確実に何かが進んでいる感覚だけが残っていた。手の中にはまだ不完全な感覚、それでも


「……やるか」


小さく呟いて、そのまま中へ戻る

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