最初の違和感と沈黙
チャイムが鳴った。
一時間目、英語。
よりによって、一番嫌いな授業だ。しかも発表があるらしい。
……まあ、俺には関係ない。
いつも通り、当てられたら首を横に振ればいい。それで終わる。
――のはずだった。
「次、水瀬ー……おい、水瀬。早くしろ」
……来た。
しかも呼び捨てかよ。
「おい水瀬、みんな待ってんだろ」
ざわ、と視線が集まる。
息が詰まる。うまく呼吸できない。
そのとき、隣のやつが小声で話しかけてきた。
「お前またやり過ごすつもりか? あいつ怒らせんなよ」
……そんなこと言われても、できるわけがない。
俺は場面緘黙症だ。
人前で話すなんて、無理に決まってる。
……今、「甘えじゃね?」って思ったやつ。
違うからな。
こっちは、話そうとしても
喉が詰まって、声が出ないだけだ。
「いやー、ちょっとめんどくさくてさ」
隣のやつが適当にごまかす。
「お前それでやらないとか勇者だろw」
「……うるせ、バレるから黙ってろ」
小声で返すのが精一杯だ。
「水瀬。できねぇなら前来て、“できません、すみませんでした”って頭下げろ」
……は?
何言ってんだこいつ。
もういい。
どうでもいい。
「水瀬、お前授業終わったら前来いよ。……はい、次、中田ー」
最悪だ。
呼び出しまで食らった。
―――――――――
授業の終わりが近づく。
教室はざわざわと騒がしい。
誰も授業なんて聞いていない。
……うるさい。
やめてくれ。
頭の奥がじんわりと痛む。
静かにしてほしい。
……いや、違う。
静かにしろ。
――その瞬間。
教室の音が、消えた。
ざわめきも、椅子の音も、誰かの笑い声も。
全部、きれいに消えた。
まるで、音だけが切り取られたみたいに。
「……今、なんか変じゃなかった?」
「一瞬、音消えたよな?」
周りがざわつく。
……当たり前だ。
俺も分かってない。
ただひとつ確かなのは。
さっきの“あれ”は、偶然じゃない。
チャイムが鳴る。
授業終了。
「水瀬。前来い」
……忘れてた。
最悪だ。




