18.
「リース...、このドレス少し派手すぎない?」
舞踏会当日。
鏡の前で、真紅のバラのように真っ赤なドレスに身を包んでいる自分の姿を見て、思わず不安が口について出る。
足元でドレスの最終調整をしているリースが呆れたように顔を上げる。
「まだ言ってるんですか?お屋敷からはこの一着しか持ってきてないから、今更変えるなんて無理ですよ」
グランヴィルの屋敷は辺境すぎて王都から馬車で半日以上かかる。
なので舞踏会に参加するには前日から移動して、王都の貴族向けの宿で準備をする必要がある。
わたしの初の舞踏会ということで、使用人たち、主にリースが何故か張り切っている。
ドレスを選ぶ時だって、本当ならあまり目立たない色を選ぶ予定だったのに、横からリースが意見してきて、押し切られる形で今着ているドレスに決定してしまった。
店で着たときはそこまで気にならなかったけど、やはり化粧や装飾込みだと印象が全然違う。
迂闊だった、もっとよく考えて選ぶべきだった。
これだと田舎娘が、初めての舞踏会に浮かれてるって悪目立ちしてしまうんじゃなかろうか。
「もぉーー、心配しすぎですって!!ほら、アンナ様!アンドリュー様なら今のアンナ様の姿を見たらきっと、
『僕の可愛いアンナ、今日の君はまるで薔薇の女神のように美しいよ』
とか言ってくれますよ」
リースが似ていない声真似でアンドリューの真似をする。
「アンドリューがそんなこと言うはずないでしょ!!せいぜい
『やぁ、アンナどうしたんだい?薔薇の仮装なんかして』
とか言うに決まってるんだから!!」
「さすが、アンナ様。今一瞬アンドリュー様が見えました」
「当たり前でしょ!!何年あいつと双子やってきたと思ってるのよ」
わたしの反応を見て、リースは髪を梳かしながら、満足そうに笑った。
「それに、王宮での舞踏会ですよ?アンナ様より派手な格好されてる方なんてたっくさんいますよ」
「そうかしら...」
「あとこのぐらいしないと、セドリック様に見つけてもらえないかもしれないじゃないですか」
「...別に」
セドリックは、きっとこんな派手な格好でなくても見つけてくれると思う。
何故か、そんな気がした。
「あ、あとアンナ様。名乗るときはなるだけ気を付けてくださいね」
髪に香油を塗りながら、リースは思い出したかのように話し進める。
「どうして?」
「だって、アンナ様、今魔性の女として有名ですもん」
「...は?」
まったく身に覚えない話が出てきて、鏡越しにリースを見る。
魔性の女って、どういうこと...?
「アンナ様、最近までセドリック様と婚約関係にあったでしょう?セドリック様は三男といえど、侯爵家のご子息ですからね、婚約されただけでも貴族間の間でお噂は流れますよ」
髪を整えてもらいながら、リースの話に耳を傾ける。
「そこで更に短期間で破棄されたってなると、皆さんお相手が気になるってわけですよ」
「どうしてそれで魔性の女になるの?」
婚約破棄されたのは、わたしのほうなのに、それだとまるでわたしがセドリックを振ったみたいじゃない。
「世間はどっちが破棄したかなんてどうでもいいんですよ。要は短期間でセドリック様と婚約、そして破棄までやってのけたアンナ様がかなりの手練だと思われてるんですよ」
「末恐ろしいわね...、世間の噂って...」
「はい、辺境の田舎に引きこもってたアンナ様には少し刺激が強すぎるかもしれません」
リースは大きく頷きながら、最後の仕上げに髪留めで髪を束ねた。
「てか、リースは逆に詳しすぎない」
「わたしの従姉妹が、王宮で侍女として働いているので噂は自然と入ってくるのです」
とりあえずわたしに対してまったく見当違いな噂が流れていることはわかった。
この話を聞いたらますます今日の舞踏会で目立つ行動は控えようと思えた。
セドリックと接触するにしても、誰も見てないところでこっそりと隙を見て、しよう。
「じゃーん、アンナ様史上最強に可愛いアンナ様かーんせーっ」
話をしているうちに支度を終わらせたリースは上機嫌に声を上げる。
鏡を見ると、確かに今まで見たことないような華やかな格好をしたわたしがそこにいた。
これは、一瞬見ただけなら誰だかわかんないかも...。
まぁ知り合いがいるわけでもないしいいかな。
でも...
頭にセドリックの顔が一瞬だけ過る。
セドリックにも気付かれないのはやだな...と、ふと思った。




