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 頑丈だけが取り柄の私、一週間もすれば通常の食事も食べられるようになりました。さすがは労働に染まった肉体です。しかし粗食に慣れていた身体、メニューにお肉が出てきたので遠慮しようとしたら、クラリスさんに


「あ~ん」


 とされてしまいました。全男子の夢がここに!!!そして口を閉じて抵抗する私に


「これ以上抵抗なさると魔王様にあ~んしていただきますよ」


 という最終手段で口を開けざるをえなくなりました。

 お肉。それはもう幼少期から食べることのなかった存在。お肉。それはビューティフォー。噛みしめるたびに肉汁が口いっぱいに広がって、何か分からないソースがとんでもなく美味しくて、信じられない、いまわたし、お肉を食べてる。そして気づけば涙がぼろぼろと流れていました。


「まあまあ」


 クラリスさんは優しく私の顔をハンカチで拭いてくれます。


「こんなにおいしいものを頂くなんて、私は本当は死んで天国にいるのでは?」

「安心してください、御存命ですよ」


 普通の食事として普通にお肉を食べるようになるのに更に一週間を要しました。最後のあたりはあ~んではなくちゃんと自分で口に運ぶことができるようになりました。


 そのため、わたしはクラリスさんに提案しました。


「少しずつ城の中を歩いてみたいです」


 あわよくば逃げ出したいです。

 こんなに恵まれた生活怖い。使用人扱いと暴力と粗食と過労がない世界が怖い。

 しかしそんな事はお見通しとばかりに、クラリスさんはしっかりと私と手を取って歩いて行きます。ばれてらあ。


 城は本当に広大で、私にはさっぱりわからないけどすごい美術品が山ほど飾ってあって、大階段、ふきぬけにシャンデリア、中庭、図書館、温泉まであった。細やかな飾りが落ち着いた雰囲気に調和しつつ驚異の職人技を見ている。ぜったいここ祖国の城より凄いわ…。

 掃除は基本的に魔法でやっているので常にぴかぴかなんだそうな。だから使用人も、クラリスさん、執事さん、眼鏡さん、あとはコックさんだけなんだって。そもそも魔王様が騒がしいのが嫌いらしい。じゃあやっぱり私いないほうが…。


「ロクサンヌ様?」


 ひえーこの城の人は心を読めるのか!?

 手をしっかりと握られながら城の中を案内されていると、どうやら遠くに人影が見える。


「ロドリグさん?」


 でよかったはずだ、この眼鏡の人は。

 相手はこちらに気づくと、


「もう具合はいいのか?」


 と言ってくれた。よかった、態度がだいぶ軟化してる。


「いやーもう少し完治にはかかりそうなんですが、出歩いてもいいと言われたので、クラリスさんについてもらっているんです」


 すると眼鏡さんはしきりに眼鏡を上げ下げしながら、


「…その」

「はい」

「悪かった」

「へ?」

「ここへ来た時のお前への態度だ!どうせできもしないことをと高をくくって…」

「あーそんなこと!」

「そ、そんなことって」

「気にしてませんよ。今はほら、弱り切ってますけれども、昔ならそんなの日常でしたし!」


 といったら逆に顔を青くさせてしまった。


「と、とにかく気にしないでください、私は出来ることをしただけなんで!」


 そう言って大急ぎで通りすがった。

 別に褒めてほしくてやったわけじゃない。あれは本物の偽善なのだ。だからこそいたたまれなかった。そんな私をクラリスさんはじっと見ていた。


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