表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/27

10

「お前にはしばらくここに滞在してもらう」

「はあ、ありがたい限りですが」


 10日断食爆走の旅の傷跡は深い。


「他に望むものはないか」

「望むもの…」


 食と住は満たしてもらった。ということは、あとは衣な訳だけど、さすがにずうずうしいよなあ。人間の服がほしいです、なんて。


「ちなみに服はそこのクローゼットに普段着からドレスまで20着ほど揃えてるから使え」

「え!?へ!?なんでですか!?」

「お前その服しか持ってないだろう」

「…………」

「クラリスが楽しげに選んでいたから気にするな」

「気にしますよぉ…」


 人間の都合で二千年も瘴気の中に閉じ込められてた亜人とそれを統べる魔王様のお城でお世話になってるだけでも肩身が狭いのに…。


「辺境の領主からの手紙は読んだ。理由の部分は意味が分からなかったが、死刑囚だったんだろう?」

「その反応すごく常識的で助かりますがはい、死刑囚でした」

「この後はどうするんだ」

「えっとですね。瘴気って、心の悪い部分なんですよ。誰かが憎い、誰かが嫌いっていうのが塊になって瘴気になって、そこから魔獣が出てくるんです」

「…」

「だから永遠になくなることはないんです。なので、また年単位で時間が経ったら、浄化して回ろうかと思います」

「それまではどうする。聖女といえどお前は人間だ。そこそこ腕に覚えはあるようだが、町に住む事になればすぐに打ち解けはしまい。敵意の中で暮らすことになる」

「…………」


 このひと頭よくてやだなあ…。考えたくないことを考えさせられる。


「それでも。しょうがないです」

「それで敵意を向けられながら瘴気を浄化していくのか」

「そのつもりです」


 魔王様はじっと私を見てくる。表情のない顔で。私はその目を見返すことができない。魔王国を浄化した時は、やりきったー!って思って何も考えずに済んだけど、改めて後のことを考えるとなあ…。常に警戒しながら生きていくのは中々しんどそうだ。


「祖国に帰りたいとは思わないのか」

「あ。それは全然、むしろ二度と関わりたくないですね。聖人を演じるのって心に来るんですよ」


 神様がどうして私を選んでくれたかは分からない。だけど、憧れの眼差しで見られるのがつらい時も、一人で泣きたいときも、神官が側にいたから出来なかった。だから心を凍らせて生きてきた。だから死刑でも何でも、ここにこられて縛られない生活があるならそれをしたい。


「家族は私のこと使用人みたいに扱って襤褸雑巾にしましたし、元婚約者はクズですし、後継の聖女はいますからあっちの国は大丈夫です。でもほんと、これからどうしよっかな…」


 人生ってわからないなあ。まさか魔王様に人生の愚痴を聞いてもらう日が来るなんて。


 魔王様は静かに私の言葉を聞いていた。情けなくへこんでいる私をじっと見ていた。そして、ふ、とほんの少し笑った。え、笑った?


「これは提案だが」

「はい」

「この城に住んだらどうだ」

「へ?」

「誰にも手出しできない。大義名分もある、浄化の恩人というな。あぁ瘴気の浄化には俺もついて行こう」

「へ?へ?なんで」

「俺が側にいることで誰も聖女に手は出せまい」

「そんなこと言ったって、迷惑しかかけないですよ。人間ですよ私、人間」

「知っているが」

「そんな…」

「それで、住むのか、住まないのか、どっちだ」

「住まな」

「住む、だな。よし、クラリスはお前専属の侍女とする」

「待って下さい今かぶせたでしょ!!」

「この部屋はそのままお前が使え。必要なものがあればジェルマンに言え」

「誰!?」

「執事だ」

「あぁあのめちゃくちゃ強いお方」

「では話は済んだな。俺は部屋に戻る」

「まってくださいまって」


 そのまま無情に扉は閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ