俺、決めます。
兵士の顔は一様に痩けていた。
目は虚ろで光が届いていないかのように。
しかし、俺がやってきたことで少し、ほんの少し心の余裕が出来たのだろう。
今話しかけた兵士はまだ自我を保てている方なのかも知れないな。
なんにせよ、ぽっと出のファントムブレイカーに過度な期待はしないでくれよ。
戦ったことの無い敵だ。何がどう転ぶか分からない試合展開で、まだまだルーキーの俺がどこまでビギナーズラックを発揮できるかは状況次第だ。
「これ、動力源をぶっ壊す以外に倒す方法ってのはないのか?」
期待薄だが、万が一にでもそんな方法があるなら試す価値はある。
「ない・・・です」
まあ、だろうとは思ってた。
にしても、なんでこんなの持ってきちゃったかな。
「そうか・・・。まあいい、やれるだけのことはやってみっか」
首をコキコキと鳴らし、腕を伸ばし肩を入れる。
準備運動のさなか、体が薄く光り、軽くなった感触がした。
きっとミルのバフがかかったのだろう。
俺は半身振り返り
「さんきゅ、ミル」
そう呟き、走り出した。
† † † †
近づけば近づくほど漂ってくる強敵感に内心恐怖を抱かざるを得ない。
近づくたび血腥くなっていき、辺りに大きな穴の開いた兵士が横たわっている。
この手の物が苦手な人間ならとうに吐いている事だろう。
俺はまだ生きている兵士をこうはさせないために、力ずくで斬りかかりに行く。
手始めに、自分の全力を注いでなぎ払う。
が、
「んなっ!?」
少し傷が付いただけで、簡単に攻撃を跳ね返されてしまう。
なんつう防御力してんだこいつ・・・。
続く次弾もいとも容易く跳ね返されてしまう。
厄介なことに、傷が付いたと思ってもどういう原理か、数秒で塞がってしまう。
はは、こりゃ無敵なわけだよ。
減らず口をたたく余裕すら無くなって行くであろうこの先の戦闘に、希望はほとんど無いだろうな。
ここで俺は、来た当初の兵士の顔が頭に浮かんでいた。
俺もああなるかも知れないな。
ガキン!ガキン!キン!
金属を無理に叩いているような音が響く。
”2.5秒後、右側からなぎ払い。足下が安全。クールタイムは7秒”
ユニークウエポンからの指示が来る。
戦闘開始、約5分。
進捗度、0パーセント。
くそ、駄目だ、全然歯が立たねえ。
攻戦一方にも関わらず、相手には一切のダメージが入っていない。
蓄積しようにもビームの警告が出、回避に専念している間に傷はすべて塞がっている。
ユニークウエポンでさえ火力に貢献できないものを、こんな町の兵士ごときで足止め出来るわけがない。
”速射レーザーの対象になっています。左右に揺さぶり錯乱させてください”
そんな事を考えている暇なんて無い、くそ、厄介すぎるだろこんちくしょう。
指示通り体を左右に揺さぶりレーザーを躱し、逸れでも避けきれないものは空中で回転し、体をひねり、地面に落ちる前に手で押し返しバク転。
「ふう、あぶねえ」
こんなもの食らったら確実に穴が開くな・・・。
ミルから貰ったバフのおかげでなんとか耐えれてるって感じだな。
そのバフも、時間的にそろそろ切れる頃だろう。
「ミル!そろそろバフかけ直してくれ!」
敵を意識しながら横目でミルを見やる。
と。
「ミル!」
ミルが地面に倒れていた。
まさかさっきの流れ弾がミルに・・・!
「Zzz・・・」
「って寝てんじゃねえよ!」
俺の心配を返せこの野郎。よくもまあこんなところで寝られるもんだな。
っても流石にミルのバフが無いと厳しいものがある。
「おい、そこのお前、頼みがあるんだが」
俺の戦いを遠目で見ながら呆けている兵士に呼びかける。
「・・・は、はい!?」
まさか呼ばれているのが自分だと思わなかったのだろう。反応までに少し時間がかかっていた。
「何ですか!シュウさんの頼み事なら何でもお受けしますよ!」
頼られた事がよっぽどうれしかったのだろう。顔色が良くなり、ハキハキと喋れる様になった。
そんな彼に
「・・・ミルを起こしに行ってください」
「・・・はい」
ミルを起こしに行って貰う。
顔色がまた逆戻りしてしまった。
・・・なんか、ごめん。
† † † †
その後、ミルは兵士に起こされ、そこからバフを貰い、ずっと殴り続けていたにも関わらず。
「はぁ、はぁ」
傷一つ付かなかった。
正直勝てる気がしない。俺が戦ってきた中で一番厄介なのは間違いない。
「くそ・・・ッチ」
攻撃しても攻撃しても、何らかの力ですぐに回復し、無傷となる。
今となっては戦っているものは俺一人で、周りの兵はただ見守っているだけだ。
しかし、皆表情が戻ってきている事はありがたい。
自画自賛じゃないが、俺が来てから死者怪我人は出ていない。それによって正気を取り戻しつつあるのだろう。
なら少しくらい戦ってくれよとは思うがな。この災厄を持ってきたのはお前らだろうに。
しかし亡くなった者も居る以上、あまり強くは咎められない。
俺だって人間だ。きっと長くは持たない。
だからといってここで俺がへばったらどうする。
この中で唯一町を守れるのが俺だけだとしたら、負けるわけにはいかない。
町の人間なんてどうでもいい。俺を馬鹿にした奴。貶した奴。ミルに触れた奴。下らん奴しかいない、救う価値なんてない町かも知れない。
「ミル、バフだ」
だから何だ。
悔しかった。寂しかった。辛かった。悲しかった。何度も世界を憎んで能力を恨んで、何度も死のうと思った。
外に出れば嘲笑う声が聞こえ、夜寝れば町の奴からの冷たい声が脳内を彷徨った。
味方の居ない世界で、弱い能力で生まれてきてしまった俺の居る場所は無かった。
「バフだ」
だから何だ。
ここで俺が死んでしまったらきっと町の奴らも全員死ぬ。それじゃ意味ない。
「バフ」
ここで俺が勝って、実力の証明ついでに恩を売っておくんだ。
「バフ」
そして笑ってやるんだ。お前らが弱い弱いと馬鹿にしてた男がお前らを救ったんだ、
「バフ!」
ざまあみろってな。
なら。
「ミル、もう一回バフだ!」
「シュウ・・・」
戦闘開始から早くも1時間が経とうとしていた。
こんな長い時間だ。無傷な訳が無い。
体全体が痛む。赤く腫れ、血も出て、大きな圧力が加わって青色に変色した場所もある。
休みなしに武器を振るった腕は、筋肉がちぎれているのだろう。中から痛み、腕が上がらない。
走り続けた足は、疲労によってがくがくと震え出す。
敵を睨み続けた目は真っ赤に充血し、魔に堕ちた悪魔のようだ。
そんな俺をミルは悲しい表情で見つめる。
「早く、早く掛けろミル」
「でも、シュウボロボロ・・・」
ずっと戦い続ける俺を見ていたたまれない気持ちになっているんだろう。
でも。
「いいから早くしろ!」
「い、いや」
「ミル!」
「いや!」
「・・・っ」
ミルが叫んだ。
悲鳴とも取れる声で。
それに俺は初めて戦う手を止めた。
「いや・・・。いやなの!誰かが傷ついて・・・、傷ついて、私の前から消えるのはもういやなの!」
過去、ミルが言っていたことがある。
『・・・お母さんはもういないけど、このシュシュがあるから平気なの」
と。
きっとそういうことなんだろう。
だから、もう傷つくのはいやなのだろう。
・・・なら、尚更。
俺は、ほんの少し口角を上げた。
「大丈夫、俺はいなくならない。消えたりしない。でも、そのためにはミルの力が必要なんだ」
だって。
「俺は今!消えないために!明日も笑えるように!」
「戦わないために今、俺は剣を抜く!」
俺はミルと過ごすあのまったりとした日常が好きだ。
その日常を脅かすもの、それは俺にとってすべて敵だ。
それを倒すためには強くならないといけなくて。
どんな困難も乗り越えなくちゃいけなくて。
でも、一人じゃ折れる時もある。
泣きわめいて辛くなって行き詰まることもある。
でも、二人でなら乗り越えていける壁もある。
二人の日常は、二人で守るものだと、俺は思う。
「だから、ミルの力を俺に貸してくれ。俺とミルとで、道を開こうぜ」
俺の優しく微笑んだその言葉を聞いたミルの瞳は輝いた。今までの辛い記憶や待ち受ける未来。その全てが一堂に会するように。
それからミルは俯いて。
「分かった・・・だから」
ミルは涙を一つ、もう一つと地に還しながら。
「勝ってね」
笑った。




