表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/47

俺、救われます。前編

今回の話は二つに分けて構成します。

-10話 俺、救われます。前編-


「ミル、ば、バフだ!」

「う、うんっ」


呑気に魚を釣って焼いて食べていたのが失敗だった。

ガルドグリズリーは魚を主食としている。特に、ここの川魚が好きで、王都から討伐隊が出向き、狩られて霧散したはずのガルドグリズリーはいつの間にかリスポーンし、人知れずまた魚を求めここにくるらしい。

そのタイミングが今だったのか。

魚を焼いた匂いでここに来たんだろう。くそ、どうする。

今の俺は確実に強くはなっている。しかし、相手は王都討伐隊が手こずるほどのバケモノだ。たとえミルのバフをうけたとしても、やられるのは時間の問題だろう。

3メートルを優に越えるその巨体は焦げ茶の毛皮を纏っており、剣も火も通さないと言われ、高級品として扱われている。

そして猛々しい爪。ギラリと日を反射し、所々血が乾いたような後がある。一体何人のファントムブレイカーを殺せばそんな色になるのか。


「ミル、コイツには勝てない。隙を見てトランジション・ストーンでメイフィストに転移するぞ」

「わ、わかった」

転移場所を指定するのには最低でも4秒はかかる。

今起動させたところでガルドグリズリーに首を撫でられるだろう。

こんな巨体で時速50キロほどもでるんだ。すぐさま距離をつめられるのは間違いない。

「ミル、俺はどうにかあいつを足止めする。だからその間に転移する準備を整えておいてくれ。最悪、お前一人でメイフィストに帰れ」

「い、いや」

「最悪の場合ってだけだ!早く準備しろ!」

もう、戦えなかったあの頃とは違う。武器を手に入れ、体力をつけ、仲間も出来た。

俺だってやれるってこと、思い知らせてやる。



「ガルルル・・・」

ミルを戦場から離れさせ、遠くで見守らせる。万が一ミルに襲いかかってもミルだけは助かるようにするためだ。我ながら中々に粋じゃないか。

「行くぞ」

一言、そう呟き、グリズリーへと駆け出す。

グリズリーもまた俺へと猛スピードで突進する。


戦闘開始だ。


手始めにタガーを二本、投げつける。が、全く刺さりもしない。

右肩と左腕に当たったタガーはそこで弾かれ、地面へと落ちる。

刺さらないだろうと予想はしていても、ここまでだと気後れしてしまう。

グリズリーは約8メートル先にいる。両者走っている為に1秒もせずに刃をあわせることになるだろう。


プランはこうだ。

まず、相手の周りを小賢しく動き回り、隙ができたところで目潰し。そして退散。

目潰しがうまくいかなくても、相手に多少なりともダメージを与えることが出来れば万々歳だ。


グリズリーは俺を引っかこうと右前足を伸ばす。

振り下ろされる寸前に左へとステップする。これでグリズリーの右側を取った。

チェーンソーを起動し、クールタイム中のグリズリーの右前足の付け根を刈る。が、刃が嘘のように通らない。くそ、堅すぎる!

ほんの少しだけ血が見えたが、致命傷にはならない。

何食わぬ顔でこちらを見やるグリズリー。そこには明確な殺意が見て取れる。やはり気圧される。

だが、ほんの少しでも傷を与えることが出来たのなら、それは勝算があると言うことだ。同じ場所をしつこく切りつければその内傷は深くなり、動き辛くなるはずだ。しかし、相手は速い。こんな攻撃が何回も通じるとは到底思えない。戦いながらにして、策を弄する必要がある。

じゃあ、こうするしかないじゃないか。


グリズリーは俺に向かって猪突猛進する。俺は、追いかけっこのようにグリズリーから逃げる。バフでスピードは上がっているが、グリズリーには後れをとる。

少しずつ、されど着実に近付いて来ているグリズリー。追いつかれるのももうすぐだろう。

俺の目の先には、大きな木がある。グリズリーは俺しか見えていないのだろう、大きな木の存在に気付いていない。


木を目の前に、グリズリーと俺の距離はほんの数十センチといった所まで迫っている。

グリズリーは大きく後ろ足で地面を蹴り、両手で俺をホールドするかのような体勢でとびかかる。


今だ。


俺は大きくジャンプし、木の幹を蹴り、バク転するように地面から5メートルほど飛び、グリズリーの背後をとる。

グリズリーは俺の姿を追っていたが、時すでに遅し。頭から巨木に突っ込んでいき、軽い脳震盪(のうしんとう)をおこしている。

よし、勝った!

日和っている間に60メートルほど先にいるミルへと駆け出す。

「ミル!転移の準備だ!」

「うんっ!」

遠方からミルの声が響いてくる。

この速さで行けばきっと間に合う!



「なっ・・・」

こんな時に神様はオレを見放すのか・・・?



ミルからもらったバフの効果が切れ、スピードが通常の速さに戻る。

足はさっきまでの速さを維持しているが、体と脳は追い付けない。そこで派手に転がってしまう。

「ガハッ!」

痛ってぇ!くそ、防御力が!

「シュウ!」

叫び、ミルがこちらへ駆けてくる。

「だ、だめだミル!来るな!」

こっちにはまだグリズリーが!

「ガルルル・・・!」

体勢を立て直したグリズリーが首をブンブンと振り、再びこちらへと猛進する。

「シュウ、シュウ!」

「飛べ・・・メイフィストに飛べ!」

このままではミルを巻き沿いにする可能性が高い。

「いや!シュウも行くの!」

どうにか立ち上がり、グリズリーを睨み付ける。

「俺は大丈夫だ、だから早く!」

「い、いや・・・」

いつまで悩んでんだミルは!早く転移してくれ!じゃないと・・・!

「早く、はや・・・だめだ!ミル、逃げろ!」

グリズリーは標的を俺からミルに変え、ミルへと猛突進する。

「いや・・・、いや!」

「くっそぉぉぉ!」

俺は残る体力を振り絞り、グリズリーへと駆ける。

ミルとグリズリーの距離は約20メートル、俺とミルの距離が10メートルといったところだ。ギリギリ間に合うか否かの距離だ。

俺は周りが見えなくなるほどグリズリーを注視し、チェーンソーをきつく握り締める。

距離にして俺とミルは5メートル、グリズリーとミルは8メートルほどだ。

「おらぁぁぁぁぁぁ!」

喉が張り裂けるほどに声を上げ、今あるだけの全てを注ぎ込み、地面を蹴飛ばし、グリズリーへと跳ぶ。


そして、グリズリーの右目をチェーンソーで刺す。

「ガァァァァ!」

目を刺されたグリズリーは体を大きく揺さぶり、そして。

「グハッ・・・!」

俺はグリズリーの巨大な右前足で吹き飛ばされる。

途轍もない激痛に見舞われ、意識が遠退くのが分かる。軽く(あばら)骨の数本は折れているだろう。

右目を潰されたことで怒り心頭のグリズリーは俺目掛け飛びかかる。

ここで俺は確実に死ぬ。しかし、ミルだけなら助かることは出来る。

俺とミルはまだ出会って日も浅い。が、確実に仲間だった。俺が出会ってきた奴で初めて仲間と呼べる存在だった。

「飛べ・・・ミル・・・」

声になっているかも不明だが、最期の声を上げ、俺は死を覚悟した。

「シュウーっ!」

ミルが俺を呼び、その声の遠い残響が虚しく俺の脳内を彷徨いた。






「『スピア・オブ・ゲイボルグ』!」



最後の声は一体何なのか・・・

シュウは無事なのか・・・


次回、どうなるのか。それは、作者のみぞ知る・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ