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観測者とエピローグ

五感が全てあべこべな誤情報をつかんだ。

そのせいか全てがあやふやで、中途半端に脳が処理をした結果吐き気までもよおすほどの酔いに襲われる。

けれど倒れたり吐いたりはない。

どれくらいの時間が経ったのかは分からないが、感覚が余計な情報に触れなくなったとき真っ白な世界が広がった。

この空間に何もないことは当然で、虚無による恐怖や圧迫、焦りは起こりえるはずがない。

何もないって言うと語弊があるか。オレが居るし、きっともうすぐ二人が姿を現すだろう。


「ああやっと来たね」

「本当だ。全く久しぶりだな」

相変わらずひらひらした金魚の妖精かと思うような紅と蒼の装飾。

地上から足を放しそれこそ遊泳するかのようにオレの周りを回り出す。

「あの子に任せて正解だった」

「全くだ。さすがは貴季君」

何だ、オレのことを褒めに来たわけじゃねえのか。つまんね。

「零君も頑張ったようだ。四門を開くに至った」

はははとヒヨミが豪快に笑う。

あ、顔に出てたかな。まあ、最初から褒めてくれたって良かったんだぜ。

「二つの門は今開く」

ツキヨミとヒヨミは袖口に隠れた手を伸ばす。

紅と蒼の石の果実をそれぞれ手のひらに転がした。

「この果実は今投げられる。その前に」

「もう少し話をしよう」

「確認は何度もとるべきだから」

呼応するように二人が言葉を紡ぐ。

また、前のように訳の分からないアウェーな空間が始まるのかと思うと少しうんざりした。


「零君の言葉も観測していた」

「この世界、設定を、君の枠をこれからも固定しようかどうか」

「私達で判断していた」

「けれど、君の言葉を観測してもう一度君の言葉をこの目で問いたかった」


「君に課せられた用は済んでいる。それでも、この場所に居続けるのか」

ツキヨミの問いで気付く。オレがこの世界に住み続ける必要などやはり無かった。この観測者には期待すらされてない。

この物語で門を開くというオレの仕事が終われば、オレ自体がまた無に還る事ができる。


でも。

それでも。

オレは他の世界に行っちゃいけない。一方的な約束だったけど、相手には笑い飛ばされるような話だったけど、守りたい事があるんだ。

けっして今必要じゃなくても、いつか頼ってくれるかも知れないなんて期待を抱きながら、オレはジジイの居場所になろうと思う。ジジイだけじゃない。流留華も翔真も貴季も。オレのあったかどうかすら怪しい居場所(設定)を支えてくれた皆に。

その為なら設定通り、……ああ。設定では兵士は辞めたらしいが何らかの方法見つけてテルヒノクニに拠点構えて何でもやってやる。

「オレの方にはこの世界に用があるんだよ。それに、他の用事引き受けたって良いだろ」

オレの役目、世界を救うっていう大層な役目は終わったんだ。

けどさ。

この世界は楽に上手くいくことばかりでもなさそうだが、こんなにも気持ちがいい。もう二度と他の世界になんか行くか。


「君の思いは聞き届けたよ」

投げられた宝石は放物線を描いて白の中に姿を消した。

「世界の再構築は終了する」

「観測の結果、判定する」

零君、君は―――




ちらちらと白いモノが舞う。

けれどその景色はいろんなものを含んでいた。

ヒョウガノクニはゆっくりとその有様を変化させていく。

気候も、風景もゆっくり変化する。

祭壇に沈み込んでいたはずの右手はすでに解放されていて、雪の降る空を呆然と見上げた。

舞い来る向きが少し斜めに傾いているのは、風が吹き始めたせいだろう。


「冬の門が開きましたね」

吐く息が白く染まりだしたのをお嬢様はうれしそうに報告する。

「ついででもないが、日と月の門も開けといた」

どういう事ですかと彼女の付き人は訝しげに詰め寄ってくる。

どうっていうことはないんだけどな。長身のおっさんに目をやると、彼は理解したかのようにゆっくり嬉しそうにまぶたを閉じた。

「さて、帰るか。門は開いてるだろうが、やっぱり確認しに行きてえし。流留華、翔真。ツクミノクニまで送ってやるよ。ジジイと貴季はテルヒノクニまで来るだろ?」

口のうるさいオレのお目付役は上機嫌なのか足取りが軽やかだった。


オレは矛盾を解消しはじめていた。

この話が始まる前、ムライムキと関わる前の記憶が生み出されている。それこそ、幼い頃の記憶から。

それは非常に奇妙な感覚だったが、おかしいと思う事自体がいずれあってはならない矛盾として解消されるだろう。


この活躍を思い出す度に合間合間に挟まった上の次元への苛立ちはきっとイタい空想とか黒歴史になったりするんじゃないかと少し恐怖を覚える。

オレはどうやら、ここで生まれ、ここで育ち、ここにいる、この世界の人間らしいからな。

けれど同時に、他の世界に行ったことあるなんてほざくくらい、珍妙な空想家でありつづけるかもしれん。

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