第9章 血の炎と星々の審判
K11の冷たく埃っぽい風が黒い岩の間を吹きすさぶ中、その場の空気は張りつめていた。まだひざまずいたまま体の痛むローラは、駆けつけた親友と息子の姿を見て目を見開いた。
「アリアナ……正気なの⁉」ローラは絶望的な声で叫んだ。「どうしてリーを連れてきたの⁉」
アリアナは後ろを振り返ることもなく、侵入者たちをじっと見据えた。黄色いエネルギーが電流のように彼女の両手を流れていた。
「あなたの息子には、あなたが思っている以上の可能性があるのよ、ローラ!」アリアナは力強く答えた。「彼はどうしたって来たに決まってる! あなたがここで身代わりになったって、この子の一生を傷つけるだけ。だって……もしあなたがいなくなったら、この子はこの組織でどう扱われると思う? 誰からも受け入れられないわ! そしたらいつか、次のアレスになってしまう……それがあなたの望むことじゃないでしょう!」
アリアナの言葉は、ローラの胸を鋭く刺した。八歳の小さな背中——赤いオーラを燃やし、怒りに震える息子の姿を見つめながら。
「それでも……相手は将軍が五人もいるのよ!」ローラは頬を涙が伝う中で言った。「私がアレスのもとへ行くわ……みんなのために!」
「だめだ!」リーが低く唸った。
少年の狼のような瞳が、血のような赤に輝いた。合図も待たず、リーは岩の地面を蹴って飛び出し、年齢に似つかわしくない速さでクリザード兵たちへと突進していった。
「リー、やめて!」ローラが叫んだ。
空中でリーは王家の血筋のエネルギーを集中させ、灼熱の火炎弾を放った。真っ赤な爆発が暗い峡谷を明るく照らし出した。
高みから、火の将軍は腕を組んでその一撃の威力に驚いていた。
「確かに並外れた才能だ……さすがは王の息子。アレスがここにいたら、あいつ鼻高々だろうな」
クリザード兵たちは即座に反撃した。雷の兵がプラズマの稲妻を連続で放ったが、アリアナが黄色いエネルギーの分厚い盾を張ってそれを防い、黄金の電撃を放ち返した。
雷の兵は容易にかわし、エネルギーの爪でアリアナのバリアを切り裂いた。そして彼女に向けて強大な電撃を放った——その直前、リーが飛び込んできて、赤いオーラに包まれた両手でその攻撃を掻き消した。
――――
K11の軌道上、艦の指揮室では、偵察用ドローンが地上の戦闘の一瞬一瞬をリアルタイムで映し出していた。
八歳の少年と二人の女性が命を懸けて戦う姿が、無言で見つめる数十人のエージェントたちのもとへ届いていた。アリアナの妹は幼いララを腕に抱き、赤ん坊がすすり泣く中、震える唇で画面を見つめていた。
ヴァロンは一歩前へ出て、拳を握りしめ歯軋りを立てた。
「父上、行かせてください! これ以上見ていられません!」
「やめろ、ヴァロン! 命じる!」ヴァンダーは冷ややかな声で言い放った。「彼らはローラも少年も殺しはしない。二人はアレスのものだ。傭兵たちはそれを知っている。この戦闘のためにXPの未来を危険にさらすわけにはいかない!」
――――
死の惑星の地表では、息子と親友が自分のために命を懸けている姿を見て、ローラの中で何かが変わった。罪悪感と恐怖が、尊厳の炎へと変わった。
彼女はゆっくりと立ち上がり、血を拭った。
「ごめんね……臆病者で」ローラの声ははっきりと響いた。「もう屈したりしない。一緒に戦うわ!」
ローラは黄色いオーラを最大限に高め、周囲の地面を震わせた。隣ではアリアナが笑みを浮かべ、自らの力も解き放った。
クリザード兵たちは嘲るように二人を見ていた。風の兵が一歩前へ出て、冷笑しながら言った。
「面白い……リムとララが空から見ているぞ。きっと二人とも泣いているだろうな! ハハハ! だがな……我らの神はもう別の方だ!」
風の兵は腕を組むと、圧縮された鋭い風の刃を数十枚も放った。リーが二人の前に飛び出し、爪でそれらを次々と切り払った。その隙に、ローラとアリアナは息子の上を飛び越え、巨大な黄色いエネルギーの手を出現させ、ハンマーのように敵たちへと振り下ろした。
四人の兵は地面に開いたクレーターをよけて後ろへ跳んだ。
土の兵は嬉しそうに大きく笑い、首を鳴らした。
「ハハハ! こりゃあ闘技場の俺の試合よりもずっと面白いわ!」
興奮しすぎた彼は力を込めすぎ、拳に岩石のエネルギーを集めて地面を強く殴りつけた。衝撃波がローラとアリアナを遠くへ弾き飛ばし、二人は岩の壁に叩きつけられて倒れ、息を詰まらせた。
――――
「お母さん!」
リーの叫び声が、K11の風を切り裂いた。
母と親友が岩肌に倒れる音を聞いた瞬間、少年の中で何かが壊れた。赤いオーラは膨張するだけでなく変質し、耐え難い熱気が彼の体から立ち昇り、腕には濃い毛が生え始めた——クリザード王家に伝わる狼の血、その真の姿が現れたのだ。
「お前を……絶対に殺す!」低く、獣のような声で少年は唸った。
土の兵が岩の盾を構える間もなく、リーは姿を消した。赤い閃光だけを残して一瞬で距離を詰め、灼熱の爪をその胸に突き通した。
傭兵の体は重々しく岩の上に倒れ、動かなくなった。
地面では、口の端の血を拭いながらローラとアリアナがゆっくりと起き上がった。八歳の息子の背中——血に濡れ、爪を構えて今にも襲いかからんとするその姿——を見たとき、ローラの時間は止まった。
幼いリーの姿が、かつて父親に爪を向けたあの日の記憶と重なった。アリアナの言葉が心の中で響いた。「もしあなたがいなくなったら、この子は次のアレスになる……それがあなたの望むこと?」
「いや……お願い、ララ神よ……違うわ」ローラは心の中で祈った。「この子を怪物にしないで」
体の痛みをこらえ、ローラはゆっくりと息子のもとへ歩み寄った。
水の兵が一歩前へ出て、皮肉っぽい笑みを浮かべながら言った。驚きが隠せない瞳で彼らを見ていた。
「面白い……ガキが本当に仲間を一人始末したとは。アレスが聞いたらさぞ喜ぶだろう。だが祝うのはまだ早い。このガキをしっかり躾けてやる! 闘技場であの土の馬鹿に大金を賭けてたんだ……死なれちゃあ損だ!」
水の兵がリーに襲いかかろうとした瞬間、火の将軍が光のように現れ、自らの腕でその一撃を受け止めてはね返した。
将軍は少し身をかがめ、リーの赤い瞳をまっすぐに見つめた。
「お前にはイリスよりも大きな可能性があるな」
ローラとアリアナは即座にリーの前に立ち、自らの体で彼を守った。
将軍は顔を上げ、ローラを穏やかに厳かな瞳で見つめた。
「やっとお会いできました、ローラ。アレスがいつも話してくれています。私は彼の幼馴染みです……彼が王になるのを支えてきた。兄弟同然の間柄です。そして甥であるリーがこれほどの力を持っていると知り、心から嬉しく思っています」
ローラはその視線を受け止め、疲れ切った声ながら疑問をぶつけた。
「どうしてアレスは私にこれほど執着するのですか⁉ 彼の覇道の計画を邪魔するものなど、何もないのに……」
将軍は荒廃した地平線を眺めながら、静かにため息をついた。
「アレスは本当にあなたを愛しているのです、ローラ。彼のあなたへの想いは本心です……他の妻たちへのものとはまったく違うものです」
ローラは凍りついた。アリアナも驚いて目を見開いた。
「他の……妻たち……?」ローラはつぶやいた。
「そうです」将軍は続けた。「あなたは唯一の妻ではなかった。宇宙支配の計画は、王になってから考えたものではない。幼い頃から、アレスはいつか自分を頂点に立たせ、偉大なるリムの伝説を超えるという野望を抱いていました。XPに潜入していた期間も、その布石は着実に打たれていたのです」
将軍は腕を組み、アレスが密かに築いた同盟の全貌を語り始めた。
「リーが生まれて間もなく——一歳になった頃——アレスはクリザードの各元素領域に、五人の妻を娶りました。いずれも密かに世継ぎを産ませています」
「火の妃ディナとの間には、イリス——リーより一つ年下——とソルが生まれました」
「水の妃ダナとの間にはアギュス」
「土の妃テランとの間には、双子のテルとテリサ、そしてテレイ」
「風の妃ヴァンダとの間にはヴィクトル」
「雷の妃ライアサとの間にはロコ」
――――
艦の指揮室は、しんと静まり返っていた。
将校たちはドローンの映像を見ながら顔を青くしていた。アレスの隠された血筋の全貌は、組織の予測をはるかに超える衝撃的な事実だった。
ヴァンダーは目を細め、深刻な表情でつぶやいた。
「彼は自分の血をクリザードの名門全てに散らしていたのか……」
「この男……」ドリアはホログラフィックマップの前で拳を握り締めながら言った。「アレスは我々が想像していた以上に危険で、周到な計画を進めている」
――――
K11の地表で、将軍はローラを真っ直ぐに見つめて言った。
「だからこそ、あなたには私と一緒に来てほしい。アレスにとって、あなただけが心から望む存在なのです。他の妻たちも子供たちも、彼の壮大なゲームの駒に過ぎない。だからこそ、私はあなたを迎えに来ました」
ローラは将軍を見つめ、次に身構えるアリアナを、そして徐々に意識を取り戻しつつあるリーを見た——自分の父親の恐るべき計画を聞かされながら。
ローラは一歩前へ進み、揺るぎない尊厳をもって言った。
「もし私がついて行けば、リーは決して受け入れられません。彼にはXPの血が流れているからです。私も他の妻たちに受け入れられることはないでしょう。彼らの子供たちはリーを憎むでしょう。私は自分の息子の人生を、呪われた王位争いの地獄にするつもりはありません」
彼女は残る三人のクリザード兵を瞳の炎で見据え、はっきりと言い放った。
「だから私は……自分の民を裏切り、この暴君に子供たちを渡すくらいなら、死を選びます!」




