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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第十一章 真相編
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第217話 洞窟と窒息

 しばらく絶景を堪能したらアドラさんに「ここまで辿り着いたのはいいんだけど、この先どう進めばいいかわかりますか?」と訊ねると「ここからはマムの力に頼ります」ということだった。彼女は目を閉じて集中し始めると、少ししてあちらの方角ですと来た道と反対方向を指さした。これが量子もつれの効果ってやつなのだろうか。


 アドラさんがガイドのおじさんに引き続き道案内をお願いするような感じのことを言うとおじさんは「カプ、カプ」と言って手の平を振っている。

 ヨハンソンに「カプって?」と訊ねると「禁忌とかタブーという意味ですね。彼らにとってはこの先は神聖な場所で踏み込んではいけないようです」と教えてくれた。

 地元民も来ないようなところに隠れてたんじゃ見つかるわけないなと思った。


 結局おじさんとの交渉は決裂し「付き合っていられない」というような一言を残しておじさんは下山してしまった。

 そりゃそうなんだろうけど、ここで諦めるわけにはいかない。


 アドラさんに「おれたちだけで行けそうですか?」と訊ねると「方角だけならわかりますが」と言葉を濁した。するとヨハンソンが「慎重に行けば辿り着けるでしょう。エルリカ嬢だって人間ですから。せっかくなのでここでお昼にしましょうか」と言って荷物の中からサンドイッチを出して渡してくれた。


 彼のサンドは昨日おれが作ったやっつけとは大違いですごく美味しかった。それこそ店が開けるぐらいに美味かった。おれの周りには料理上手の男性が集まる法則でもあるのだろうか。おれ自身は全然ダメダメだけれど。


 絶景ポイントで休憩を終えて、また霧が濃くなる前に移動を開始することにする。

 そもそも霧っていうのは雲の中に入っている状態なので、ブ厚い雲の中に入ってしまうとしばらく身動きができなくなるのは当然だし、対象がでかすぎておれの能力では太刀打ちできない。非常にやっかいな自然現象だ。


 アドラさんを先頭にゆっくりと崖下の岩場を登る。シダと苔に覆われた岩はこれまでの比じゃないぐらい滑りやすい。片手を岸壁に添えながら慎重に慎重に進む。

 しばらく進んでいくと岸壁にぽっかりと開いた洞窟のような裂け目のような場所に辿り着く。アドラさんが「この奥みたい」と言い、頭に付けたライトを点灯させて3人で洞窟の中に入る。中はひんやりとしていて奥に進むにつれ滝の音が消えていく。


 薄暗い洞窟は上り坂になっていて、足を滑らせないようにゆっくり進んでいくと今度は90度近く折れ曲がって下り坂になる。曲がった先に光が見え始め、光の方へ進んでいくとやがて出口に辿り着き、迫り出した崖の上のような平らな場所に出た。


 まるで現実のものではないような感じがしたが、植生などはこの山のもので、シダが生い茂り足元は苔が蒸した岩場だった。背後には通って来た岸壁があり、前方はぐるっと平らでその縁には霧がかかり広場の奥行きがはっきりとは把握できなかった。

 アドラさんに視線を向けると彼女は黙ったまま大きく頷いた。

 どうやら最終目的地はここらしい。いよいよエルリカとご対面になるのか。


 明るくはないけれど不気味な暗さはなく、ライトがなくても視界は確保できる。

 おれを護るようにアドラさんとヨハンソンが前に出てV字型になって進む。

 ひとまず広場の端を確認するために数メートル歩き始めたところで、右前方にいるヨハンソンのさらに右奥の霧の中から水飛沫のようなものが飛んできた。

 

 ヨハンソンの背中越しでなにが起きたのか見えなかったが左前にいたアドラさんがなにかに気付いて足早にヨハンソンの前に躍り出た。

 なにかヤバイことが起きているのが彼女の焦った表情から伝わる。

 ヨハンソンの右に回り彼を見ると首に水?が巻きついている。まるで透明なビニルロープようになり彼の首を締めあげていた。


 それが攻撃だということに気付くのが遅れた。ヨハンソンが水のロープに手を掛けているが水のくせに剥がれないみたいだ。アドラさんが水の筋を手刀で斬ろうとするも揺れて弾むだけで千切れないようだった。

 エルリカか!とようやく事態を飲み込み、おれもヨハンソンの傍に寄って水の筋に手を添えて直接解くとばしゃんと音を立てて水の筋は千切れた。


 ピンポイントで頸動脈を締め上げていたらしくおれの解除と共にヨハンソンも膝から崩れ落ちて気を失ってしまった。


 攻撃に殺意があったのかどうかわからなかった。でも殺す気があるのならもっと効果的な攻撃方法があるはずだ。その理屈は、アサガオさんの娘なんだから人殺しであって欲しくないという願望が含まれているのを自覚しているけれど。


 「アドラさん、近くに!」そう叫んで彼女と背中合わせになり、外周の霧の中の様子を探っている。飛び込み営業に行ったら物陰から熱湯掛けられたぐらいの痛みを伴う空振り感がある。おれたちは喧嘩をしに来たんじゃない。


「誰だか知らないが攻撃するのをやめてくれ!おれたちは話をしに来たんだ!」


 霧に向かってそう叫んでも返事はない。

 この局面をどうやって打開すればいいんだ。問答無用で拒絶されるだなんて。

 「アドラさん、これどうしたらいいんですかね」と後ろにいる彼女に訊ねるが返事がない。そのかわり、カハァカハァッっと妙な呼吸音が聞こえた。

 振り向くとアドラさんは真っ赤な顔で胸を押さえて必死に呼吸をしていた。


 首を絞められている様子はない。すぐにアドラさんは両手を前に出してじたばたし始めた。全然意味がわかんねえよ!なにがどうなってんだよ!

 とにかくこれもエルリカの仕業だと決めつけて、攻撃方法を考えてみる。

 ………だめだ全然わからん!とにかく早く対処しないとアドラさんもやられる。


 どうせ結ぶ素粒子でなにかやってんだろと思い、アドラさんの顔の前のあたりの空間にいるであろうそいつらに向けて解く素粒子を飛ばすイメージをする。

 すると彼女の顔より少し外側になにかの感触があった。空気が揺らいだような。

 次に反応があったあたりに顔を避けてドーナツ状になるように素粒子を飛ばすイメージをすると、今度はリング状に空間が揺らいだ。当たっているっぽい。


 息は吸えていたみたいだから、酸素だけを顔の前から動かしていたようだ。

 アドラさんは呼吸ができるようになったみたいで少し安心した。

 次に彼女の前に出て顔の周りを拭き掃除するように空気を散らすと、深く吸えるようになってみたいで徐々に呼吸が整い始めた。

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