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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第十一章 真相編
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第211話 弟妹と監視

 世界を股にかけテロリストと戦う二人が、外国の、田舎の、飲み屋のオンナのコの話に全力で耳を傾け過剰に反応している。そんな話に興味が湧くわけないだろう。

 なぜかといえば、離れて過ごしたおれの一年を大騒ぎするような、意味のあった時間だったと、端的に言えばその時間を肯定しようとしてくれているからだ。

 それに気付いて、もういろいろ溢れそうで限界だったが泣くにはまだ早い。

「こんなおれに優しくしてくれてありがとう」そう言うのが精一杯だった。


「あなたは私の命を救ってくれたじゃないですか。最初はHIVを消滅させ、二度目は銃撃を巻き戻した。そして望んでいた仕事に復帰もさせてくれた。これ以上あなたを慕う理由が必要ですか?」


 ヨハンソンが大真面目な顔でそう言うと、続けてアドラさんも言う。


「あなたは撃たれて死んだ私を生き返らせた。私にはあなたの腕の中で死んだ記憶があります。そして私の感情を呼び覚まし、私の信じる正義の道を歩ませてくれた。あなたに感謝と敬意と愛情を持つのは今の私には当然のことです」


 HIVの件は前から本人に言っているように作戦と指示がかよかったから、襲撃前にループできたのもたまたまだ。タラハシーの一件だってたまたま上手くいっただけ。

 二人に慕われるようなことはおれには…と、そこで不意に腹が立ち始める。

 いつからこんなに情けない人間になったんだ。感謝も受け取らず気持ち悪いほど遠慮して自己評価を下げて。こんな大事な夜に一体おれは何がしたいんだ?


「そうだな。おれは二人にとってそういう人間でいくちゃいけないな。寂しさをこじらせて危うく超ださいおじさんになるところだったけど、もう大丈夫だ。二人ともありがとう。飲み屋の黒服稼業もけっこう楽しかったよ」


「これは私の推測ですが、あなたの能力でワームホールを生み出すのでしょう?エルリカの作るような場所も行き先もわからないものじゃなくて、《《あなた》》の目の前に目的地がはっきりしたゲートを《《あなた》》が開くはず。だから期待していますよ、再会を」


 ヨハンソンは戻ることを期待するようなことを言っている。おれにはそれがどの程度難しいことなのかわからない。でも、向こうの世界に戻ったとして、この能力がそのままであれば、もう一度こっちの世界に戻って無事だと言いたい。

 アドラさんを見れば《《それ》》を心底信じている目をして微笑んでいる。


「そもそも向こうに戻れるのかもわからないから約束はできない。でも気持ちは伝えておくよ。おれは二人とまたこうして飯が食いたい。なんなら奥さんや息子たちにも会わせて、違う世界で会ったおれの家族だよって紹介したいよ」


 ヨハンソンもアドラさんも凄く優しい顔で、何度も頷いてくれた。


「ところで家族というのはあれですか?内縁の相手的なポジションと認識していいのですか?日本ではまだ同姓の婚姻は難しいようですし」


「ははは、おまえはきっと下郎のような養子だろうが、私は第二婦人として紹介されるだろうな」


「またすぐそういう…おれは二人のことを弟と妹だと思ってるよ。守られてばっかりの兄貴だけど、大事なところではどうにか役に立つから大目に見てよ。ははは」


 そう言って笑うと二人が両脇から飛びついてきた。アドラさんもヨハンソンも力強く抱きついてくるから肩が外れるかと思ったけれど、ようやく二人との関係性がはっきりして、それを口にしたら否定せず喜んでくれたことが本当に嬉しかった。


 寝る前にシャワーを浴びていると案の定「一緒に入りましょうお兄ちゃん」とヨハンソンが声を掛けてきた。「入らねえよ!」と追い返して事なきを得たのだが、すぐにアドラさんが「私も入っていいかなお兄ちゃん」と声を掛けてきて、少し悩んでからお断りをした。裸の彼女を目の前にしたら正気でいられない自信しかない。


 そんなこんなでハワイ初日の夜を過ごし、夜這いが来るんじゃないかとドキドキして寝付けなかったが、波の音を聞いているうちに眠ることができた。


―――――


 しっかり眠れて、目が覚めたときには10時近かった。

 寝室を出てリビングに降りて行くとヨハンソンの姿がなかった。

 ダイニングでパソコンを操作しているアドラさんに行方を尋ねると現地ガイドと打合せに行っているという。


「ミツ…、お兄ちゃん、尋ねたいことがあるのだけどいいですか?」


「ぷっ、わざわざ言い直さなくてもいいのに。聞きたいことって?」


 アドラさんはモニターをこちらに向けて、この別荘の監視映像と思わしき動画を見せてきた。別荘の前の道を女性が歩いてきて中をチラチラと覗き込んでいる。

 そんなに鮮明ではなかったが、その女性は飛行機で一緒だったイチカワさんだということがすぐにわかった。


「この人、知ってるよ。ホノルルの総領事秘書のイチカワさんだ。羽田からホノルルまで飛行機で座席が隣だった。どうして彼女が?」


「やっぱりミツr…、お兄ちゃんが目当てだったのですね。彼女はDCの日本大使館で面談したときに大使の隣にいましたね。で、今はホノルルの総領事秘書と…」


 だから言い直すのなにか意味あるの?ていうかおれが目当てってどういうこと?

 彼女とはホノルルで別れたわけだしどうやってここまで辿り着いたんだ?


「その映像、いつ撮影したやつなの?」


「1時間ほど前です。ヨハンソンが出掛けてすぐですね。きっと空き家になっていれば盗聴器でも仕掛けるつもりだったのでしょう」


「盗聴器!?どういうこと?彼女はどこかに雇われた諜報員ってこと?」


「外国に雇われたのではなく日本の諜報員でしょう。何が目的かわからないけれど」


 え、日本の諜報員?そんなのいるの?公安警察とかそういうこと?

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