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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第十章 継承編
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第192話 相談と上京

 11月の店は割と暇でゆるい感じの営業が続く。師匠とはまだ連絡がつかない。

 そんな中、痺れを切らしたタケちゃんに「いつになったら喫茶店に呼んでくれるんですか」と言われる。店のみんなを呼ぶとか適当なことを言ったのがいけなかった。

 とりあえず、翌日はタケちゃんのために店を開ける約束をした。


 送りから戻り車を置いたらタケちゃんに連絡をして喫茶店に向かう。

 タケちゃんは一人で来た。てっきりリョウ君と一緒に来るものだと思っていたらリョウ君は送りの後で用事があるらしくフラれてしまったそうだ。

 だいたい言いたいことは想像がつくがカウンターに座る彼に珈琲を出して「それで?」と水を向けると「シズカさんと結構いい感じになってきているのにご飯には行ってくれない」と案の定の悩みを打ち明けられる。


「どんな感じに誘ってるの?」と尋ねると「店終わりとか日曜の夜とか焼肉や寿司に誘っています」とのこと。これはもう断る理由がはっきりしているじゃないか。


「娘さん預けなきゃいけない時間に誘ってるからダメなんじゃないの?」


「なに言ってんすか、シズカさんの娘さん18歳ですよ?」


 「え?」そうなの?もっと全然小さい子なんだと思ってたよ…

 となると断り続ける理由は…?そもそもタケちゃんを男として見てないとか?

 タケちゃんほどシズカさんと話してないから彼女がどう考えているのかわからない。


 苦し紛れに「もしかして娘さんにいくんじゃないかって心配してるとか?」と訪ねると「ふっ、ないですよ。俺、若い子苦手ですもん」と鼻で笑われてしまった。

 「それはシズカさんに言ったの?お姉さんしか興味ないって」と訊いてみると「そんなことわざわざ言わないですよね、ふつう」と言うので「そこのアピールしといたら?嘘じゃないんだし、さっきの心配が真実だとしたら心配解消できるし」と、こんなぐらいがモテないおれからの精一杯のアドバイスだった。


 翌日からタケちゃんはわざとらしいぐらいお姉さん好きアピールを始めているがカスミさんは怪訝そうな顔をするだけで2人の仲が進展することはなかった。

 あー、うん、やっぱり相談相手間違えてたよね。ごめんね。


―――――


 ステージのある店の図面は昼間に粛々と進めているが、いまいち進まない。

 元々の店のレイアウトがあるからやっつけで進めれば今週中にも終わらせることができるけど、この仕事だけは爪痕を残したい欲というか、残さなきゃならない気がして描いて消してを繰り返している。

 正直カチっとハマらないのはレイアウトや仕上云々ではなく照明計画に拠るところが大きいことは承知している。パッと明るくなったりスッと暗くなったりしたい。

 いっそのこと舞台照明の業者に相談してゴリゴリにやったほうがいいのかも。


 そっちが行き詰ったので師匠に連絡をしてみるが相変わらず圏外で繋がらない。

 サクラさんに「まだ行けない」と電話するのも気が引けたのでメールを入れる。

 金庫の管理はぬかりない。毎日隠した場所のチェックはしている。


 そんな日々を送っていたところ11月の真ん中でようやく師匠に電話が繋がる。


「やっと繋がりましたね。2人とも無事ですか?」


「ええ、元気ですよ。どうしたんですか?何か緊急の用事でも?」


「そうですね、割と時間がないというか早く対処したほうがいい話で。前に言ってた記憶と感情の繋がりを触る話なのでアサガオさんに話を聞きたくて」


「なるほど、じゃあちょっと待っててくださいね」


 師匠はアサガオさんに声を掛けて電話を代わってくれた。


「記憶に触る話が具体化したんですって?詳しく話を聞いてあげたいけれどいま手が離せないのよね。その話ってもう誰かに相談したのかしら?」


「ハナザワさんに大まかなことを聞いたのと、その虚ろな彼女の面倒を見ているお医者さんが精神科と脳外科を掛け持ちしてる先生でおれのこと知ってたんで、能力を説明しておきました。ハナザワさんが言うにはリハビリが必要になるみたいなんで、先生には言っておいたほうがいいかなって」


「あら、じゃあもう私の出番はないじゃない」


「いや、能力の使い方っていうかイメージの仕方を聞かなきゃって思ってますけど」


「私の能力なら上書きして終わりだけど、あなたの能力は解除した後に通常の治療と同じことをするはずだから、その先生に脳のどこを触るのかよく相談しなさい。あとは、わからないと思ったら触らず見るだけにしなさいよ」


「わかりました。先生からよく話を聞きます。あ、そうだ。金庫取ってきて保管してますからね。こっちに来た時に渡しますね」


「ありがとう。遠慮せずに使ってくれていいんだからね。じゃあ、がんばって」


 ようやくアサガオさんから話が聞けたけど「先生とよく相談しろ」と言われただけだった。必ず私に相談しろと言っていたのは、誰にも頼らずに一人でやるなという意味だったのかもしれない。


 すぐにサクラさんに連絡をする。先生と相談する時間が必要だから土曜の夜か日曜の午前中に時間を取って欲しいと伝えた。少しして折り返しの連絡があり、日曜の午前中に相談をして方針が決まったら午後から解除を実行することになった。


 寝不足が心配だったが土曜は予約も入っていて仕事が休めそうになかったので店に出た。予約の団体客が延長、延長で居座り続けてくれたおかげで楽ができた。

 店が終わり送りに出る前にアオイさんに「もしかしたら用事が長引いて月曜に休みもらうかも」と言うと「一ケ月とかじゃなきゃいいですよ」と笑って許してくれた。

 いつもの4人を送り、部屋に戻りシャワーを浴びて東京に向けて出発する。

 

 夜中の高速、アドラさんと逃げていたのを思い出す。今日はおしっこし放題だ。

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