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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第十章 継承編
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第191話 老舗と親心

 フジサワ先生が脳科学の知識もあるとしたら、アサガオさんから説明を聞かなくても何をすればいいのか教えてくれる気がした。とはいえいますぐ虚ろな彼女の頭の中を触るにはイメージの構築が難しいだろう。専門用語はさっぱり理解できないし。

 きょうのところは能力を開示して先生に操作の宿題を出しておいて、後日アサガオさんから聞いたこととの答え合わせにするのがベストだと判断した。


「フジサワ先生は、この後の予定あるんですか?」と訊くと今日は予定はないとのこと。サクラさんにも同じ問いかけをすると、虚ろな彼女の面倒は年配の女性スタッフがみてくれる日だそうで特に用事はないという。

「よかったら3人で天麩羅食べに行きませんか?」と誘うと「ようやくですね!」とサクラさんは嬉しそうだ。先生は「いいですねえ。貴重なチーズケーキのお礼がしたかったので、僕に奢らせてください」と言う。あれは貰いものだけど…まあいいか。


 もう少し虚ろな彼女の様子を見てからでいいかと言われたので、事務室に使っているダイニングへ移動する。サクラさんが2人のスタッフにあのチーズケーキは元々はおれのものだったと言うとすごく感謝された。いやおれのものでもないのだけど…

 チーズケーキの話をされるとハナザワさんの顔が浮かんで胸がチクチクするので話題を変えて欲しいのだけど、3人はいつまでもその話をしていた。


 先生の診察が済んだようで、サクラさんと3人で小田急線に乗って新宿まで移動して駐車場まで歩き、2人を乗せておれの車で浅草まで移動する。

 移動中に先生が天麩羅屋に連絡をして席を確保してくれた。

 サクラさんのナビで浅草まで行き、オレンジ通りの駐車場へ車を停める。

 歩いてすぐに天麩羅屋に到着するのだけど、ちょっと奥まったところにある佇まいが完全に老舗というか料亭というか、おれのイメージする天麩羅屋じゃなかった。


「サクラさん、あのときここで昼飯を食おうとしてたってこと?容赦ねえなあ」


「浅草界隈で知ってるお店ってここしかなかったんですよ。仕方ないじゃないですか。忠告も聞かずに絶望してたし」


 無職にこんな高級そうな店で奢らせようだなんて酷いとか言いながら店に入る。

 先生が名前を告げると座敷に通される。文化財指定されそうな数寄屋作りの座敷で、そこから見える中庭に池があってでかい錦鯉がふよふよと泳いでいる。

 京都の湯豆腐屋もそうだったけど政治家が悪巧みするしかない感じがすごい。


 女中さんが飲み物の注文を聞きにくる。それぞれオーダーするとお食事は天丼か天茶かみたいなことを聞かれる。よくわからないまま「天茶で」とオーダー。

 女中さんが下がると先生から予約の時にコースで頼んでいおいたと聞かされる。


 飲み物が運ばれてきて乾杯を済ませたら、先生とサクラさんにおれの能力がどんなものなのか改めて説明した。途中で女中さんが食事を運んできてくれるタイミングで話を切りながら、医療的には癌細胞やHIVウイルスを除去した状況を説明すると、先生は大きく目を見開いて「ま、魔法じゃないですか…」と驚いていた。


 大変に上品な感じの天麩羅を食べながら話を続ける。


「そんなわけですけれど、これの使い方は自分じゃわからないのが実際のところなんですよ。なので、さっきの彼女の記憶と感情の回路をどうにかしようと思ったら、能力に詳しい人にイメージの仕方を教えてもらわないと危険だと思うんです」


「そうですね。僕が研究している分野でおおよそ脳内のどこにアクセスしてどんな結果を目指せばいいのかは説明できますが、それが視覚情報としてハナダさんにどう見えるかという部分については説明が難しいですね」


「なので、バックアップというわけではないのですが、京都のウチヤマ教授に相談してみてください。おそらく2人の頭脳があればなにか解ると思うので」


 きっといい方法が見つかると思いフジサワ先生にウチヤマ先生の連絡先を教えた。


 最後にお食事として天茶が運ばれてくる。

 ひつまぶしもそうだけど、天丼にお茶かけた奴、まじで天才だと思う。


 会計は本当に先生が払ってくれた。結構な額だったと思うけれど甘えることにした。 食った分は手付みたいなものだ。先生の役に立ってチャラにしてもらおう。


「サクラさんがあの人見つけて保護しようと思ったこと本当に尊敬してる。必ず何かの役に立つからもう少しだけ待っててください」


「ありがとうございます。こちらでも出来ることは続けていきますけど、期待して待ってますね。ハナダさんがどうにかしてきたことは知っているので」


「先生、サクラさんをよろしく。絶対ストレス溜めてるだろうからベロベロにならない程度に付き合ってあげてください。じゃあ、また連絡しますね」


 2人と店の前で別れて駐車場に向かう。

 先生の登場でアサガオさんさえ戻ってくれればどうにかなりそうな気がしている。

 それと、自分がしてきたこの能力の結果について、ウチヤマ先生やフジサワ先生の研究の役に立ちたいなと思い始めていることに気が付いた。


 首都高の乗り口がよくわからなかったので初台まで下で走って4号線に乗り、八王子から中央道を走って地元に戻る。

 高速を走りながら、それにしても虚ろな彼女、ボロボロだったなと思い出す。

 例え彼女が健康だったとしてもSNSでやいやい言われるような見た目には見えなかった。よくある「美人〇〇」というやつだろうか。そもそも美醜の判断は個人の主観だし。そういう連中にとって丁度いいストレスの捌け口にされたのかもしれない。


 そんでもって当時学生だった彼が自殺してしまったのも酷い話だ。

 確かに17歳は子供だ。学生で稼ぎもないし先生とデキたなんて言われたらびっくりするだろう。

 でも学校へ突撃してクレーム入れるか?息子も好奇の的にされるのに。

 18歳未満の学生は保護対象だからってその子も先生との関係が悪いものってことにされたけど、中卒で働いて子供作っても怒られない層がいるのだからおかしな話だ。


 まあ、どっかで線を引かないと本当の被害が防げないからそうしてんだろうけど。

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