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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第九章 浸透編
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第161話 近況と助言

 店の表の入口の向かいにある韓国料理屋だったが、裏から出るとぐるっとビルを2つ3つ回り込まなければならず、なんだか損した気分だった。外は寒いし。

 テーブル席よりあったかいよ、と店主に言われ座敷に座る。

 豆腐チゲとかチジミとか適当に注文して、飲み物が運ばれて来たら「おかえりハナちゃん」と言われて無事の帰国を祝して乾杯をした。


 「それでアメリカで何があったんだ?真っすぐ日本へ帰れなくなったってハナザワ室長から連絡があったけれど。あんた何をやらかしたんだ?」


「詳しくは事情を聞いてないんだな。えーと、ざっくり言うと向こうの組織に拘束されそうになって、車でアメリカを縦断してメキシコから帰ってきた」


「えっ… はあ?アメリカ縦断?メキシコ?ちゃんと詳しく説明してくれよ」


「ていうかさ、アメリカで起きたことってそれだけじゃねえんだ。ほんとにいろいろあってさ。この店って何時までなんだっけ?」


「確か3時ぐらいじゃなかったかしら。それでも終わらないほど長いの?」


「うーん。全部繋がってるから端折ると意味わかんなくなると思うんですよ。頭から話したら半日ぐらいかかると思いますよ。端折ってよければ話すけど」


 アメリカの話は明日の昼に下の喫茶店ですることになった。

 人に聞かれてもいい話じゃないし、明け方まで聞いていられるほど二人の体力はもう残っていなさそうだったから。


 その代わりに2人から店の状況について食べながら話を聞くことになった。

 お金のことで神経質になるような事があったのかと尋ねると、年末にビルのオーナーが店にやってきて6月の契約更新で家賃を上げると通告してきたそうだ。賃上げの理由は消防設備の老朽化による改修費などのようだ。

 家賃が倍額近くまで上がるため、そうですかと飲める額ではないのでママの知り合いの弁護士に相談したところ、相手はギリギリの線を突いてきているらしく増額分は不当とも言い切れないそうだ。調停若しくは裁判になれば減額も可能だが客商売なので揉め事にするのはおすすめしないとアドバイスされたらしい。


「こっちも大変だったんですね。倍額になると赤字になりそうなんですか?」


「ううん。赤字にはならないけれど、いい機会だから経費の見直しと無駄の洗い出しをしているわ。儲けはお給料に還元できるようにね」


 やべえ、またアヤママの男前発言が出た。おれも給料に還元とか言ってみたい。

 ということは時給は減らされずに済むみたいだった。


「あ、そういえば新人が入ったんですね。店長が引っ張って来たってシンちゃんが」


「カスミちゃんね。アオイちゃんが抜けたらやっぱり売上が落ちちゃったの。店長に誰かいないかしらって相談したら知り合いのツテで東京から呼んでくれたの」


 こんな田舎に東京から来たんだ。向こうの方がよっぽど稼げそうだけど。


「アオイさんのお店も大変みたいですね。持ち逃げされたとか。その余波でこいつが必死なのは見てて楽しいですけどね。あははは」


「笑いごとじゃねえんだよ本当に。明日からあんたにやらせてもいいんだぞ?」


「おれが付け回しやっても、おまえ外事室には戻んないんだろ?」


 貴様なぜそれを!という顔でクスメギがおれを見ている。

 面白いから、おれはなんでも知ってんだぞという涼しい顔を向けておいた。


「ハナザワ室長からなにか言われたのか?」


「ああ。ていうかおまえ外事室の中で、調査対象者とデキちゃって駆け落ちしたお花畑先輩になってるぞ。ぷーくすくす」


「なっ… 駆け落ちって…」


 駆け落ちと言われた二人が後ろめたいような顔を見せた。やらかして親に怒られるのを恐れる子供みたいな。これってちゃんと話し合ってないだけじゃね?

 昨日、ハナザワ室長から聞いた話を二人にした。クスメギに対する負い目、業務上の評価、嘱託職員という道があること、萎れていた二人の表情がみるみる明るくなる。もしかして話ってこれのことだったのかな。


「おまえちゃんとしてる奴だと思ってるけど、ママのことになると途端にポンコツだよな。大人なんだからちゃんと話しろよ。ハナザワ室長も心配してんだからさ」


「あんたに説教されるとはな。でも話を繋いでくれて感謝するよ。近いうちに東京に行って話し合ってくるよ」


「これはもうおれの勘でしかないけど、ママも一緒に行ったほうがいいですよ」


「えっ?私?」


「おれハナザワ室長って理詰めっぽくて苦手だったんですけど、アメリカでちゃんと話をして他人の気持ちがわかる人なんだと思ったんです。だから、ママの口からクスメギを傍に置いて欲しいって伝えたら一番いい形になると思います。ちょっと恥ずかしいかもしれないけれど、がんばって」


 ママが耳まで真っ赤になっている。否定しないってことはとっくにあれか。


「一応確認なんだけど、二人はもうあれなんだよね?その、内縁ってやつなんだよね?」


「いや、まだ一緒には暮らしてはない。俺は…そのうちにって思ってるけど...」


 奴がママを見てそう言うと見つめ合いながらママがもじもじ照れている。

 なんだこれ。なにを見せられてんの?そういうのは家に帰ってからやってくれ。

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