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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第七章 米国編
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第113話 地獄と動物

 本当に嫌だった。まじで逃げたかった。でも!おれは!逃げない!

 強い気持ちで臨んだ体力測定という名の地獄。無理だった。気力だけでは。

 腕立ては先週と同じ。懸垂は1回増えて5回。デッドリフトは1回。ボール投げはなんと4m!で、シャトルランは先週と同じ。終わった瞬間にぶっ倒れた。


 しかしこの日は昼飯を食べる気力があり、フードコートでサンドイッチを食べた。

 食べながらミシュラ軍曹から帰ったらすぐやる身体のケアについてレクチャーがあり、なんかクリームを貰った。サロメチールのようなものらしい。

 おれが「いてて」とか言うたびにヨハンソンがクスクス笑うので「来週はミシュラさんじゃなくておまえがやれよ」と嫌がらせのつもりで指名したが「カレモ、デキマス」とミシュラ軍曹から嫌がらせになっていない指摘を受けた。体力バカなのかこの二人。


 ホテルまでの車中でヨハンソンから「休日は暇でしょうから出掛けませんか」と誘われた。どこかに連れて行ってくれるらしい。明日から土日と2日休みなので日曜なら筋肉痛も治まっているだろうと思い「日曜ならいいよ」と返事をした。

 するとミシュラさんが英語で彼になにかを言って、彼も英語でなにか言っている。

 「まさかトレーニングとかじゃないよね」と恐る恐る尋ねると「あはは、違いますよ」と返事があった。なにか美味いものが食べられる店に行けるといいなと思った。


 部屋に戻ったらミシュラ軍曹の言いつけ通り、バスタブにぬるめの湯を張り手足を軽めにマッサージをした。血行が良くなって回復が早くなるそうだ。

 風呂上がりに貰ったクリームをひとまず脹脛から塗る。数秒後、焼けるような熱さを脹脛に感じ急いで水で洗い流した。クリームが合わなかったのか危ないところだった。洗い流してもまだヒリヒリする。


 パウラ先生のスペイン語講座が始まったとき、クリームのことがわかるかなと思い、塗ったときの感じを伝えてクリームの容器をカメラに向けて確認してもらった。

 パウラ先生は笑いながら「タブン、馬ノ薬デス」と教えてくれた。競走馬用の血流を良くするクリームらしく、人間用のものより数倍熱く感じるはずとのこと。

 月曜に会ったら首筋のあたりに塗ってやる!軍曹許すまじ!おれは復讐を誓った。


 スペイン語講座の方は疲れすぎていて途中で寝落ちしてしまった。

 パウラ先生の声が大変心地いいのが原因だと思う。


―――――


 土曜日はほとんど寝て過ごした。マッサージが効いたのか身体が慣れたのか、筋肉痛も先週ほど酷くはならなかった。明日は出掛けられそうだ。

 

 夜になりパウラ先生に昨夜の寝落ちの件を謝ると「疲レタノナラ、仕方ナイデス」とどこまでも甘やかされてしまう。その分集中してこの日はがんばった。少しだけゆっくり目に喋ってもらい、まあまあの長さの文章も聞き取れるようになってきた。

 とはいえまだ知らない単語も多いので油断は禁物だ。話す方は一応わかるレベルでは伝えられているらしい。ボルチモアにいる間にどこまでいけるか楽しみだ。


―――――


 日曜日の10時、ロビーにヨハンソンが迎えに来てくれた。

 「動物園と水族館のどっちがいいですか」と訊ねられ、水族館はホテルの目の前にあるしパウラさんと行こうと思っていたので「動物園がいい」と返事をした。

 車に乗り、1時間ぐらいのドライブになるのかと思いきや15分かそこらで駐車場に着く。やたら広い野天の駐車場でそこだけでも野球場ぐらいはありそうだった。

 歩いてゲートまで行くとヨハンソンがチケットを寄越してきた。金を払おうとすると「私が誘ったんですから私が払います」といつもの笑顔で言うので甘えた。


 入口からとりあえずペンギンを目指す。すぐのところにプレーリードッグがいた。思っていたよりも小さい。犬っていうよりもネズミっぽい。そのまま進むとフクロウがいるはずだったけれど見当たらなかった。

 ペンギンのところに着くといっぱいペンギンがいた。あとペリカンもいる。ペリカンのクチバシちょう長い。他にも黒い水鳥がいる。みんな動きが緩慢ですぐ飽きる。

 ヨハンソンの会話も緩慢どころじゃない程度に無口だ。重い話の予感がする。


 マップによるとこの先は体力的に地元の動物かアフリカの二択だったが、一番遠いところにオカピがいたので、迷わずアフリカ縦断オカピの旅に出る。

 フラミンゴを横目に眺め一旦キリンを目指す。少し進むとヒョウが岩の上からこっちを見ている。ああいう顔のおじさんいるよねって顔してる。サイは冬場は厩舎から出てこないらしい。キリンのエリアに着くとライオン側かゾウ側の二又に分かれるのだけど、冬場はゾウが見られないらしいので、冬でも見られるライオン側へ。

 ライオンいたけど寝てた。全くやる気なし。ヨハンソンもほとんど喋らない。


 やっとキリンとオカピが見られるジラフハウスに到着する。サーカスのテントみたいな円形の建物でキリンがいるだけあって天井めっちゃ高い。キリンは親子もいて、そこそこの頭数がうろうろしている。

 そしてお目当ての生オカピ。キメラ感半端ない。

 なにがどうしてあの模様であの形であの顔なんだ。あとベロが長すぎてこわい。

 オカピにサドル付けて通勤とかして職質で寄ってきたおまわりさんに「やれ!」と命令して顔をべろべろ舐め回させたらすごい楽しそうだなあとか妄想してた。


「誘った理由は訊かないんですか?それとも動物に夢中でどうでもいいですか?」


「言いたきゃ言えばいいし、言いたくないのなら言わなきゃいいよ」


 なんか話すことがあることぐらい中年なのでわかっているけど、芸能リポーターでもあるまいし、本人が言いたくないことまで聞きたくない。


 「じゃあ長くなりますが」と前置きしてようやくヨハンソンが話始める。

 車の中でミシュラさんとの関係を茶化した件だと言う。「馴れ馴れしいから説教する感じ?」と謝る気で尋ねると「そんなことで呼び出しませんよ」と笑っている。


 続けて話始めたのは日本に住んでいた頃の話だった。小学校の6年間を東京の私立の小学校へ通っていた彼は、5年生と6年生の頃にめちゃくちゃモテたそうだ。女の子からチヤホヤされるのは嬉しかったが好きな子はいなかったらしい。それよりも放課後に男の子たちと遊んでいるほうが楽しかったという。


 「なんなの?モテ自慢するために呼んだの?」と言うと「いえ、そうじゃないんですよ」とちょっと陰のある顔で彼は言った。

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