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13.オタクはすぐ早口になる

よろしくお願いします


「いらっしゃいませ、ジョセフィン様」


 ザ・ベルベットに入った3人。


 白みがかった金髪を綺麗に後ろに撫で付けて、一つ結びにした女性に迎え入れられた。


「こんばんは店長。今日もよろしくお願いします」


 店長と呼ばれた彼女は、目元に笑みを浮かべ3人を誘導する。その際、ルノアをチラッと見るが、笑顔を浮かべたまま何も聞かなかった。


 バーの奥、ステージを横から見るボックス席に着く。ステージとその席の間にも他の席が挟まり、常連やVIPの邪魔をしない配置だった。


 ルノアは席に着きながらも、さりげなく動線と逃走経路を確認する。


「じゃあ、ちょっとバンドメンバーたちと打ち合わせしてくるわね」


 そう言い残して、ジョセフィンはステージに向かった。


 セレナは席に残っている。


「セレナさんは付き添わないんですか?」


「ええ、ここからは彼女のテリトリーなので」


 スッと店長が音もなく横に立つ。


「セレナ様、お連れ様。何を飲まれますか?」


「あ、こちらジョセフィンのご友人のルノアさんです。ルノアさん、こちらはザ・ベルベットの店長。ずっとお世話になってるんです」


「よろしくお願いします。ルノア様」


「こちらこそよろしくお願いします」


 熟年の渋さと貫禄を兼ね備えた店長は、2人から注文を聞いた後カウンターに下がった。


 ステージでは、ジョセフィンとバンドメンバーが熱心に話し合っている。


 注意深くメンバーの動きを観察する。


「ルノアさんはコーヒーお好きなんですか?」


 コーヒーカクテルを頼んだからだろう、セレナがそう質問する。


「ええ、毎日のように飲んでます」


 ふ……と笑いながら答える。


 その間もジャズメンバーやカウンター内の店長、他のバーテンダーの動きを目の端で観察し続ける。


 開店まではもう少しありそうだ。


「ジョセフィンはいつからここで歌ってるんですか?」


「えーと、ここは少し売れてきてからですね。……流石にデビューしたての若手は歌わせてもらえなくて」


 最後のセリフは店長に気を使ったのだろう、少し声をひそめて言った。


「ということは2、3年前くらい?」


「そうですね」


「やはり売れたのは、ウィッチーズ・アンダー・ザ・ムーンをリリースしてからですか?」


 それを聞いてセレナは顔を輝かせた。


「はい!そうです!一般的にはザ・ワン・アンド・オンリーが挙げられるんですが火付け役としてはウィッチーズ・アンダー・ザ・ムーンの役割が大きかったんですでも売り上げとしては前者の方が大きいのでどうしても一般的には逆に捉えられてしまうんですよねルノアさんはその違いをはっきり分かってて流石ですごめんなさいご友人と聞いた時はちょっと態度悪かったですよねでもしっかりとファンとしてジョセフィンを見てくれているんですねちなみにルノアさんが1番好きな曲は何ですか?」


 はぁ、はぁ、と肩で息をしながらセレナが質問を投げてきた。

 

 メガネが少しずり落ちている。


 ルノアは目を白黒させてから、


「………………慟哭、かな」


 しばらくの沈黙の後に思わず本音を言った。


「ど、慟哭!渋いですね!売り上げも知名度も全くと言っていいほど無い隠れ名曲!くぅ〜!分かってますねぇ!どんなとこがお好きなんですか?」


 向かいに座ってたセレナは、席を移動してルノアの隣に密着するように座った。


「……そ、その、昔のことを思い出して切なくなるのに聴くのをやめられない所、かな」


 セレナの積極さに、言うつもり無かったことを次々と喋ってしまう。


 メガネの位置をなおすセレナ。


「……なるほど。流石に詳しいことは聞きませんが、そんな理由があるんですね。確かにあの曲は別離の悲しみを書いた曲ですもんね。私もついつい泣いてしまいます」


 少し落ち着いたのか口調を戻して言う。


 ちょうど話が途切れた時、店長が注文の品を持ってやって来た。


「店長、店長。ルノアさんもジョセフィンのファンなんです」


 声をひそめてセレナは伝える。


 皺を目元に作って、優しげな目でセレナを見返す。


「良かったですね」


「はい!」


「……はは」


 セレナの態度の変わりように当てられたルノアは、少し呆れて笑うしかなかった。

 

活動報告でも書きましたが非公開扱いにします。

続きは期待しないでください。

ここまで読んで頂きありがとうございました。


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