⑬教授の研究
⑬教授の研究
話の一部始終を聞いた教授は、顔色一つ変えずにこう言った。
「そうか。きみたちも選ばれし者か」
「きみたちもって、他にも誰か知っているんですか」
「そうね。私たち以外にも、奇妙な手紙をもらっている人がいるの」
「ああ。私が知っているだけでも、過去に8人いた」
「えっ。8人も」
「そう、8人。しかも、戒律メッセンジャーと術メッセンジャーは2人1組だ。つまり、きみたちで5組めということになる」
「これは驚いたな。でも、なぜ教授のまわりにだけそんな特殊な人が集まるのだろう」
「そうよね。不思議だわ」
「集まってくるんじゃないんだ。私が自ら近寄って行っているだけさ」
「自らって、どういうことですか」
「最初は、偶然だった…」
教授の話によると、ある日考古学の発掘調査をしていると、どこからともなく2人の少年少女が現れた。どこから来たのかもわからないという。聞けば、何でも戒律メッセンジャーと術メッセンジャーに選ばれたということだ。この時は、さほど気にもしなかった。夢でも見ていたのだろうと思っていた。その二人は、自分たちには向いていない。メッセンジャーなどなるつもりはないと言い、その場を立ち去った。
数日後、その少年少女が謎の事故死を遂げた。新聞によると、古代遺跡を見学中に巨石が崩れ落ち、二人を圧殺したと書かれていた。奇妙な偶然かと思った。その後、しばらくは何もなかったが、3年後のある日、教授は再び奇妙な二人組に出会うことになる。その子たちもメッセンジャーに任命されたと言っていた。不思議に思い、共通点を探しているうちにあることに気付いた。年代が同じなのである。1度めも2度めも、教授が発掘していたのは、1200年ほど前の地層のものだった。それ以来、教授は1200年前の文明に的を絞り研究を続けている。
「そんなことがあったんですか」
「それで、2組めの子たちはどうなったの」
「うーん。言いにくいが、謎の変死をとげている」
「そんな。何か気味が悪いな」
「そうね。でも、1200年前って何があったのかしら。教授には、見当がついているの」
「そう、1200年前。そのころ栄えていた文明は、マヤ文明」
「まさか、マヤ文明からのメッセージなんて言い出すんじゃないですよね」
「実は、そう考えている。おそらくは、マヤ文明の継承者に、きみたちは選ばれたんじゃないかな」
「そして、それを拒んだ者は」
「謎の死をとげているわけね」
「それからというもの、私は1200年前の地層を発掘し続けているんだ。マヤ文明の謎を解くためにね」
「なにかわかったんですか」
「ああ。その後さらに、2組の若者に出会った。やはり、メッセンジャーを任命されたと言っていた。しかし、皆本気で取り組まなかった」
「普通の人は、あまり興味を持たないかもしれないわね」
「気になるのは、メッセンジャー任命の年月が短くなってきていることだ」
「どういうことですか」
「1組めから2組めまでは3年かかっていたんだ。ところが、3組めまでは1年、4組めにいたっては半年だ。そして、きみたちに出会ったのは、それからわずか1ヶ月」
「教授の探し方がうまくなったのかな」
「いや。事はそんなに単純なことではなさそうだ。彼らはあせってきたんじゃないかな」
「あせるってことは、早く伝えなければならない理由でもあるのかしら」
「おそらく、そういうことだ。早く伝えて、早く行動を起こしてもらわないと、何か大変なことが起きるんじゃないかな」
「ところで、教授。3組め、4組めの人たちも死んじゃったの」
「いや。どうかな。3組めの子たちは、行方不明だし。4組めの子たちは、原因不明の病にかかり入院中ということだけど」
「いいです、いいです、教授。つまり、この役割を断ったり無視したりした人には災いが起こるってことですね」
「どうやら、そのようだ」
「おい、春菜」
「いいわよ、幸四郎」
「何だかしらないけど、なってやろうじゃないか。その、メッセンジャーとやらに」
このとき、春菜と幸四郎はメッセンジャーになることを決意した。