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file.33 魔王様トーーーク!!


「──それでは、魔王様の好きな物は甘いものである、と?」


「そうだねー、紅茶だって砂糖沢山いれるでしょ? お菓子だってクリームが沢山入ってる物の方が好きだね! ……って、言ってたよ?」


「なるほど、なるほど。確かに、砂糖の減りが多い事には気付いておりましたが、大変勉強になります! 今後は健康に気を遣いながら砂糖の量を増やしていこうと存じます!」


「うんうん」


 未来の奥方様の魔王様に対する知識は実に豊富で、普段あまり多くを語られる事の無いために謎に包まれていたダフティリーズ様の情報を、数多く知ることが出来ました。


「おお、そうでした! これもお聞きしておかなければなりませんでしたね」


「なになに?」


 先程掃除をしたお陰で、勝手知ったるダフティリーズ様の部屋でお茶を用意した私は、奥方様の給仕に徹しつつ、色々な魔王様情報を引き出していた。


 初めこそ、初対面の私を相手に緊張なさったご様子だった奥方様も、今では椅子に腰かけて背中を預けながらリラックスしているご様子。


 大変に麗しい容貌ですので高貴な方かとも思いましたが、話し言葉や所作からは、平凡さ滲み出ているので判断が出来ません。


 しかし、孤高にして高潔な魔王様には、こちらの方のような存在こそが一番の癒しになるのかもしれませんね。


 この私ですら、未来の奥方様との会話では何故か異様な程に心が落ち着いておりますので、何らかの分野に特化した才を持った方なのかもしれません。


 声の揺らぎでしょうか、独特な安心感を覚える方です。


「それで、奥方様は今現在。魔王様がどちらに向かわれたかはご存じでしょうか?」


「んんッ! んふっ……。んー、何処だった、かなあー? あ、あっちの方だったような、そんな気もするかなぁ……?」


 つい先程まで脱力しきって話されていた奥方様は、核心を付く私の質問に対応を豹変。


 弛緩して見えた全身が緊張で硬直して、目に見えて動揺し始めてしまいました。


 しかし、だからこそ、その態度の豹変を見た事で私の推理は確信へと変わりました。


「……ふふふ。やはり、そうでしたか。そう言う事でしたか。ありがとうございます、今の反応で全て理解いたしました」


「ななな、なにをだい?」


「隠されることなどありはしません。もちろん、私はわかっております……! 魔王様が今何をされているのか! 全てわかっております!」


「ひぃっ!! ごめんなさい!!」


 夫婦だけ隠し事があるのは当然の事。


 私に隠し事をしていたからと言って、謝るような事ではありません。


 だと言うのに、奥方様は机の上に額をこすり付けんばかりの勢いで、頭を下げて謝罪の言葉を飛ばされた。


「いえいえ! 謝罪などとんでもございません! 私の方こそ、結果的に秘密を暴いたような形になってしまい、申し訳ない気持ちで溢れております。ですが、初めから仰っていただければよかったのです。そうすればこのような事にはなっていなかったのですから」


「ご、ごめんね……。クイン」


「ですから、私を相手に謝罪など必要はありません。魔王様の事を正しく理解できていなかった私に原因があるのです!」


「ううん、違うの……。わ、私もね、頑張ろう頑張ろうって思ってたんだよ。でも、何やっても上手く行かなくて、いつも空回ってたって言うか……」


「貴女様が気になさるような事ではございませんとも。この秘密は誰にも口外するつもりはありません」


「……うん!」


「魔王様は今、単身で勇者の討伐に向かわれている。この事はこの場に居る我々だけの秘密としておきましょう!」


「うん。うーん……?」


 簡単な事でした。


 魔王様の所在を訪ねた瞬間、奥方様は目に見えて、明らかに、わかりやすいくらいに動揺されましたからね。


 となれば、考えられる理由は一つ。


 奥方様は魔王様の目的を知っていて、これを隠そうとしておられるのでしょう。


 しかし、そこに私の核心を付いた冴え渡る質問が飛んできてしまい、窮してしまったと。


 お優しい魔王様がお選びになられた方ですからね。


 未来の奥方様もまた優しく、嘘を付くことが上手ではないのでしょう。


「心配ございません! 勇者討伐作戦はまだ誰にも話してはおりません」


「ど、どうして、そう思ったの?」


「何、簡単な事でございます。魔王様の強すぎる力を制御する為の拘束具たる全身甲冑。それがぬいぐるみの山の中に隠されていた事に気が付きまして、その時に全てを察した次第でございます」


「へ、へえー?」


「常日頃から御自身の力を極限まで抑え込まれている魔王様が、全力で立ち向かう相手?『あ、勇者』だな、と! ふふふ……! この程度のことがわからぬようでは魔王様の秘書にはなれませんとも!」


「うーん……。あー、でも、ほ、他のことをやってるかも、とか考えたりしなかったの?」


「無いですね。まさか旅行に行っているはずもありませんし、遊びや買い物と言う可能性もありえません。それではただの無断欠勤になってしまいます。魔王様が取られる行動ではありませんからね。或いは体調を崩されておられるのかと危惧した瞬間もありましたが、部屋の中には脱ぎ捨てられていた甲冑がありました。ですので、勇者討伐で確定です」


「あ、確定しちゃうんだ」


 魔王様の行動が私に看破されたことがショックだったのか、見ると、血色のよかった奥方様の顔が少しだけ青ざめているような気がしました。


「そのような顔をなさらずとも、もちろん、誰にも話したりはしません。魔王様の極秘作戦が完了して、この星が魔王様の御力に耐える事が出来たその時! 魔王様が御帰還なさっその時には! 魔族領域全域に千頁越えの号外を配布して回ろうではありませんか! 執筆はお任せ下さい!」


 しかし、そうなると今らか筆を進めておくのもよいかもしれませんね。


「んー……。でも、やっぱり、勇者が倒せなかったとか、そう言うので戻って来ることだってありえるんじゃない?」


「有り得ませんね」


「そ、そっか。有り得ないんだ」


「魔王様の御力をもってすれば、既に勇者が死んでいてもおかしくないわけで、勇者を倒せないなどと言う選択肢は存在致しません。それでは何の為に仕事を休まれていたのか、わからないではありませんか」


 もしかすると、奥方様は魔王様がどれほど御強いのかご存知ないのかもしれませんね。


 知っていればそのような質問が出るはずがありません。


「いいでしょう! 次は私が魔王様について知っていることをお教えいたしましょう!」


 奥方様がブラペートの魔王様を独占されているように、仕事時間中は私が魔王様を独占しているのです。


 歴代の魔王様の話を含めて知っている魔王様情報を提供する事にしようではありませんか。

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