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file.20 人の世界は難しいものです


 スタヴロス冒険者ギルドとの取引の話は少しずつ進みました。


 エマに悟られる事だけはないようにと、慎重に慎重に。


 しかし、着実に取引は進み──。


「さて、いよいよエマの受け渡しの日になりましたが、準備はよろしいですね」


 スタヴロスに流れ着いた掃き溜め。


 人族から不要と弾かれた価値の無いゴミの集積所。


「ああ。問題ない」


 ゴミは集まれば結構面倒だったりする、でしたか。


「いけるぜええ!!」

「ちょっと教会だからってなめんじゃねぇぞ!」

「お、おお、おおおおおお!」


 スタヴロスは街の規模自体はそう悪いものではなく、右を向いても左を向いてもゴミしかいないどうしようもない場所ではありましたが、人口自体はそれなりにいる街。


 もちろん、誰も彼もが何の役にも立たない無能でしたので、人口だけあって何の生産性もない生活を送っていたせいで、流れ着いてくる端からバタバタと死んでいってしまうような街でもありました。


 そんな街に今、冒険者の声が響き渡った。


「心配せずとも私は取引を守ります。エマの安全は必ず確保致しますので、どうか存分に」


「ああ、エマさえ無事なら俺たちはもういい。それで十分だ」


「それはお任せください。聖導教会の戦力は把握しておりますが、聖導騎士団が何百何千何万人で向かってこようとも、私やエマには傷一つ付けられる事はないでしょう」


「ふっ。そうかよ」


 何が面白いのか、ロクアスさんは楽しそうに笑った。


「何か面白いことでも?」


「いんや……。ただ、冒険者ギルドのマスターやってんのに、そういや冒険するのは初めてだったかもなって思ってな」


「なるほど、良い冒険になる事を期待しております」


 数人単位に編成された冒険者が街の至る所で隠れるように待機して、初めて始まる冒険の時を待っていた。


「任せろってんだ! こう見えても昔は聖王騎士団の入団試験を受けた事だってあったからな!!」


「ロクアスさんが聖王騎士団の入団試験を?」


「ああ! 落ちたけどな! はははは!」


 その笑いが空元気から来るものである事くらいはわかっていましたが、それを指摘するほど私は空気の読めない男ではありませんでした。


 その後、三年間お世話になった掃き溜めの街スタヴロスをゆっくりと回りながら、お世話になった先輩冒険者の方々に挨拶をして回った所で──聖導教会の連中が姿を現しました。


「全く汚い街だ。……ほれ、さっさと女を寄越さんか」


 隠蔽魔術を施した私が上空から観察していると、今回やってきた聖導教会の一段の中かで一番偉いと思われる男が一人。


 聖導騎士団と呼ばれる雑兵どもをぞろぞろと引き連れながら、スタヴロスの街の真ん中にある噴水までやってきて、非常に横柄な態度でロクサスさんに命令している場面が目に入りました。


 聖導騎士団は神の教えを遍く人類に広める為の組織であり、神の敵である魔族に誅を下す為に日夜頑張ってくれている集団らしいです。素晴らしい心意気です。


 しかし、神の教えも何も、神々はこの世界に対して何の干渉していないと魔王様から聞いていたのです、どういう事なのだろうか。


 神に何かを教えて貰ったのであれば、出来る事なら我々魔族にも教えて欲しい。


 そう思った私が教会の教義を見ればさもありなん。


「黙れ! 神の名を騙る金の亡者どもめ!」


 そんなお偉いさんらしき男を相手に、ロクアスさんは剣を突き付けて大声で叫んでいた。


 なかなかどうして……。かっこいいじゃないですか、ロクアスさん。


 聖導教会の教えには何故かとお金が掛かります。


 神が等しく平等であり、この世全ての者の頂点に位置する世界の創造主だとして、なぜ金が必要になるのでしょうか。


 教会の運営費が掛かると言う話であれば、致し方ない側面もあるとは思います。


 しかし、であるとすれば、お金を払えば罪が赦されるという免罪符なる謎のシステムは一体なんなのでしょうか、と言う疑問も出て来ます。

 

 本当に神の教えを説いているのかどうか疑問しか残らない組織、それが聖導教会という謎の組織です。


 人族には広く知れ渡っているようなので、別にその信仰を捨てろとは言いません。


 ですが、それはたぶん、神の教えではなく聖導教会の教えなのではないか、と私は考えております。


 全ての創造主である神々が、お金を片手にもって『君金払いいいね! その罪許しまーーす!』と言ってる場面を、私にはどうにも想像できません。


 故に、聖導教会についてはどうしても懐疑的になってしまう。


 或いは私の想像力が欠如しているのかもしれないが、どのみち教会にとって魔族は滅ぼすべく悪とのことなのでどうあっても相容れない存在であることに変わりはありません。


「なッ!? ……キッ!  キサマァアア!」


 一瞬何を言われたのかわからなかったのか、お偉いさんらしき男は不思議そうな顔をしていたが、次の瞬間に激高。


「神の名の下に! この者どもに裁きを下せ!」


 どうやら神の許可も下りたようで、次の瞬間にはロクアスさんを始めとした冒険者へと騎士団を差し向けてしまいました。


 今回引き連れて来た聖導騎士団の数は凡そ400人。


 対して、スタヴロスの冒険者の数は優に1000人を超える。


 尤も、人数差があった所で、スタヴロスの冒険者に初めから勝機などあるわけがないのですけどね。


「全くもって、人族の社会とはややこしいものです」


 始まってしまった人族同士の殺し合いの様子を、私は上空からのんびりと眺めるだけ。


 騎士団の連中は人族が最近はまっている銃なる飛び道具を大量に生産しているようで、数の不利などものともしない聖導騎士団の銃撃の前に、冒険者の方々が次々に散っていった。


「──ねえ、そうは思いませんか、エマ」


 そして、上空に隠蔽魔術を施した私の隣では、声にならない叫びをあげているエマが居た。

お読みいただきありがとう御座います!

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