三
次の日から私は、警察の要請で初めて母の実家に預けられることになった。母は仕事を休めず、男の人に顔を見られている可能性がある私は狙われるかもしれないため一人に出来ないからだ。
母の実家はその土地の大地主だったようで広いお屋敷に私は事件が解決するまでお世話になっていたらしい。らしいと言うのは次の日から私は熱を出してしばらく寝込んでいたから。熱が下がって起き上がれるようになる頃はもうアパートに戻っていた。
その間、町は大騒ぎだったらしい。車が止まっていた場所から血痕が見付かったり、近くの山から男女の死体が発見されたり、血痕と男性の死体の血が一致したり。血痕が見付かった場所は地元民しか知らず、大規模な聞き取り捜査も行われた。数年ぶりの殺人事件に小さな町は騒然としていたらしい。
けれど、事件はあっけなくスピード解決した。壊れた祠の破片に付いていた血と傷が酷く膿んで診療所に来た男の人のDNAが一致し、そこから芋づる式に男の人たちが捕まった。男の人たちの中にこの町に暮らしていた人がいてあの場所を知っていたらしい。
アパートに戻るとまーくんちは空き室になっていた。あんな事件があったから、引っ越ししたみたいだった。
とても寂しくて悲しかったけど、私もすぐに引っ越すことになった。住んでいたアパートが老朽化で壊されることになったことと、母が職場で何かやらかしてこの町を出て行かなきゃいけなくなったらしい。
私は引っ越すまで毎日神社に行った。あの事件があってから神社では遊ぶことは禁止された。けど、まーくんに会えるような気がして神社に行って小さな祠のあった場所に行っていつも手を合わせていた。次はまーくんに会えますように、と。
その日は引っ越し屋さんが来ていて邪魔だと私は部屋から追い出されていた。
「さーちゃん」
会いたかった声がした。地面に棒で絵を描いていた私は、絵にかかった影の方に顔を上げた。逆光でまーくんの顔が見えなかった。
「さーちゃん、引っ越しするんだね」
私は首を傾げた。まーくんも引っ越したのに?
「今度はさーちゃんが隠れる番だよ。さーちゃんが『もういいよ』と言ったら僕がさーちゃんを探しに行くから」
「ほんとう?」
私は喜んだ。まーくんが探してくれるのはとっても嬉しかった。
「じゃあ、もう……」
「ダメだよ、さーちゃん。ちゃんと隠れてからじゃないと。隠れんぼにならないよ」
クスクス笑ってまーくんは私に最後まで言わせてくれなかった。
「じゃあ、見つからないように隠れるから。それでも見つかったら一緒にいてくれる?」
何故かこういうのが正解だと思った。見つけてほしいのに見つからないように隠れるっておかしい感じがしたけど。
「うん、だから僕に見つからないように上手に隠れてね」
逆行でまーくんの顔は見えない。けど、まーくんがとても嬉しそうに笑っているような気がした。
それから何回も引っ越した。母に恋人が出来て部屋から追い出されることも増えた。そんな時、いつもまーくんが来てくれた。何処に引っ越してもまーくんが来てくれた。
「さーちゃん、散歩しようか」
まーくんと一緒に手を繋いで色んな所を歩く。
「まーくんは私を見つけるのが上手だね」
「さーちゃんが隠れるのが下手なんだよ」
背が高くなり、ますます格好よくなったまーくん。テレビに出ている人たちよりカッコいいと思う。だから、まーくんと一緒にいると嬉しいけどなんか照れてしまう。
けど、まーくん、私と一緒にいていいの?
会う度にそう思うけど、会えなくなるのか嫌で口には出来なかった。
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