四
私か中三になった夏、母の父、私の祖父が亡くなった。その葬儀のために私はまーくんと初めてあった町に行った。
町は大きく変わっていた。私が住んでいたアパートは綺麗なマンションになっていた。
神社の森も小さくなり、周りに分譲住宅が建っていた。
母の実家には泊まらせてもらえず、隣町のホテルに宿泊することになった。ホテルはよく遊んだ神社の近くに建っていた。
「さーちゃん、お帰り」
祖父の死を悼むよりも遺産がどれだけ貰えるか悩んでいる母と一緒にいたくなくてホテルから出るとまーくんがいた。
「まーくん」
私は嬉しかった。こんな所でもまーくんに会えることが。
「今から何処に行くの?」
「神社に。それからあの祠に」
まーくんと並んで歩く。
そうと言って、まーくんが優しく手を繋いできた。指と指の間に相手の指を入れて繋ぐいわゆる恋人繋ぎの形で。嬉しいけどいいのかな、私として。
神社も変わっていた。建て直したみたいで綺麗になっていたけれど、コンクリート作りになっていたから冷たい感じがした。
二人で昔のように森の中を歩く。小さな祠もコンクリートになっていてただ置いてあるって感じになっていた。
「踏み潰されないけど……」
ぶはっとまーくんに笑われた。
「踏み潰すって、コンクリだよ。足が折れちゃうよ」
「だって、あの時」
まーくんはあーと声をあげた。
「あの時のあの男、どうなったか知ってる?」
面白そうに目を輝かせてまーくんが聞いてくる。私は首を横に振った。捕まった、としか聞いていない。
「傷のところから足が腐ってきて、切断しても止まらないらしいよ」
今は両足丸っと無くなったんじゃないかな。
「えっ? 薬は?」
「うーん、何を試しても効かないらしい」
そう楽しそうに話すまーくんは少し怖かった。けど、祠を壊したんだから当たり前だとも思った。掃除のおじいちゃんの言う通り罰が当たったんだと。
それよりも………。
「まーくん、なんであの時出て来なかったの?」
あの日、神社で遊んだメンバーにまーくんは入っていなかった。誰に聞いてもまーくんは来ていなくて私は一人だった、と。
「あっ! それは……」
まーくんはバツの悪そうな顔をして、ポリポリと頬っぺたを掻いていた。
「………、逃げるのにちょうどいいかな、と………」
大きくなってたぶんそうだと思った。あの古かったアパート、壁は薄く隣の部屋の音も筒抜けだった。
まーくんちから毎晩聞こえてきてた。男の人の怒鳴り声、女の人の泣く声、物が壊れる音、何かを叩く音、聞きたくないごめんなさいと謝るまーくんの声………。
「みんなにお願いしていなかったことにしたんだ」
「けど、私は………」
「さーちゃんを迎えに行こうとしたら、警察と掃除のおじいちゃんがいてさ、近づけなくて……」
困ったように言うまーくんは可愛いかった。困らせているのが私というのも嬉しかった。
「けどさー、あれから何回も会っているのに今頃それ聞く?」
そう言われて私はうっと息を飲む。確かにそうだけど、何故か聞きづらかった。それに本当は別のことを聞きたい。喉に刺さった小骨のようにずっとずっと聞きたいことがあった。けど、聞いたらまーくんと会えなくなる気がして、だから、だから、それは聞けなかった。
「……、だって、今、聞きたくなったんだもん」
私は口から出そうになった疑問を抑え込み、拗ねたようにまーくんから視線を逸らした。
「さーちゃんは本当に可愛いな」
まーくんの言葉にドキリとする。会った時からの延長で可愛いという意味だと分かっているけど、それでもドキドキして嬉しい。きっと顔は赤く染まってきてるだろう。まーくんが悪いのだから。
ポンポンと私の頭に手を置くまーくんがどんな表情をしていたのか私は知らない。
「そろそろホテルに戻ろうか」
まーくんに手を引かれて神社に戻る。ゆっくりゆっくり歩いて隣町のホテルに向かう。
今何処に住んでいるの? 何をしているの? どうしていつも私のいる場所が分かるの?
まーくんに聞きたいけど聞いたらいけない。この関係を壊したくなかったら……。
「まーくん、明日も会える?」
「……、明日は無理かな。けど、さーちゃんが大変な時には会いに行くよ」
まーくんは少し考えてそう言ってくれた。
「さーちゃん、まだ隠れんぼは続いているよ。だから上手に隠れるね」
ホテルの前についてまーくんは真面目な顔をして私にそう言った。まーくんの言う隠れんぼって何? それも聞きたいけど聞くのが怖かった。まーくんが消えてしまうような気がして。
「うん、上手に隠れるね。だから、一生懸命探してね」
まーくんは嬉しそうに笑って去って行った。
祖父の葬儀が終わり、母が待ちかねていた遺産の話になった。祖父の遺言状により、母にも私にも遺産が分与されることになった。母への遺産は全て賠償金に消えた。誰彼見境なく男性の相手をしていた母は色んな人たちから訴えられていたらしい。母の手元には数ヶ月分の生活費程度しか残らなかった。
私への遺産は高校・大学への進学費用だった。私の将来を危惧していた祖父が遺産として残してくれた。母が保護者として受け取りを主張したが、弁護士管理でないと相続出来ないことになっていた。高校進学が出来るか悩んでいた私にはとても有難い遺産だった。
けれどそのことで母との間に大きな溝が出来た。母は私が相続したお金をとても欲しがった。進学したことにしてお金だけ受けとるように私に迫ってきた。高校に行きたかった私はそれを無視したし、弁護士さんからも進学しなければ受け取れないお金でその都度必要な額を渡す契約になっていると説明を受けた。母はとても悔しそうにしていたのを覚えている。
私は高校入試のために塾に通えるようになり忙しくなった。塾が遅くなるとまーくんが待っていてくれる。まーくんがどこに住んでいるのか知らないけど、いつも家まで送ってくれた。その時間がとても好きで大切だった。
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