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まーくんと私  作者: はるあき/東西
14/15

十三

 九月になり学校が始まった。高田妹に何かされるかとビクビクしていたけど、彼女は夏休みの間に転校してしまっていた。

 私のことが噂になっているかと思えばそんなこともなく、友達も増えて毎日が楽しかった。


 結局あれからまた引っ越した。前のマンションもしっかりしていたけれど、もっとセキュリティが厳しいマンションに。自称父親おじさんやその家族が入れないように。学校にも弁護士さんのほうから自称の人から問い合わせがあっても言わないように連絡してもらってある。

 夏休みに会ったあの日、自称父親おじさんは管理人さんに父親だと言って鍵を開けてもらい、私の部屋に上がり込んでいだ。色々あって疲れ果てて帰ったら、物色された酷い状態に悲鳴を上げてしまった。おじさんが金目の物と遺産に関する物を部屋中探し回ったみたい。そんなことを知らない(もちろん知ってても)私は警察に通報し、弁護士さんにも連絡した。

 物置に閉じ込められた奥さんで大変だったおじさんは警察に呼び出され、不法侵入で一時捕まった。必死に父親として当然のことだと言い訳していたそうだけど……、下着の入った引き出しまで全部出して物色する? 新学期の準備用に取っておいたお金も無くなっていたし(これは否認、犯人分からずになっているけど…)。駆けつけた伯父の奥さんが下着は全部買い直してくれた。値段だけじゃなく体に合った物を使いなさいと怒られた。冷たい口調だけど色々してくれる伯父夫婦には頭が上がらない。あまり迷惑かけたくないんだけどなー、お荷物だから。

 弁護士さんに頼んでおじさんからの養育費はすぐに無しにしてもらった。もう一切関わりたくない。その旨も伝えて貰ったが、向こうは納得していないと弁護士さんから言われた。

 遺産のことも説明してもらった。おじさんの収入だと私を引き取っても十分に扶養出来るらしい(こちらが断り)。その場合は一切遺産が支払われないそうだ。おじさんはこれも納得せず、そんなことはない、遺産は当然の権利だと叫んでいるらしい。遺産は私の勉学のために私が貰うのであって、おじさんには関係ないと説明しても理解しようとしないと弁護士さんは溢していた。

 それから奥さんが物置に閉じ込められたのも私のせいだと騒いでいるそうだ。レスキューに助けられた奥さんは酷い脱水症状を起こしていて病院に緊急配送されたらしい。私の部屋の準備でそうなったのだから、入院も私のせいだそうだ。もちろん、おじさんたちはレスキューや警察に厳重注意された。その物置は人が住む用の物ではないと。その注意を受けたのも私のせいだと。呆れた弁護士さんからは彼らに絶対に関わらないように厳命された。私も二度と関わりたくない。


 母のいない生活はとても快適だった。真夜中に叩き起こされることもなく、ちょっとしたことで罵倒されることもない。食事も三食格安食パン一枚から、大いに改善された。弁当を作るのは面倒だけど、食パン一枚を知られたくなくて一人コソコソお昼を食べることも無くなった。


 毎日が充実していた。学校の課題も増え、母の世話が無くなったのに時間なんていつもあっという間に過ぎていた。だから、まーくんが会いに来てくれなくなったことに私は気付いていなかった。


 その日は突然やって来た。時々雪が舞う冬の頃、私は友達と約束した場所に急いでいた。人にとっては平凡な私にとっては幸せな日々に受かれていたのかもしれない。


「早千愛さん」


 聞いていたお店のドアを開けて真っ正面にいたのは、高田姉だった。

 すぐにお店を出ようとした。ドアは体格のよい男の人たちに塞がれていた。


「久しぶり、それとも、初めまして、かしら?」


 がしりと両腕を掴まれて、無理やり高田姉の前に連れていかれる。

 高田姉は妖艶に微笑んでいるけど、目は剣呑な光を宿し私を睨んでいる。


「ねぇ、″彼″を呼び出してもらえないかしら」


 肩を押さえられ、高田姉の前に跪かされる。

 怖い!

 けど、彼って…、もしかして、まーくんのこと?


「あれから、″彼″のこと調べたの、徹底的に。けど、何一つ出てこなかったわ」


 私は首を横に振った。

 まーくんの連絡先を私は知らない。知りたかったけど聞けなかった。まーくんはスマホの使い方を知っていたけど、ガラケーさえも持っていないと言っていたし。

 名前もまーくんとだけしか知らない。たぶん、初めてあった時に教えてもらったけど、それからずっとまーくんとしか呼んでいないから覚えていない。一緒に遊んでいた子もみんなまーくんとしか呼んでいなかった。だから、まーくんが何故まーくんと呼ばれているのかもしらない。名字なのか名前なのかさえも。


「早くしなさい。彼ほど綺麗な人は私の側にいるべきなのよ。あなたのような価値のない者よりも」


 まーくんが綺麗だということは同意出来るけど、後は出来ない。それに絶対に嫌。この人の隣にまーくんは合わないし、何より一緒にいるところを見たくない。


「スマホ、ロック解除したぜ」


 男の人にスマホを取られ、無理やり指紋認証させられた。私のスマホを覗き込んでいる人たちの中に同じクラスの子を見つけた。脅されたのかもしれないけど、彼女が私を売ったんだ。


「登録、すくねぇ」

「ちがう。それ、クラスの子。その子も」


 高校関係と伯父夫婦、弁護士さん、マンションの管理会社しかスマホには登録されていない。他の知り合いなんていない。


「無さそうだぜ」


 私のスマホは知らない人たちから高田姉に渡される。


「ふーん、可哀想な子ねぇ、教えてもらえてないのね」


 憐れむような言葉を言っているけど、欲しい情報が無かったことにイライラしているのが目に見えて分かった。


「無駄だわ」


 私のスマホを高田姉はゴミのように床に落として、針のように細いヒールで踏みつけた。私は真っ青になった。そのスマホの使い方を覚えるのにどれだけかかったと思うと。肩を押さえられて動けない体を揺すってしまう。


「………、たぁぷり遊んであげて」


 グリグリとスマホからヒールを抜き取ると高田姉は私を憎々しく睨んでそう言った。


「やっとお楽しみタイムかー」


 私の肩を押さえていた男の人が嬉しそうに喉を鳴らした。その音に肌か粟立ってしまう。

 怖い、それより気持ち悪い。触らないでと体を捩って暴れるけど、男の人の力には敵わない。


「な、なんで、私まで!」


 私を売った同じクラスの子が違う男の人に腕を掴まれていた。


「ご褒美だよ。たっぷり可愛がってやるから」

「そんな、わたし、そんなつもりじゃ……」


 助けを求めて彼女は視線を彷徨わせていた。私と視線が合うとハッとした顔になり何故か睨まれた。私が睨みたいのに。


「さーちゃん」


 空耳? まーくんの声が聞こえたような気がした。

 いつもいつも何かあるとまーくんは助けてくれたから。


「帰ろう、さーちゃん」


 私の目の前にスッと手が差し出された。

お読みいただき、ありがとうございます

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