表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/17

chase ③

 デミウルゴス人の急襲から逃げるヌアサと健吾。本隊に救援を要請するも断られてしまう。本隊も交戦中なのだった……。

眼下の街明かりがあっという間に通り過ぎていく。アールマティの壁面だけでなく床までが透明化しているので、街灯や窓の明かりが細長く伸びて見える。一体どれだけの速度が出ているのだろう。

 だが、そんな考えに耽る余裕はなかった。猛追してくるヒューリコイからの砲撃で、周囲の光景が歪んで見えるのだ。にもかかわらず、健吾には僅かながら心理的余裕があった。バリヤーを展開しているからなのか、それとも見えないながらも外壁があるからなのか、音がしないせいで現実感を薄めてしまっていた。加速や急旋回のGを感じないのも、非現実的に感じさせる一因だった。

 ヌアサは『慣性制御システム』の働きだと説明した。ふとした疑問を呟いただけだったのだが、こまめに答えてくれるところがヌアサらしい。


「おい、説明してくれるのはいいが、操縦はしっかりと頼むぞ!」

「分かってる! それと、これから本隊と連絡を取るわ! 健吾君には分からない言葉になるけど、少し静かにしてて!」

「了解!」


 正面パネルに小さなウインドウが現れ、ヌアサが聞いた事もない言葉――いや、音声と言った方がしっくりくる――で話し始めた。すぐに同様の言葉で返事があり、テキパキとやり取りが始まる。その間もデミウルゴス人からの攻撃は続き、小さなアールマティは上下左右に回避運動を繰り返していた。

 時間にして2~3分だろうか、通信が終わったらしくヌアサが大きな溜息を吐いた。


「ちょっと困った事になったわね」

「今もしっかり困ってるぞ!」


 尤もな事を健吾が言う。


「本隊も攻撃を受けている最中らしいのよ」

「なん……!?」


 言葉を失う健吾。武装しているのは唯一、本隊の中枢母艦だけだ。そこが攻撃を受けているのでは、救援も望めないのではないのか? 疑問をぶつけるとヌアサはあっさりと肯定した。


「そう、救援部隊を出してもすぐに撃墜されるでしょうね」

「いや落ち着いてる場合じゃねぇだろ! このままじゃ俺達……」

「いえ、まず落ち着く事が大切よ。冷静に対処しないと本当に死ぬ事になるわ」


 ぴしゃりと言われて健吾は口を閉じた。確かに今パニックになっては危険が増すだけだろう。それに自分の命運は彼女に託すしかないのだ。ヌアサの負担を増やすわけにはいかなかった。

 

「……分かった。で、対策は?」

「よく聞いて。ハルワタートは応戦している最中だけど、遠からず敵を撃退できる。今襲撃に来ているのはヒューリコイの一群だけらしいの」

「後ろのコイツか。当然他の戦力だってあるんだろう?」


 もちろんデミウルゴス人には大型の攻撃艦もあるし、一撃離脱用の高速艇や兵装の塊のような移動要塞まである。だがそれらを使わず個人用兵装だけでの襲撃なのは、恐らく『あくまで個人の暴走』として取り繕う為なのではないか。そうすれば一応の言いわけは出来る。全面戦争にまで発展すれば大した意味はあるまいが、彼らも馬鹿ではない。布石だけは打っておこうというのではないか――背後からの砲撃をかわしながらヌアサそうが答えた。


「ナントカに刃物ってやつか!」

「そういう事!」


 納得はしたものの、危険度が上がっただけのような気もする。


「で、どうするんだ!」

「ハルワタートが敵を蹴散らしたら救援を出してくれる! だから一秒でも早く合流できる所へ行くわよ!」

「何処だよ!」

「月よ!」


 月? 行く? 健吾は耳を疑った。


「さぁ行くわよ!」

「ちょ……マジ!?」

「大丈夫! アールマティでも全開なら十分ぐらいで行けるから!」

「いや、そういう問題じゃ……」


 ヌアサは機首を持ち上げ、一気に加速した。視界から地上の明かりが消え去り、天上の星と入れ替わる。あっという間に雲を眼下に追いやり大気圏を突き抜けると、そこはもう宇宙空間だった。

 自分を支える物が何もないという事が、これほど不安で頼りないとは健吾には想像も出来なかった。足下がふわふわと虚空に浮かんでいる感覚。いや実際に浮かんでいるのだ、アールマティは。船内は人工重力で一応安定しているが、それでも心細さはどうしようもなかった。ましてや後ろから攻撃され続けているのだ。


「なぁ……大丈夫だよな?」

「大丈夫よ! 撃墜されない限りね!」


 すっかり弱気になった健吾には、冗談なのか本気なのか判断がつかなかった。だが極普通の高校生がこんな事に巻き込まれては、普段通りでいられる方がおかしいと言うものだ。

 間断なくヒューリコイからの砲撃が降り注ぐ。その砲撃も、徐々に精度を上げて来ており、幾度もバリアーを掠めていた。その時に現れる虹色の波紋は、ほんの数瞬とはいえ命の危険を忘れさせる程の美しさだ。だが健吾はこの頃から、背後に迫るデミウルゴス人が放つ「悪意」が「害意」に変質しているのを、はっきりと感じ取っていた。刺々しい針のような感覚が、ドリルのように抉り込んでくる感覚に変わっていたのだ。

 高校生同士の喧嘩で浴びるような害意とは桁違いの感覚。普通なら何もかも放り出して逃げるか、うずくまるしかないレベルだった。しかし健吾が自暴自棄にならずにいられたのはヌアサの存在があったからだ。自分達とは別次元ともいえる科学力を持ち、数百年を生きてきた美少女。彼女ならきっと何とかしてくれる――そんな期待を抱いていた。

 そしてもう一つ。目の前で刻一刻と大きさを増す月。普通に暮らしていればあり得ない神秘的な光景が、健吾の精神バランスを保っていたのだった。



長くなってきたので、ここでUP。

 

6/25修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ