last competition④
予想していたとはいえ、残念な結果に終わった健吾は、自身の人間としての未熟さも痛感してしまう。
しかし、父との語らいの中で次第に自分を取り戻していくのだった。
目を覚ますと、もう夕刻だった。いつの間にか家族も揃っており、健吾が一番好きな鶏のから揚げがテーブルの中央で山盛りになっていた。早速夕食の中で結果を報告する。
「そうか、いいとこまで行ったのに残念だったな……悔いは無いか?」
「ああ、やれるだけの事はやったしな」
「ならいい、胸を張っていろ」
父の健介が頷きながら語る。
「最初は、お前がそこまで行くなんて想像もしなかったなぁ」
「なんだよ、息子に期待しなかったってのかよ?」
「……今だから明かすがな、健吾は気管支喘息があったんだ。インターハイなんか夢にも思わんだろう、そりゃな」
「はぁ!?」
健吾と弟の健治が目を丸くして驚く。
「隠すつもりは……あった。なぁ母さん」
「そうねぇ、隠しておこうって」
夫婦で頷き合っている。
「いやいや、自分の事なんだからよ! 教えておくべきだろう!」
さすがにこれは平静ではいられない。しかし、健介は茶碗と箸を置いてゆっくりと語り始めた。
「まぁ聞け。そうだな……まず小さい頃の自分を思い出してみろ。お前は外で遊ぶ事も稀だったはずだ」
「……確かに」
「喘息のせいで近所の子と駆けっこさえまともに出来なかった。そこへ持ってきて、病気を意識させ過ぎてもいけない。ならいっその事、知らせないでおこうと結論したんだ」
「そうだったのか……」
何故か弟の健治が納得しているが、健吾はそれどころではなかった。
「じゃぁ、なんで親父は陸上部に入るよう勧めたんだ? そう、中学に入った時だ。俺は美術部に入ろうと思ってたのに」
息子の当然ともいえる疑問に健介が答える。
「気管支喘息は大きくなったら治る事もあると聞くが、お前はその兆候がなかった。とは言うものの、少しでも体を強くしておく方がいいのは間違いない。じゃぁ走るだけでも……と言うわけだ。その判断は間違っていたか?」
「……いや、正解だと思う。今の自分で良かったと思う」
健吾は思う。体が強くなった事で自分に自信がついたのは事実だ。くるみと言う彼女が出来たのもそのお陰だろう。性格も明るくなり、友人も増えた。これはきっと一生の財産になるはずだ。――そして異星人ヌアサにも臆する事無く接する事が出来ている。美術部に入っていたら、きっとこうはいかなかった事だろう。
「ならいいじゃないか。生れついてのハンデを克服して、インターハイ予選でいい所までいった。この実績と経験はお前の将来を変える事になるだろう。この先、少々の困難ではへこたれる事もあるまい。それだけでも十分だ」
父の言葉に頷いて一気に食事を平らげると
「後でひとっ走り行って来る」
と席を立つ。そこへ
「はぁ? もう部活は引退なんだろ? なんでまだ練習するんだよ」
健治が当然とも言える疑問をぶつけた。
「練習じゃねぇよ。なんつーか……日課だな」
さらっと言い残して自室に戻って行った。ベッドに転がって天井を見上げ、今しがた父から聞いた事を思い返す。確かに幼い頃の自分は、大人しくて人見知りで引っ込み思案で。いつも部屋で本を読んでいたように記憶している。外で遊べなかった分、空想の世界で遊んでいたのだ。その名残だろうか、運動部に入りワイルドな口調になった割に読書家だ。頭でっかちでは無く、かといって脳味噌まで筋肉なわけでもない。このバランスは両親のおかげなのだろう。感謝しなくては……。
珍しく殊勝な事を考えていたが、ふと時計を見るといつもランニングをしている時間が近づいていた。ケータイを取り出し、くるみにメールをうつ。
『気持ちの整理はついた。走るのは止めない事にした。それと……今日はごめん』
何が『ごめん』なのかは、自分でもよく分からない。途中で敗退した事なのか、或いは一人で帰ってしまった事なのか。それとも自分の未熟さについてなのか。ハッキリしないが、それでも『ごめん』を伝えずにはいられなかった。そして伝える事によって、胸の中のモヤモヤが少し晴れたのも事実だった。
手早く準備を整えて、夜の街を走って行く。もう一人の『ごめん』を伝えなければいけない相手に会うために。沙綾=ヌアサに会うために。
予定よりも長くなってます。取りあえず出来た部分からUPします。
1/1一部改稿。




