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【08】集団ボイコット

 その日、三室仁と下山根浩二は学校を休んだらしく、教室に来なかった。

 鬼泉正輝は授業中、机の下で隠れてスマートフォンをいじっていた。

『天獄会 渋谷』

『天獄会 ラピス』

『帝林高校 天我元斗』

 このような文章を検索サイトのテキストフィールドに打ち込んで検索してみるが、ニュースなどは掲載されていなかった。

 次に、SNSのつぶやきをいくつか遡っていくと、ある投稿が目に留まった。

 ──「渋谷ラピスの裏通りで、昨日の夜中に男たちが血まみれで倒れてた。警察も来たけど、あれ絶対ヤバい連中だろ…… #天獄会?」

 鬼泉正輝の指が止まった。

 別の投稿には、

 ──「帝林の近くで爆音バイク軍団、怖すぎて泣いた。#白虎隊かも?」

 などの言葉も見えた。

 だが、インターネットからはこれ以上有益な情報は掴めなかった。

(…なぜ表沙汰に事件にならないんだ? 明らかに、ただの遊びの域を超えているというのに…)

挿絵(By みてみん)

 鬼泉正輝が新たな検索ワードを考えていると、

「鬼泉くん! 授業中はスマートフォンをしまって下さい!」

 授業を担当していた、教師の南沢理恵子に注意されて、鬼泉正輝は慌ててスマートフォンをカバンに入れた。

 そして、鬼泉正輝は慌てて教科書を開いた。

「良かったわねぇ、鬼泉。下山根と三室、遊んでくれる不良達が今日はサボりで。さぞかし今日は平和な一日でしょうねぇ」

 その様子を見ていた葵馬咲希が、侮蔑した表情で鬼泉正輝に言った。

「え?あはは!どうだろ?ごめん」

 鬼泉正輝がはにかんで笑った。

「何意味もなく謝ってんのよ。全く、本当に、アンタには朱雄君の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいわ。あたし、弱っちぃ男大っ嫌い」

「朱雄くん? あの、朱雄君って誰かな?」

 鬼泉正輝が葵咲希の言葉に反応した。

「雪塚朱雄君。かすみの兄貴。天獄会朱雀隊の四天王で、最強格。超強い上にカッコいいんだ」

「ふ、ふーん、そんな人がいるんだ。雪塚朱雄君って人も四天王なんだね。何年生なの?」

「帝林高校の三年生よ。あと、そんなことも知らない、アンタみたいなバカも、大っ嫌い。アンタなんかが天獄会に入ることなんて絶対無理ね」

「い、いや、喧嘩は嫌いだから、ぼくは天獄会に入るのは、やめておくよ」

 弱々しく答える鬼泉正輝を見て、葵馬咲希はため息をついた。

「では、次の問題、鬼泉君、答えて下さい!」

 突然、南沢に指されて鬼泉正輝は硬直した。

挿絵(By みてみん)

 中学校もまともに卒業していない鬼泉正輝には解けるはずもなかった。

「これ、中学受験生の問題ですよ?鬼泉君!」

「す、すみません!」

 そう言って鬼泉は机の上で震えた。

 南沢はため息をついて葵馬咲希を再び指名すると、葵馬咲希はスラスラと答えて着席した。

 そして葵馬咲希が再び鬼泉正輝を睨んだ。

「なんでこんな簡単な問題も解けないの? アンタ、喧嘩も弱ければ頭も弱いのねぇ。なんも取り柄無いじゃない」

 心無いことを葵馬咲希に言われた。

「あはは、確かに。あの、葵馬さんは、そんなに頭良いのに、何で帝林高校に?」

「あたしは、家庭の事情で、授業料免除の上給付金も貰える、この底辺不良高校に特待生で入学するしか、選択肢無かったのよ。全く、なんでアンタらみたいな不良連中と机並べて授業受けなきゃならないのよ」

「そ、そうなんだ、ごめん」

 そう言って鬼泉正輝は困った表情で笑った。

 葵馬咲希は、そんな情けない上頼りない鬼泉正輝を横目にため息を吐くと、立ち上がった。

 そして机をバンと叩いた。

挿絵(By みてみん)

「あと、アンタ、かすみには近づかないでよね! あんたみたいな学力も無い底辺軟弱男と違って、かすみは、とってもいい子なんだから。近づいたらあたしが承知しないからね!」

 葵馬咲希が鬼泉正輝に向かって突然叫んだ。教室の全員が葵馬咲希に注目した。

 葵馬咲希は、教室内を一瞥すると、フンッと鼻息をあげた。

 そして、授業中にも関わらず、葵馬咲希は南沢理恵子の静止を無視して、教室から去った。

 その葵馬咲希の後姿を鬼泉正輝が冷静に見送った。

「あ、あの、葵馬さん、どこに行くの?」

 南沢理恵子が呟くように言った。学級委員の葵馬咲希に授業をボイコットされて、南沢理恵子がオロオロとたじろいていた。

 すると、教室の中の不良数名も立ち上がった。

「あー、理恵子ちゃん、俺らも友達が来るんで出かけるわ」

 立ち上がった不良のうちの一人が南沢理恵子に言った。

 立ち上がった不良数名はそのままゾロゾロと教室から出た。

「ちょ、ちょっと皆さん! ちゃんと授業を受けないと! 授業受けて下さい!!」

挿絵(By みてみん)

 南沢理恵子が慌てて叫んだ。 だが、結局、教室の中の生徒達は、南沢理恵子の静止を聞かず、失笑しながら、皆、全員教室から出ていった。

結局、教室には鬼泉正輝だけが残った。南沢理恵子は、教室に一人残った鬼泉正輝を見て、はあっと深くため息をついた。

挿絵(By みてみん)


 葵馬咲希は下校のため、玄関で上履きから靴に履き替えて帝林高校の校門出口に向かった。

挿絵(By みてみん)

 校門を出て間も無く、後ろから二人の帝林高校の男子生徒が付けていることに気付いた。

 不審に思った葵馬咲希は、帰路へと早足で歩いた。

 すると、道路の前からも二人の男子生徒がやって来た。

 葵馬咲希はそれら四人の男子生徒に囲まれた。

「な、何よあんたら。もしかして亀元の舎弟?」

 葵馬咲希が四人に対して聞くと、四人のうちの一人が進み出て言った。

挿絵(By みてみん)

「葵馬、テメェ、昨日、亀元さんからの着信に出なかっただろ。なに亀元さんの誘い無視してんだよ!」

 その男を鋭い目で葵馬咲希が見返した。

「誰があんな筋肉バカの誘い付き合うってのよ。あんた達が相手してあげれば良いでしょ?」

 この不良の巣窟帝林高校に入学以来、葵馬咲希は、ヘビのように執念深い亀元武史の執着に心底辟易していた。

 すると、その男が葵馬咲希の右腕を掴んで実力行使に出た。

 今ここで葵馬咲希を亀元武史の元に連れて行かなければ、ただの天獄会玄武隊の一メンバーでしかない自分達の居場所は、ない。

「痛いわね、離してよ!」

 葵馬咲希は手を振り解こうとした。

 だが、他の仲間の不良高校生も葵馬咲希の腕を掴んだ。葵馬咲希は逃げられなくなった。

「とにかく亀元さん、怒り狂って手がつけられねぇんだよ。さっさと来いや!」

 そう言って男達四人は抵抗する葵馬咲希の腕を引いて連れて去っていった。

(怖い、なんであたしがこんな目に……)

 普段気丈な葵馬咲希であったが、身体的な危害を加えられると、父親の記憶と加えられた痛みが蘇り足が震えた。

 帝林高校の校舎の窓から、鬼泉正輝はその光景の一部始終を見ていた。

挿絵(By みてみん)

(ちょうど良い・・・か・・・?俺は暴力しか使えない。暴力は痛みしか呼ばない。ならせめて、悪党どもを少し痛い目に遭わせるだけだ・・・)

 鬼泉正輝が踵を返し校舎の出口に向かった。

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