【19】朱雀の熱き炎
12月26日(金曜日)早朝
「ねぇ、君達、二年三組ってどこ? 案内してよ」
廊下を歩いていた下山根浩二と三室仁は突然、背の高い金髪にピアスをした男に話しかけられた。
「あん?」
下山根浩二が金髪ロングヘアの方を向いた。その金髪ロングヘアの長身の男は、ただの高校生とは思えない、芸能人のような華やかさと、どこか危うい空気をまとっていた。
「あ! 貴方は!!」
三室仁が金髪ロングヘアを見て驚いた。下山根浩二と三室仁がその金髪ロングヘアを後に連れて二年三組の方に歩いて来た。
「ねぇねぇ、誰あの人。かっこよくない?」
「うん、あんなイケメン、うちみたいな不良高校に居たんだ」
帝林高校二年生の女子生徒達が金髪ロングヘアを見て噂した。鬼泉正輝は帝林高校に登校すると、教室に着き、カバンを置いた。
「あ、おはよ、葵馬さん」
鬼泉正輝が葵馬咲希に挨拶した。
「ん、おはよ。……って、だからぁ! 気安く話しかけないでっていつも言ってるでしょ、鬼泉。大体……あっ!」
鬼泉正輝を叱ろうとして教室の入り口の方を振り向いた。
そして、下山根浩二、三室仁、その後に金髪ロングヘアにピアスをした男の姿を見て声を上げた。
「あ……あああ……」
葵馬咲希が金髪ロングヘアを見て絶句する。その葵馬咲希を見て金髪ロングヘアがにこやかに微笑んだ。
「朱雄君! 何でうちのクラスに?」
「よっ! 久しぶりだね! 咲希ちゃん。かすみといつも仲良くしてくれてありがとう」
葵馬咲希が口をパクパクさせた。
「それより、咲希ちゃん、鬼泉正輝君って知ってる? このクラスにいるはずなんだけど?」
朱雄と呼ばれた金髪ロングヘアが、金魚のように口をパクパクさせている葵馬咲希に尋ねた。
葵馬咲希は、そのままの状態で鬼泉正輝を必死に指差しした。
「君が、鬼泉正輝君?」
朱雄と呼ばれた金髪ロングヘアが鬼泉正輝に語りかけた。
「え? ああ、はい、僕が鬼泉正輝です」
「俺、雪塚朱雄。この帝林高校の三年で、かすみの兄貴さ。なあ、正輝、いきなりだけど、今からさ、暇ある?」
「え? あ、はあ……暇あるかと言われても、今登校したばかりですけど……」
正輝は雪塚朱雄の笑顔をしばらく観察していた。屈託のない明るい笑顔だった。その純粋さが逆に底知れない実力を滲み出しているかのようだった。
「おう、そうか。なぁに、まぁ、大丈夫っしょ! たまには授業なんかサボろうぜ。よっしゃ! 一緒に遊びに行こうぜ!」
そう言って雪塚朱雄は鬼泉正輝の肩をバンバン叩いた。
「おいおい、あの人、帝林高校の三年、天獄会朱雀隊の隊長、天獄四天王の雪塚朱雄君だぞ」
「なんで転校生の鬼泉を遊びに誘ってんの?」
「何者だよ、あの鬼泉って転校生。実は、ヤバい奴なんじゃ……」
「鬼泉正輝って、雪塚朱雄君と何の関係があるの? 一体」
「一体どうなってんだよ、このクラスは」
クラス中が鬼泉正輝と雪塚朱雄のやりとりを見て騒然となった。
「咲希ちゃん。鬼泉正輝君、借りてくけどいいかい?」
雪塚朱雄に聞かれて葵馬咲希はようやく意識を取り戻した。
「は、はい! もちろんです! で、でも何で鬼泉を?」
「何で、も、かんでも、俺に、鬼泉正輝君の面倒見て欲しいってかすみ言ったのは、そもそも咲希ちゃんでしょ?」
「あっ!」
葵馬咲希は、ようやく、雪塚かすみに、兄に鬼泉正輝の面倒を見てもらうようお願いしたことを思い出した。
亀元武史の拉致行為から救ってくれた、お礼としてだった。
「じゃ、後は任せてね! またね咲希ちゃん」
そう言って、雪塚朱雄は、鬼泉正輝を連れて教室の出口に向かっていった。葵馬咲希は、呆然と、鬼泉正輝を連れて教室を出る雪塚朱雄の後姿を眺めた。
かつて不良達から彼女を救い、家庭環境の事でも親身に相談に乗ってくれた雪塚朱雄との突然の再会に、葵馬咲希の胸はまだドキドキと高まりが抑えられなかった。
鬼泉正輝が、雪塚朱雄に連れられて校舎を出ると、一四人の不良達が雪塚朱雄を待っていた。
「お疲れ様です、朱雄さん」
一四人が一斉に雪塚朱雄に挨拶した。
「あ、あの、彼らは?」
鬼泉正輝が雪塚朱雄に問いかける。
「あ、こいつらね、俺の仲間達。天獄会朱雀隊のメンバーさ。ま、みんな良い奴らだから、お前もすぐに仲良くなれるさ。よし、じゃあ、行くぜ、正輝」
鬼泉正輝と雪塚朱雄、そして、14人の天獄朱雀隊のメンバーは、渋谷区のダーツバーに向かった。
渋谷の朝の喧騒に吸い込まれていくように、鬼泉正輝の運命もまた、新たな渦に巻き込まれていった。
雪塚朱雄と鬼泉正輝、他天獄朱雀隊の14人はダーツバーに入った。
全体的にブラックの配色で統一して装飾された店内で、壁面にダーツマシンが光を放ち並んでいる。ツンとニコチンの匂いがした。部屋の中はタバコの煙で澱んでいる。
天獄会朱雀隊の面々は、活気に溢れ、互いに笑いながらダーツをしたりジャンク菓子を手に取ったりして談笑していた。ダーツマシンの機械音が小気味よく鳴り響いていた。
どうやらこのダーツバーが天獄会朱雀隊の溜まり場らしい。
「あ、あの、僕に何か用かな?」
大勢の朱雀隊の隊員に囲まれ、居場所の見つからない鬼泉正輝が恐る恐る雪塚朱雄に聞いた。
「ああ、そうだな。まずは自己紹介するか。俺はね、雪塚朱雄。アケオって呼んで」
そう言って雪塚朱雄は微笑んだ。
「う、うん、僕は鬼泉正輝、正輝でいいよ」
居心地悪く、冷や汗をかきながら鬼泉正輝が答えた。
「なあ、正輝、お前、強いか?」
「えっ?」
すでに真の力を判別されたのか?
咄嗟に鬼泉正輝の警戒心が疼いた。
「ダーツ」
そっちか……
鬼泉正輝は肩透かしを受け肩の力が抜けた。
「あ、いや、全くやったことないよ」
「おう、そうか!よし、じゃあ俺が教えてやるよ!」
そう言って雪塚朱雄はにこやかに笑い、正輝と肩を組んだ。
笑えばいいのか戸惑いつつ、朱雄に肩をバンバン叩かれた。
そして、雪塚朱雄は、ダーツマシンに小銭を入れて準備を始めた。




